サイババの街の現在

サイババと言ってどれくらいの人が彼のことを覚えているだろうか?オレンジ色の服を着た巨大なアフロの聖者だ。日本では10年以上前にその見た目の強烈なインパクトとインド人達の熱狂っぷりが面白おかしく伝えられた。オウム事件の後だったことと、サイババが奇跡と称してシリアルナンバー入りのロレックスの時計を灰の中から出してみたりしていたことで、インチキ聖者扱いされていつの間にか話題から消えて行ったのを覚えている。

それでもインドに来るとサイババの名前は今でもよく聞く。ババ(先生)よりもむしろラム(神)を付けて、サイラムとよく呼ばれているようだ。でも、例えばステッカー屋を見ていると、彼らがサイラムと呼んでいるのは主にあのアフロとは別人のおじいちゃんだ。インド人に寄れば彼こそが初代の神聖なるサイラムで、アフロは二代目だよと言う。「初代は本当に素晴らしい、一番新しい神なんだ」、と好印象で語られ、シヴァやハヌマーンと一緒にステッカーが売られ、バスやリキシャにそれが貼られているのもよく見る。

翻って二代目は派手な奇跡パフォーマンスや「性的な間違い」が過去にあったりしたためにか、態度を決めかねる人が多いように感じる。でも今もバンガロールの近郊にある彼の本拠地、プッタパルティには多くの信者が集まり、空港や大学も彼の手で作られ、住民は無料で医療や教育を受けられるという話も聞いた。

実際はどうなのか?その街は今、どうなっているのか。それが知りたくて訪れてみることにした。バンガロールのバスステーションに行くとプッタパルティ行きのバスは一日に10本程度ある。バスも道もとてもきれいだ。4時間弱でプッタパルティに着く。ハイウェイをそれて脇道に入って行っても道はしっかりしている。滅多にないことだ。

やがて大きな空港が現れ、二代目の写真があちこちで見られるようになる。空港を過ぎてすぐに道の両脇に巨大な劇場やら大学やらスポーツ施設が立ち並び、それが二代目によって作られたものであることがすぐ分かる。

バスステーションに到着すると辺りは二代目サイババが充満している。予想はしていたけれどそれを超えるフィーバーっぷりが健在だし、なにより巨大アフロのインパクトは大きい。街を歩くと必ず視界の中に彼のアフロが入ってくるようになっている。巨大な看板がビルの壁やら店先やらそこらじゅうに掲げられているし、軒を連ねるお土産屋に売っているのは基本的に二代目サイババグッズだ。おまけにリキシャの背面までが広告媒体となっていて、彼の写真とありがたいお言葉が描かれている。

そして国内外から集まった何万人ものサイラムの信者たちが今でも当時と変わらない様子でありがたそうに街を歩き回っていて、朝夕の儀式の時にはこぞってアシュラムに集結する。

ご利益にあやかるためか街にある店や宿の名前は大体「サイ」か「ババ」か「ラム」のどれかを織り込んでいるし、もし織り込んでいなければ大体彼の写真が看板についている。街に貼ってあった全国展開の携帯電話会社の広告には「わが社はサイラムの信者の方々を歓迎します!」と二代目の写真つきで大きく書いてある。

驚いたことに警察のオフィスの看板にまで彼の写真が印刷されているのだ。おいおい、警察が特定の個人の写真なんてそんなところに掲げていいのか?そう思ってしまうがそれがこの街の強い強い特色なのだろう。カリスマ、信仰、財力、いろいろな要素がきっと複雑に絡まりあって、気軽にお土産屋で「アフロのヅラは売ってないんですか?」なんて気軽に茶化せない空気が満ち満ちている。

だが、この先、彼がいなくなった後はこの街はどうなるのだろう?夢の跡となるのか、つつがなく全てが三代目へと引き継がれていくのか。それを知っているのは他ならぬ二代目本人だけなのかもしれない。
文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。
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