チャパティを作る道具 – チムタとタワについて[インドモノ辞典]
■インドカレー屋さんといえばナンだが
日本のインドカレー屋さんで、パンっぽいものを頼むと基本的にナンが出てくると思います。ふわふわもちもちのナンは、日本人の味覚と相性がよく、みんな大好きですよね。実際、私の母親も「ナンを食べにインドカレー屋さんに行きたいわ」と真顔で言っていますし。インドに詳しくない多くの一般的日本人の感覚は「インド=ナン」であると思います。
しかし、実際にインドに行くと、みんなが大好きな、ふわふわもちもちナンはありません。ナンもあると言えばありますが、日本のインドカレー屋さんで出てくる、ふわふわもちもちのアイツはインドには、ほぼ存在しません。
我々日本人は、日本でレストランを開いているインドとネパール人全員に騙されていると言ってもいいくらいです。
インドの人たちは、ナンではなく、チャパティを食べています。
チャパティはインドに行くと、毎食毎食、飽きずに出てきますね。
チャパティとは薄くてぺらっとした円形のもので、小麦粉に水を加え、発酵させないで作った生地を、伸ばして、焼いて作ります。
チャパティは小麦粉の味がそのまま出ているシンプルな味わいで、地味で主張せず、じんわりと美味しい。そう、チャパティはお米のようなやつです。毎日主食として食べられる飽きない料理です。
インド人たち、チャパティが好きで、全自動チャパティマシンなんてものも作ったりしています。
一時間にチャパティが4000枚! シーク教寺院にある全自動チャパティマシンが凄かった
■チャパティを作る道具 - チムタとタワ
そのチャパティを作る道具として、チムタとタワという2つの道具があります。インドやネパール、パキスタンなど、チャパティ文化圏に特有の道具ですね。
チムタはチャパティ専用のトング。
タワはチャパティ専用のフライパンです。
タワと呼ばれる鉄のフライパンは、これがないとチャパティが作れない!と言う一番大事な道具です。このタワは、ちょっと厚めの鉄であることと、微妙に湾曲している平面なことがとても重要です。
厚めの鉄は熱を均等に保持し、チャパティをむらなく上手に焼くため。
平べったいシェイプは、チャパティを作る際に、ひっくり返したり、スルッとタワの上からお皿に滑らしたりするためにあります。
実際にチャパティを作ってみると判るのですが、やっぱり、この平べったい鉄のタワが一番上手にチャパティが焼けるんですね。フライパンだと縁のところが引っかかって邪魔ですし、テフロン加工されているフライパンだと、綺麗な焼き目がつかず、ぷっくりと膨らみもしません。
チャパティ用のトングであるチムタもまた重要な道具です。
チムタの先端は平べったい形をしているのですが、この平べったさが大切なのですね。
チャパティは、チャパティを焼く最後の段階でぷっくりと膨らませ、カリッとしたクリスプな感じと、焦げ感を出します。上手に焼けたアツアツのチャパティはそれだけで何枚も食べられてしまうほどの美味しさです。
この美味しさを出すのに「最後のぷっくり」が重要なのですが、先が尖っているトングだと、生地を突っついてしまうので上手に焼けないのです。チャパティ専用トングのチムタは「最後のぷっくり」のために作られたトングなのです。
こちらの写真が最後のぷっくりの時にチムタを使っている例です。
■インドのすべての家庭に常備されているキッチン用品
チムタとタワは、インド人のキッチンの中で最もシンプルなツールであり、そして最も古い道具であると言えるでしょう。チムタは紀元前2700-2000年のハラッパ時代の遺跡からも発見されていて、当然その頃にはタワも使われていたと考えられています。
チムタとタワは、両方とも単純な鉄からつくられています。
形状もとっても単純です。
言ってみれば、ただの平たい鉄の板ですもんね。
このシンプルだけれども効率的な形が、インド人の食卓を紀元前から支えています。
実用性とシンプルさに徹したチムタとタワ。
そこには潔い実用美があります。
もちろんインドの家庭も時代に応じて変わり続けています。昔はどの家庭でも、鉄の食器を使っていたものですが、徐々に錆びづらいステンレスになり、そして鉄のフライパンは軽いアルミ製のテフロン加工のものになりました。
しかしチムタとタワだけは変わりません。
100年後にインドに行ったとしても、きっとチムタとタワは変わらずインド各家庭の常備品であり続けるはずです。