魔法の打楽器 タブラの作り方[インドモノ辞典]

■タブラとは
タブラとはインドの代表的な打楽器。叩いて音を出すだけだったら誰にでも出来ますが、本気で習得しようとすると世界で最も難しい打楽器の一つです。

タブラは2つの太鼓を一対として構成される世界でも珍しいタイプの打楽器です。右手では右の太鼓のみ、左手では左の太鼓のみを叩きます。区別して呼ぶときは、小さいほうをタブラ、大きな方をバヤンと呼びます。

インドでは、叩き方にいろいろな種類があり、右手で5種類、左手で3種類程度の音を出します。バナーラス方面では右手のTe、Na、Ta、Tin、Deなど、左手のGi、Ki、Katなど、左手と右手の組み合わせのDha、Dhin、Tirkitなどがある。タブラの練習の一つとしてこういった名前を口唄することもある(例:「ダーダーティリキトダーダーティンナーダー」)。

左手の腹をつかって太鼓の張力を変えることで音程を上下させることができたりと、ただの2つの太鼓ではありますが、タブラは叩く人の技量によって魔法のように姿を変える楽器です。



ティラキタで長い間取り扱っているタブラですが、工房に何度かお邪魔したことはあっても、最初から最後までどの様に作られているかは謎なままでした。

今回は、インド政府が出資しているデジタル学習サイトD'Sourceの記事をもとに、マハラシュートラ州アーメドナガールにあるタブラ工房でのタブラの制作過程を見ていきたいと思います。昔から作られているタブラは、現地にある材料を上手に使って作られていました。

■タブラを作るのに必要な道具たち
タブラを作るのに必要な道具たちです。タブラは昔から作られてきた伝統的な打楽器ですから、地元で容易に手に入るシンプルな材料で作られています。

丸い石:タブラの黒い部分であるスヤヒを擦って仕上げるために使われます。
ひも:ひもはタブラの作成中に、タブラのボディと皮を縛り付けておくために使われます。
丸い木の棒:こちらの木の棒はグリと呼ばれ、タブラの周りのストリップを締めて音程を上げる、チューニングをするために使用されます。
ゴム皮:スヤヒの材料を練り合わせるときに使われます。
ヤギの皮:タブラはインドの山羊革を使って作られます。
山羊革紐:木のタブラ本体と頭の皮を一緒に結ぶために使われます。
穴あけ:山羊革に紐を通すための孔を開けるのに使われます。
はさみ:皮を目的のサイズと形にカットするために使用されます。
ハンマー:製作中にいろいろな部分をコンコンして調節します。
糸通し:山羊革にの開いた穴に紐を通すために使われます。
ナイフ:質素なナイフですが、タブラを作るのに欠かせない道具です。必要に応じてヤギの皮をこすって柔らかくしたり、皮を切るために使用されます。
ペンチ:タブラの周りに出ている皮のストリップをつまみ、引っ張るのに使用されます。
ナチュラルレジン:スヤヒを保持するための接着剤として使用されます。
■タブラのボディを作る
タブラの素材は主にローズウッドが使用されます。ローズウッドを切り倒し、割れたり曲がったりしない木材になるまで、この様な丸太の状態で何年か乾燥させておきます。


使用するときは、ある程度大雑把にタブラの形にして。


大きなルーターで丸く整形していきます。


真ん中の穴は職人さんがノミでコツコツと開けていきます。


■タブラの皮を作る
タブラのボディができたので、実際に音が鳴る部分である、タブラの皮を制作していきます。タブラの皮は、ボディに合わせて作りますので、ボディの皮が接触する部分をできるだけ平行にし、滑らかにしていきます。


