インドにおける諸行無常 かつて栄華を誇ったチェティアール商人の豪邸を訪ねる
今回は南インド、タミル・ナードゥ州に、チェティアールと呼ばれた豪商の邸宅があると聞いて訪問してきました。
南アジアを股にかけ、栄華を極め、競って故郷に豪邸を建築した豪商たちの夢の跡が、1軒だけでなく、その地域に何千軒もあるのだそうです。
インドの奥地に豪邸の廃墟がたくさんあるって言う話を聞いたんだけど?
どういう事なんだろうか?
■豪邸はド田舎に
訪問した場所はチェティナドゥと呼ばれる南インドのこの地域です。クリックすると、GoogleMapに飛べますので、詳しく知りたい人は見てみてくださいね。実際に行ってみたのですが、タミル・ナードゥ州の内陸部にあり、アクセスも悪く、本当になにもないところでした。あまりに田舎なので、第2次世界大戦前に、南インド、スリランカ、ビルマを股にかけ、栄華を極めた商人たちの地元なのだと言われても、すぐには信じられません。
とは言うものの、地図を見てみると、たしかに海に面し、いろいろな国にアクセスが容易な立地ではありますね。
■豪邸の名残を嗅ぐ
豪邸に赴く前に、カライクディにあるアンティークショップを訪問してみました。なんでも、カライクディのアンティークショップには、その豪邸からやってきたと言うアンティークがたくさんあるのだそうです。バスに乗ってカライクディに到着し
南インドらしい寺院のゴープラムを横目に見て、アンティーク通りへ向かいます
市場はいつものインドです
石造りの小道を歩いていくと…
アンティーク通りに到着。アンティーク通りと言っても、お店の数は7-8軒くらいなのかしら。そこまで大きいアンティーク街ではありません。でも…一旦お店の中に入ってみると。
1900年代初頭に人気を博したラヴィ・ヴァルマの絵がたくさん待っているではありませんか!!
ちなみにラヴィ・ヴァルマとは、1906年に亡くなった生まれの有名なインドの画家です。没後120年経過している画家の絵がこんなにある!と言うのが驚きポイントなのですね。
何だこりゃ!! すごいコレクションすぎて鼻血が出る!!!
ホーローも、小さなお皿から大きなものまでたくさんありました。
豪邸の中で使われていたと思われるブラスの道具たち。
古い看板に人形たち。豪邸の中で子どもたちが遊ぶために、そして飾るために使用されていたのでしょうか。
ビリーと呼ばれるインドタバコの看板や、いろいろな道具たち。
かつてのチェティアールたちは、こんな素晴らしいものたちに囲まれて生活していたのでしょう。
チーク材はビルマから、サテン材はセイロンから、大理石はイタリアとベルギーから、鋳鉄と鋼はイギリスとインドから、金属板の天井はイギリスから、タイルはボンベイ、日本、ドイツ、フランス、イギリスから、シャンデリアはベルギー、フランス、イタリアから輸入してきたそうです。
彼らは最高のものを求めたため、木彫り、フレスコ画、卵の漆喰塗りなど、インドのさまざまな地域から技術を持ち込んだとのこと。
ちなみにお値段は…
正直、買いたいと思うお値段ではなかったなぁ
■豪邸の名はアタングディパレス
チェティアールたちの豪邸はこの地域に10000軒ほどあるとされますが、彼らが栄華を誇ったのは第2次世界対戦前なので、そのうちの多くはすでに失われています。その中でもいくつかの本当に素晴らしい家たちが保存され、残されてると聞いてバスで行ってきました。アタングディパレスは、チェティナード地方の中心都市カライクディから、ローカルバスで20分走った場所にありました。バスを降りた所は、本当に何もない小さな集落でした。
見捨てられた田舎感が存分に漂ってる場所でした。
こんなところに近代史を飾った豪商たちの家があるのか?
ここがそうだよ。中に入るには 100ルピーだよ
すんげ〜〜〜〜!! 何だこりゃ!
世界中から集められたタイルを使った装飾や、財力を見せつけるがの如くの大広間
一つ一つの調度品、装飾は手が込んでいて
扉の上には金属で部屋の番号がリベットしてあり。このお部屋はすべて客室だったのだそうです。
かつてここでチェティアールの人々が饗宴を繰り広げたことが容易に想像できます。
この豪邸を作るのにどれだけの時間とお金がかかったんだろう…
■豪邸の廃墟があちこちに
アタングティ・パレスはよく保存されていて、中に入れる様になっていましたが、多くの豪邸たちは既に廃墟と化し、人が入れない状態になっていました。これも。
これも。
これも。。。
これも。。。。。
アタングティの町中には数多くの豪邸の廃墟があり、人々はかつての栄華の片隅で生活しているかのようでした。
■センスはやっぱり商人
そして見てて思うのは確かにお金がかかってて、大変豪華なのですけれども。センスがちょっと成金趣味だな
とにかく豪華であればいいとばかり全面にタイルを使っていたり。
人がたくさん集められるようにやたらでかい大広間があったり。
そしてお客さんがたくさん泊まれるように、ゲストルームがたくさんあったり。
お金を持つということと、センスがいいということはまた別の話なのですね。チェティアールたちは競って自分たちの財力を見せつけようとしたとのことですが、確かにそれも頷ける話です。
■インドにおける諸行無常
「祇園精舎の鐘の声。諸行無常の響きあり。盛者必衰の理を現す」平家物語がそう伝える日本だけではなく、インドにもまた諸行無常がありました。
長くは残らない木造建築の日本と違って、インドの建築は全て石造りなので、インドのそれは、より明確で、あからさまに残っているのでした。
いくら稼いでも、いくら仕事しても、いくら遊んでも。全ては諸行無常なのだなぁ。。。と思わせるチェティナード訪問。
そしてインド近代史に触れる旅でもありました。