どこにでもいて、やたら押しの強いカシミール商人の謎を解く
■どこにでもいるカシミール商人
今回は、インドやネパールにおいて、どこにでもいるカシミール商人たちの事を書いてみたいと思います。 カシミール商人たちのお店はインド全土の、あらゆる観光地に存在しています。インドやネパールを旅した人であれば、意識していなくとも、必ず一回はカシミール製品を扱っているお店を見かけ、中に入ったことがあるはず。カシミールショールや、チェーンステッチ製品や、ペーパーマッシュ製品などを販売しているのが特徴です。
手塗りのカップなども売っていることがあります。
彼らはインドやネパールの至る所にいて。至る所でお店を開いています。
カトマンズでも。
デリーでも
コルカタでも
アーグラでも
プシュカルでも
ジャイプルでも。
マナリでも。
およそツーリストが訪問しそうな、ありとあらゆる場所にカシミール商人たちがいます。え!ここにもカシミールのお店が?とビックリする位どこにでもあります。
そして、ヒゲもじゃのカシミール商人に呼ばれて一旦お店の中に入ったら最後、次から次へと商品を広げられ、しつこく商品を勧められ、なんとかして買ってもらおうと強力なプッシュをしてきます。
ちょっとまってくれ!!!
なんでお前達はインド中にいるんだよ!!!!
他の地域の商人たちはあまり見かけないのに、カシミール商人だけはインド中にいるぞ??
なんでなんだ?
先日、カシミールを訪問し、長年分からなかったその謎が、やっとこ解けました。
カシミールはずっと紛争で大変だったんだ。
とザヒッドさんが色々説明してくたのを、わかりやすく書いてみました。
■この世の天国シュリナガル
広いインドの中でも、カシミール、そしてシュリナガルはこの世の天国とも言うべき場所です。ヒマラヤの山中にあるダル湖にはボートが並び。湖畔で暮らしている人々がいて。
ボートが日常の足として使われていて、木材などの大きな荷物を運んでいる姿も目にします。
遠くに見える山々は美しく。
空気は澄んでいて、空は蒼くて。
シュリナガルはとにかくこの世の天国なのでした。
そしてシュリナガルには、数多くの手工芸を作っている人たちがいます。
ひと針ひと針、チクチクと塗ってショールを作るおじいちゃん。
手彫りで家具を作る職人さん。
金属のコップにデザインを描くおじちゃん。
彼らはその昔から、この地において、ハンディクラフトを作り続けてきました。
■1980年代まではツーリストの天国だった
1980年代までは、彼らが作っているハンディクラフトを買い支えていたのは、たくさんの旅行者たちでした。カシミールはインドとパキスタンが長らく領有権を争っている場所で、正常不安定な場所です。
かつてはジャンムー・カシミール藩王国の自治領でしたが、1947年にイギリスによる植民地支配が終わると、ジャンムー・カシミールはインド帰属となりました。
以降、インドとパキスタンはカシミール地方の領有権をめぐる争いを繰り返しました。イギリスから独立した2カ月後には第1次印パ戦争、65年には第2次印パ戦争、71年に第3次印パ戦争がそれぞれ勃発。現在は、国連が監督する停戦ラインが合意され、それぞれがカシミール地方の一部を実効支配しています。
そんな中でも情勢が安定している時期には、カシミールは旅行者であふれ、インドの中でも特に人気の旅行先でした。美しい景色の中に住み、自分たちの制作したものを買ってくれる旅行者で溢れていた時代は幸せだったと、案内してれたザヒールさんは言います。
■紛争がすべてを変えた
30年前、インドからの独立と、パキスタンへの編入を求める分離主義者による紛争が始まりました。街の至る所で暴動が起き、毎日のように銃の発射音が聞こえ、家の中にまで警察が入ってきて、調査されるような日々がやってきたのです。人々は分断され、性格までも変えてしまいました。カシミールの人々の9割は鬱だという統計があり、他のインドと比べると、自殺率が高く、口数少なく、シャイな人々が多いのだそうです。それはすべて紛争のせいで、昔はそうでなかったのだとザヒッドは言います。昔はツーリストが多く、楽しく喋って、明るい人々が多かったのだと。
紛争の中で、カシミールの人々は困窮し。
新天地を求めて、インドのあちこちに流れていきました。
その結果が、冒頭に書いた「インドのどこにでも居るカシミール商人」たちの出現です。地元で頑張って商品を作っている仲間たちの生活を支えるために、とにかく彼らは必死で売ります。客からしつこいと思われようが、頑張って売らなければいけない事情があります。故郷を離れて生活するだけでも大変なのに、故郷で頑張っている仲間たちの生活まで背負ってお店を出しているのですから。それは必死になるでしょう。
この世の天国から出たくなかっただろうに。
住み慣れた場所から引っ越しなどしたくなかっただろうに…。
今までは「なんでこの人たち、しつこいのかな…」と、嫌がっていたカシミール商人たちですが。
彼らの悲しい歴史を思うとき、今までよりもちょっとだけ優しくなれそうな気がするのです。