Road to Goa – 黄金のゴアへ
■黄金のゴアへ
バイクと地図を手に入れた僕が向かったのは、オールドゴアと呼ばれる旧市街地。『黄金のゴア』と呼ばれ、かつてポルトガル領だった時代の名残をよく残し、多数の教会は世界遺産にも登録されている。勝手なイメージでアンジュナの近くだと思っていたのだが、ナビでルートを見るとバイクで45分ほどの距離と意外と遠い。
インド路上デビュー初日でロングツーリングは不安だったが、まあ行けるだろうとヤマハのスクーターに乗り込んだ。インドの道は日本と同じ左側通行で走りやすいが、凸凹なども多く信号はほとんど無い。
細い田舎道を抜け国道に合流すると交通量は一気に倍増する。
クラクションは追い抜く時や割り込みする時など常時鳴らしまくりで、車線というものが基本的になく、進める隙間を塗って走るカオスなスタイル。しかし人の順応力は凄い。そんなインド式のハードコアな交通事情にもすぐに慣れ、賄賂を要求されると聞いていたので警察に呼び止められないようにだけ注意しながら快適にバイクを走らせた。
検問をやっているような大きな交差点の前では、一人で突っ込まずインド人の後を着いていくのがポイントだ。大きな川を渡り、左折して高速道路のような快適な道を進むとオールドゴアという看板が見えてきた。
さすがはゴア州きっての観光地、大型バスも見えたり白人観光客の団体などもいた。
僕がなんとしても行きたかった教会がボム・ジェズ教会。ここはかの有名なフランシスコ・ザビエルの遺体がミイラとなって安置されている教会で、日本で隠れキリシタン史跡などを旅したことのある自分にとって、どうしても行っておきたい場所だった。
教会なので特に入場料もなく、団体客と一緒に中へ。正面右の巨大な祭壇の上に、ザビエルのミイラを安置した棺が微かに見えた。インド人たちも皆興奮してスマホで写真を撮りまくりだ。しかしキリスト教は凄い、土地や場所に関係なく故人の遺物によってもそこが聖地と化してゆく。
時間に余裕があったので市街地を散策。
オールドゴア一帯には昔から多数の教会があったが破壊されたものも多く、オランダの攻撃やインドの独立などで、当時建てられたキリスト教系の聖堂や建造物の残っているものは殆どが修復されたものだそう。
聖アウグスティヌス聖堂などは塔の部分以外は崩れ落ち、廃墟同然の姿だった。遥かなるこの地からザビエルは旅を続け、日本へキリスト教を伝えたのだと思うと気が遠くなった。
布教のためには命をもかける。その熱が辺境の民日本人をも多数改宗させ、その後熱心な隠れキリシタンにさせたのだろう。人の意思は時間と空間を易々と越えるいい例だと思う。
大満足した僕はまたバイクを走らせアンジュナへ。
■ゴア州はインドで唯一カジノ経営が許可
帰りは橋を使わず、ゴア州の州都でもあるパナジから渡船に乗ってみた。交通量が多いのでピストン輸送しており、岸壁で待っていると向こうからすぐにやってきてくれる。日本と同じで渡船は公共交通機関らしく料金は無料。船長が操舵室に入れてくれ、海賊の様な巨大な舵で運転する姿はカッコ良かったが、後ろの2段ベッドで船員が3人くらい昼寝している姿がなんともインド的。船上から景色を眺めていると、沖合に何層ものド派手な客船が錨を下ろし停泊しているのが見えた。
後から分かったのだがこれらは全て船上カジノだった。ゴア州はインドで唯一カジノ経営が許可されてるが、それは陸上ではなくクルーズ中の船内だけらしい。
一応ドレスコードもしっかりあるようなので、短パンしか持ってなかった今回の旅ではついに行く機会はなかったが、機会があれば是非一度はトライしてみたい。
■ヒッピーたちが始めたフレアマーケット
対岸に到着し、二日目の夕日はやはりアンジュナビーチで見たいとバイクを走らせていると、ビーチまであと一息というところで道の両サイドに延々と竹や木の棒で作られた掘建て小屋が並ぶエリアを通りかかった。通りすがりのチリ人とフランス人のカップルに聞くと、これらはなんと全て市場の店の屋台で、毎週水曜日に開くらしい。
その昔ゴアでヒッピーたちが始めたフレアマーケットは有名だが、それが土地に根付いてすっかりインド社会に定着しているのだ。そのエリアはバイクで走っても走ってもなかなか終わりが見えない巨大なものだった。
本当に毎週これらの店全てが開いてるのかと疑問だったが、水曜日は明後日。アンジュナ滞在の楽しみがまた一つ増えた。
マーケットのエリアを進んでいくといつの間にか地面が砂浜になり、シームレスにビーチに出ることができた。日本の様にインフラ工事され過ぎていないインドのこう言う所は大好きだ。
ただサンセットのピークタイムにビーチでバイクを止めると、アンジュナではどこでも駐車場代を取られてしまう。日がだいぶ傾いてきていた。どこからともなく近寄ってきたおばさんに100ルピーを支払い、急ぎ海へ。
初めて訪れる憧れの地アンジュナビーチは想像していたより狭く、体感的には昨日訪れたバガトールビーチの半分くらいの大きさだった。
岩場も多く、隙間なくビーチハウスが立ち並ぶため開放感もそれほどない。しかしその分人口密度は高く、至る所から聞こえてくるトランスミュージックと合わせ浜辺全体がパーティー会場のような雰囲気。
