インドが誇る魔法の弦楽器 – シタールの作り方[インドモノ辞典]

インド古典の代名詞とも言える楽器シタール。今回は、知られざるシタールの作り方に迫ります。西インドの商都ムンバイがあるマハラシュートラ州の一角にミラジと言う田舎町がありますが、このミラジはインドでも有数の高級シタールを生む産地として知られています。今回は、インド政府が出資しているデジタル学習サイトD'Sourceの記事をもとに、マハラシュートラ州ミラジにあるシタール工房GS Musicalsでのシタールの制作過程を見ていきたいと思います。昔から作られているシタールは、現地にある材料を上手に使って作られていました。

■シタールとは
シタールはインド音楽の代名詞とも言える弦楽器です。シタールは主に北インドで演奏されていて、南インドで演奏される事はあまりありません。この楽器はインド音楽の代表的楽器ですが、その成立年代は意外に新しく、16世紀項半に原型が出来あがったと伝えられています。シタールは全長1.2Mほどの楽器で、弦は上下に二層に分けて張られています。弦の種類はスチール弦で、何音階にも渡るミード(弦を引っ張って音程を上げる事)をするために一番メインの弦の下にはなにも弦は張られていません。弦は全部で17本から22本張られますが、その数は流派によって異なります。演奏する時は主に上層の弦を弾き、下層の弦は共鳴弦となります。シタールの1番下部の大きな膨らんでいる所はトゥンバと呼ばれ、南瓜もしくは瓢箪で作られています。シタールは、ムガル帝国時代にインド・パキスタン亜大陸で進化したと考えられており、ムガールの宮廷で演奏された魅力的な楽器の1つでした。ムガル帝国の影響でシタールが進化したので、シタールは北インドで演奏される楽器になったのです。ティラキタで長い間取り扱っているシタールですが、工房に何度かお邪魔したことはあっても、最初から最後までどの様に作られているかは謎なままでした。

■シタールを作るのに必要な道具たち
シタールを作るのに必要な道具たちです。シタールは昔から作られてきた伝統的な弦楽器ですから、地元で容易に手に入るシンプルな材料で作られています。

工具類:シタールを作るにはいろいろな工具が必要です。
木材:よく乾燥したレッドシダーか、インディアン・ローズウッドの丸太がシタールの本体用に必要です。
木の釘:シタールの各パーツを留めるのに使います
のこぎり:丸太からシタール本体を切り出す時、シタールを造形するときなど、大小様々なのこぎりが使われます。
らくだの骨: らくだの骨からパトリ(Patri)と呼ばれる、弦を保持するパーツが作られます。
ひょうたん:大きなひょうたんをカットして、音が反響するトゥンバ(Tumba)部分を作ります。
■シタールの産地
今回はシタールの一大産地であるマハラシュートラ州のミラジの工房での作り方を紹介します。シタールは北インド全般で作られていますが、ミラジはその中でも結構有名な産地の一つです。他にはコルカタ郊外のウルベリアと言う場所も有名です。ウルベリアはインドの一大楽器生産地で、インド楽器の原型の多くがここで作られていると聞きます。聞く所によると、コルカタの近郊なのにラジャスタンの方の楽器も作ってるのだとか。だいぶ古い映像ですが、こちらがウルベリアでの楽器制作風景です。
■シタールのボディを作る
シタールの素材はよく乾燥したレッドシダーか、インディアン・ローズウッドが使われます。丸太は大きなのこぎりで大体の大きさに切られます。


大体の大きさにしてから、まだまだ乾燥させます。ローズウッドを切り倒し、割れたり曲がったりしない木材になるまで、この様な状態で何年か乾燥させておきます。何年乾燥させておくかでシタールの全体のクオリティが変わってきますので、乾燥は大変重要な工程です。


シタールの長いネック部分を作っているところです。ネックの部分は長い木を掘り出して作ります。


木の塊からシタールのトゥンバとネックを繋ぐ部分を切り出しているところです。まだまだ、何をやっているかわからない感じですね…


シタールの下の膨らんでいる部分とトゥンバといいますが、こちらのひょうたんがトゥンバの材料です。大きなひょうたんを栽培、収穫、乾燥させて、形の良いものがシタール用に使われます。こちらも乾燥していたほうが良いので、モノによっては何年も乾燥させられます。


トゥンバは上の細い方を長いネックに接続できるように、横の平らな部分を前面として使用できるようにカットします。
source:MAKING THE SITARカットしたトゥンバと、先ほど作成していた木材のパーツが合わさります。段々とシタールの一部分が出現してきました。シタールのトゥンバの中って、こんな風になっているんですねぇ…。そして釘は木の釘が使われているんですね。
トゥンバができたら、タブリ(Tabli)と呼ばれる上板をはめ込みます。
タブリをはめ込んだら、装飾の開始です。象嵌はセルロイド素材から白いパーツを切り出して、木にはめ込んで制作します。
装飾をしている所。装飾もすべて職人さんの手作りです。
木にデザインを描き、ガイドに従って象嵌用の穴を彫り、穴にセルロイドの象嵌をはめ込みます。 写真は装飾の上からサンドペーパーをかけている所です。
■シタールの部分品を作る
ボディがだいたいできたので、次は糸巻きであるペグを作ります。 万力とヤスリでゴリゴリ…
出来上がったペグをシタールに合わせていきます。
シタールの最重要パーツであり、シタールサウンドを生む部分がジャワリです。ジャワリとは、弦がボディと触れて音を出す部分なのですが、ジャワリのチューニング具合によって音が全く変わってきます。ジャワリの良し悪しは、そのまま音に出ますし、マイクロメートル単位の違いが音に影響を与えます。 ジャワリの製作と調整は非常に難しく、何十年も修行した専門の職人でないと行えません。
ジャワリの上面を大雑把に削り出し中。ジャワリには伝統的に鹿の角が使われます。
出来上がったジャワリをシタールにセットします。セットしてから、満足な音が出るまで、長い時間をかけて調整します。
■シタールに弦を張る
シタールの形ができてきたので、弦を張っていきましょう。
こちらはフレットを作成している所。フレットですが、同じ様に見えますが、実は曲がり加減が一本一本異なります。 上の部分に行くほどフレットの高さは低く、下に行くほどフレットが高くなっていきます。
作成したフレットを一つ一つ紐でシタール本体に縛り付けます。 この縛り方が独特で、フレット専用の縛り方というものがあります。 音階を変える時はフレットは動くけれども、演奏中にはぐらぐらせず、安定する様に締めていきます。
弦を張ってみて、高さを調整しながら、フレットを付けていき、一本のシタールが完成します。
インドで長い年月をかけて研究され、改良されてきたシタール。 世界のどこにもない、インドならではの素晴らしい民族楽器です。
■美しいシタールの名演奏
シタールの製作工程を見てきたところで、エタワガラナ7代目で謳うような演奏で名高いシャヒード・パルヴェズ・カーンの美しい演奏をお楽しみください。夕暮れから夜の始まりくらいにぴったりな演奏です。


参考文献:D'source - Sitar Making - Miraj, Maharashtra by Prof. Bibhudutta Baral, Divyadarshan C. S., Lija M. G. and Vijay G.
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