スパイスを入れるための道具-マサラダバについて[インドモノ辞典]

■インドの主婦の必需品スパイスボックス
今まで、このブログでは、インドの主婦の必需品としてスパイスグラインダーと、チャパティパン(チムタとタワ)を紹介してきましたが、もう一つ必需品として挙げられるのが、今日紹介するマサラダバです。
マサラダバという名前だと検索しづらいので、ティラキタではスパイスボックスという名前で売っていますが、名前が違うだけで同じものです。
こちらのマサラダバ=スパイスボックス。
インドの家庭にお邪魔すると、必ず一個は置いてあるのですね。マサラダバはインドの主婦にとって、自分好みの味の料理を作る、絵の具のパレットのような調理道具で、インドのキッチンに必ず必要な一品です。
なぜインドのキッチンには、このマサラダバが必要なのか。
そしてどうしてそんなにも愛されるのか?
マサラダバを通じて、インド人のキッチンに隠された秘密を見ていきましょう。
■マサラダバの歴史
現在のマサラダバはステンレス製ですが、その昔は木製のマサラダバが使われていました。こちらの写真は大英博物館に収蔵されているスリランカで使われていたスパイスボックスです。


マサラダバにはいくつか役目がありますが、いちばん重要な役目は、使うスパイスをすぐに使えるように準備しておくことです。写真の木製のダバの内面の凹みにスパイスを入れていたのでしょうね。
ただ木製のマサラダバには大きな欠点がありました。
木製では湿気が防げないのです。湿気が多く暑い南インドの環境で、スパイスを乾燥させつつ保存しておくのは、木製のマサラダバでは難しかったのです。
マサラダバが木製からステンレス製になったのは1950から60年代のことです。長く使っても古くならず、木製よりは湿気が防げ、いつも新品でピカピカに見えるステンレス製のマサラダバはインドの主婦達に広く受け入れられました。

■マサラダバの使われ方とスパイス
マサラダバは手早くインド料理を作るための道具です。
マサラダバ=スパイスボックスはその名の通りスパイスを分類して入れておく箱。少量づつスパイスが分類して入れられているので、手軽にサッとスパイスを使えて、とても便利なのです。一つ一つのスパイスをいちいち袋から出して、計量していたら、手早く料理は作れません。
蓋が外側にだけついていて、中の小皿に蓋がないところや、内側が7から16個くらいに細かく区分けされている所は、すべて手早く料理を作るため、長年の間にブラッシュアップされた機能です。蓋を開けるだけで、全てのスパイスが手際よく使える構造になっています。

ISO(国際標準化機構)が列挙しているスパイスの種類は109種類にも上りますが、インドの家庭では通常7から8種類のスパイスを使用しています。インドのレストランで使っているスパイスの数はもうちょっと多く、15種類ぐらいのスパイスを分類し使用しています。
インド料理の基本であり奥義であるタルカという手法があります。タルカとは、油が熱い時にスパイスを入れスパイスの香りをより引き出す方法なのですが、それを行うときに、スパイスを手際よく投入するために、このマサラダバがあるとも言えるのです。

■マサラダバの中身
マサラダバの中には通常、胡椒、クローブ、ナツメグ、唐辛子、塩、砂糖、ターメリック、クミン、フェネグリーク、ガラムマサラなどが入っているようです。
ですが必ずしもこの組合せではなく、その土地で取れるスパイスと、レシピによって中に入ってくるスパイスは変わります。
ハイダラバードの家庭ではアンドラプラデーシュ特産のグントゥールチリが中に入っていますし、南国ケララでは粗挽きココナッツが入っています。マサラダバにウラドダルを入れる地域もあります。

インドでは信仰している宗教によって食べるものが異なるので、異なる宗教のお宅のマサラダバには、やはり別々のスパイスが入っています。

あと、マサラダバの中にお砂糖が入っている場合も多いですね。
マサラダバの中にお砂糖が入ってるの?と不思議に思いますが、お砂糖はインド料理にとって割と欠かせないものです。スパイスを入れた後、どうしても味がまとまらないという時に、お砂糖を入れると、全てのスパイスの味がまろやかに融合してくる傾向がありますし、お料理全体にコクが出ますね。
ここ最近、インドがグローバル社会の中の一員になり、インド人が西洋の味を知るようになったので、やはりマサラダバの中も変わってきているようです。
オレガノとチリフレークなど、かつては見られなかったスパイスがマサラダバの中に入り込んで来てるのだそうですよ。