もちろん昔ながらのヤスリも使います。ゴシゴシ…ゴリゴリ…
タブラの木の部分の準備はこれで完了です。


次に、鼓面になる丸い皮を大きな山羊革から切り抜きます。ガイドに沿って鉛筆で線を描いていきます。1枚の山羊革から4枚くらいのタブラの皮が取れそうですね。


線が描けたところで、ハサミでチョキチョキと山羊革を切り抜きます。


余った皮から、台形の皮を何個も切り出し始めました。これもまた、タブラの皮の一部になります。


切った皮は、柔らかくして取り扱いやすくするために水につけておきます。


そのままではまだ厚いので、皮をナイフでこそいで柔らかくしていきます。


ナイフで削いで薄くした皮は、柔らかくて弾力性があります。これではじめて、タブラの皮として使用できるようになりました。


先ほど丸く切った山羊革を4つに折りたたみ、ポンチで穴を開けていきます。この穴に紐が通り、皮を引っ張れるようになります。


丸い山羊革に、紐が通りました。なんとなく、タブラの皮っぽい雰囲気が出てきましたね。


次に、タブラの周りに、先程作った台形の皮を並べていきます。


その上から、丸い皮を乗せて


上からぎゅうと押さえつけると、俄然タブラっぽくなってきました!!


タブラをひっくり返して、紐をかけていきます。完成品のタブラには革紐がかけられていますが、まだ、普通の紐で制作していきます。


紐をぎゅうぎゅうと引っ張ります。手と両足を使って引っ張り上げます。


もう一枚同じサイズの丸い革を持ってきて。


同じ様にポンチで穴を開け


タブラの上に乗せます。すなわち一個のタブラを作るのに、大きな丸い革は2枚使われているということになります。よく見るとわかりますが、上になった皮には真ん中に穴が空いています。


上になった皮に細い針金を通していきます。


タブラを斜めにして、鉛筆で縦線を入れていきます。ここに山羊革の紐が後ほど通ります。


ポンチとハンマーで線をつけた所に縦穴を空けていきます。


これから山羊革の紐を入れるのですが、紐が入りやすいように先っぽを尖らせます。


先ほど開けた穴に糸通しを通し…


山羊革の紐を通していきます。一本の山羊革紐をタブラの周りにぐるりと通して、それを動かないように別の皮でぐるぐると巻いていきます。


皮紐が巻き終わりました。


だんだんと私達が知っているタブラの形が出現してきました。


紐を外して


一旦皮だけにします。不必要な皮はこの段階で切り落としておきます。


革紐がもう一回出てきました。


革紐を柔らかくするために水に浸します。


タブラのお尻の部分に革紐をぐるりと巻いて外れないようにします。


鼓面が動かないように紐で十字に縛った後、革紐を入れていきます。


革紐が全部入り終わったら、次に鼓面を制作していきます。余計な部分を丸く切り落としていきます。


鼓面にチョークパウダーが塗られ、サンドペーパーで滑らかにされ、鼓面がすっきりときれいに見えるようになりました。


■スヤヒを作る
タブラの大体の形はできましたが、まだまだ完成ではありません。完成品のタブラの鼓面をよく見ると、黒い丸いものがついていますよね。これがタブラサウンドを生む秘訣の部分、スヤヒです。これから、この黒い部分、スヤヒの作り方をみていきます。


スヤヒは、鉄粉と小麦粉を水と混ぜて作られています。まず、小麦粉を水に溶かします。


火を入れて熱し続け、ペースト状にします。


ペースト状のものを手で丸めてボールにして。


火で炙り始めました。外側に焦げを作り、中をもっちりとさせるためなのだそう。


小麦粉ペーストに、黒い鉄粉を混ぜ込み、スヤヒの原料ができました。


■スヤヒをタブラに縫って完成!!
黒いペーストをタブラの上に乗せて


指で塗り広げてゆきます


指で丸い形を作りながら塗っていきます。塗っては石でこすり、余ったスヤヒを削り取り、また石でこすりを繰り返して、きれいな倍音が出るようになる厚さまで続けられます。


スヤヒができたらテンションをかけ、チューニングをするための木の棒、グリを入れます。


偏ってテンションがかかると割れてしまうので、ハンマーでコンコンと叩いて、一定のテンションがかかるようにしつつ、張力をかけていきます。


そうやって、一個のタブラが作られます。インドで長い年月をかけて研究され、改良されてきたタブラ。ただの太鼓とは全く違う、複雑な製作工程でした。
■タブラの神ザキール・フセイン
タブラの製作工程を見てきたところで、世界最高のタブラ奏者ザキール・フセインの超絶演奏をお楽しみください。タブラの凄さを体感して頂ける超絶演奏です。



参考文献:D'source Making of Tabla - Ahmednagar, Maharashtra by Prof. Bibhudutta Baral and Srikanth Bellamkonda
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