そしてこの日の夕日は格別で、なんと通常は寒冷地でしか見ることのできないサンピラーという自然現象を見ることができた。水平線に太陽が近づくにつれ、太陽から垂直に立ち上がる光の柱が肉眼でもハッキリと見える。
時間にしてほんの10分ほどだが奇跡のような美しさ!その後毎日夕陽を見たが、この現象を再び目にすることはついになかった。遥々約束の地を訪れた自分へのご褒美のような光景に感動し、ひたすらカメラのシャッターを押し続けた。
その後、夜に友人たちがアンジュナのショア・バーでイベントをしているので会場へ。
■夕陽に始まり夕陽に終わる
着いて驚いたのがたった数時間の間に潮が満ち、あれだけ広かった砂浜がほとんど無くなっていること!みんな靴を脱ぎ、くるぶしまで濡れながらビーチハウスからビーチハウスへ移動していた。夜の海を緑や紫のサーチライトが照らし、そこはさながら世界の果て、海が果つる場所のダンスフロア。バーのインド人スタッフたちも皆気さくで、僕が着古したタイダイのTシャツをあげると凄く喜んでくれ、ずっと自分の服の上から着て踊っていた。ゴア2日目の夜はこうして更けていった。
結局ゴアの滞在は、夕陽に始まり夕陽に終わる日々だったように思う。
次の日もサンセットを見にバガトールビーチの高台にある丘へ。途中道を塞いで牛が角をぶつけ合って大喧嘩していた。露天の親父たちが竹竿でぶっ叩いて引き離そうとしているが、興奮した牛は全く人間のことは眼中にない様子。
インドに来てすっかり牛のいる日常に慣れていたが、普段は静かでも怒った時の力はやはり物凄いものがある。さすが神聖な動物。とても人がかなう相手ではないので脇を擦り抜けて高台へと急いだ。
この日は写真を撮っているとサムという43歳のネパール人観光客に話しかけられた。
日本のカメラは素晴らしいとか、CanonとNikonとどっちがいいんだ?などしばし写真談議。彼はここ5年ほど休暇をアンジュナで過ごしているそう。ハイシーズンのゴアには季節労働のネパール人シェフが多いため、食事が肌に合うと言う。
バイクに乗る時は必ずヘルメットを被れ、危ないぞ!と言い残して自分はノーヘルで行ってしまった。
■ゴアのハイシーズンは年々短く
夜はMASAさんがアンジュナの名店グル・バーでDJをするとSNSにアップしていたので行ってみた。四国にも何度も来て頂いていたので、しばしゴアでの再会を喜ぶ。プレイを聞きながらキングフィッシャービールを飲んでいると、会場に日本人の姿が見えたので話しかけてみた。その女性はゴアに住んでおり、前はもっとフリーパーティーが多かったなど、アンジュナの昔話を色々聞くことができた。ゴアのハイシーズンは年々短くなってきていて、昔は年末くらいからずっと盛り上がっていたのが、今では2月と3月だけになっているそうだ。年々警察の取締りも激しくなっているようで、ゴアも日本のように規制だらけで大人しくなってしまう日がいつか来るのだろうか。
マプサの市場でのオススメの店などを教えてもらい、FBのアカウントなどを交換して別れた。昔の旅なら行きずりで終わったのだろうが、SNS時代はなんとなく緩く繋がれるのは嬉しい。今も彼女のアカウントでゴアの今の情報がタイムラインに流れてくると、一気にあの時の気持ちが蘇るようだ。
宮脇 慎太郎
1981年香川県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、日本出版、六本木スタジオなどを経て独立。大学在学時より国内外への旅を繰り返した後、2009年奄美皆既日食音楽祭を節目に高松に活動の拠点を移す。辺境bの聖性をテーマに風景やポートレートの撮影に取り組んでいる。
2012年から仲間とBookcafe solowを運営。2015年、日本三大秘境祖谷渓谷を撮り続けた写真集『曙光 The Light of Iya Valley』をサウダージブックスより出版。写真を大幅に追加してのバイリンガル版『霧の子供たち』を2019年に出版した。
次作に初のノンフィクション『ローカル・トライブ』、宇和海沿岸を撮り続けた『rias land』などを予定している。瀬戸内国際芸術祭2016、2019公式カメラマン。
1981年香川県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、日本出版、六本木スタジオなどを経て独立。大学在学時より国内外への旅を繰り返した後、2009年奄美皆既日食音楽祭を節目に高松に活動の拠点を移す。辺境bの聖性をテーマに風景やポートレートの撮影に取り組んでいる。
2012年から仲間とBookcafe solowを運営。2015年、日本三大秘境祖谷渓谷を撮り続けた写真集『曙光 The Light of Iya Valley』をサウダージブックスより出版。写真を大幅に追加してのバイリンガル版『霧の子供たち』を2019年に出版した。
次作に初のノンフィクション『ローカル・トライブ』、宇和海沿岸を撮り続けた『rias land』などを予定している。瀬戸内国際芸術祭2016、2019公式カメラマン。