■伝統的なカンタ刺繍
インドにはカンタと呼ばれる刺繍があります。
カンタ、もしくはカンタ刺繍とは、パッチワークの布に、チクチクと針を通し、美しい一枚の布に再生させたもの。パッチワークのカラフルさ、刺繍のかわいさが特徴で、インドの布製品の中でも、人気のあるデザインの一つです。

カンタの歴史は、人々が貧しかった時代にさかのぼります。
今ほど裕福でなかった時代、布は大変な貴重品でした。
綿花から繊維をつむぎ、糸を作って、手織りの織機で機織りして作るしかない、手間も暇もかかるものでした。今だったらお店で1000円も出せば買える布ですが、昔の人達が布を手にするまでには、何ヶ月も働かなければいけないものでした。
貴重品だからこそ、インドの人々は、布を大切にしようと考え、カンタ刺繍を生み出したのです。
カンタが生まれたのは500年前のこと。インドの西の玄関口であるコルカタ周辺のウェストベンガル州、オリッサ州、ジャルカンド州周辺で作られ始めました。

使われた素材は中古の男性用衣類であるドウティ、女性用衣類であるサリーです。
カンタ刺繍は何年も着古し、ぼろぼろになった衣類を再度使えるようにと始まった伝統的な刺繡工芸品です。

破れて使えなくなった布でも。
ぼろぼろになった布でも。
良いところだけを切り出して、パッチワークをすれば、また使うことができますよね。
カンタ刺繍は、モノを大切にするための刺繍なのです。
今で言う、アップサイクリング。
カンタという言葉は「パッチを当てた布」を意味します。
パッチワークの布にベンガル伝統の直線縫い刺繍が合わさり、古来からの伝統ではあるけれども、現代にも立派に通用するデザイン性のある布が誕生しました。
■古い布をリサイクル
カンタは基本的に古い布を使って作られます。
ティラキタで販売しているカンタの中には、新品の布を使って作られたものもありますが、それは衣料品を作るために大きな布を切り出した後の小さな布をリサイクルしたものです。カンタを作る時、完全に新品の布を使うことはありません。
インドの田舎では、今でも中古のサリーが原料として使用されています。
サリーは美しいですし、モノによっては上質なシルクを利用していることもあります。
ただ捨てるのではなく、カンタ刺繍にして再生することで、思い出もまたアップサイクルできるのです。
伝統的に、カンタは乳児や新生児用のキルトやベッドカバーとして使用されてきました。古着から作られたものなので、とても柔らかくて着心地が良く、赤ちゃんにとても適しているからです。
現在、ティラキタで取り扱っているものは、カンタのショールや、カンタのクッションカバーなど。500年前から続く伝統工芸品なので、流行に左右されず、デザインが古くなることもありません。
■いろいろな種類のカンタ
カンタと一口に言っても、パッチワークと直線縫いのカンタだけでなく、いろいろな種類があります。
スジャニカンタは、一枚のショールにとても複雑な刺繍が施されたカンタの事で、作り上げるのに数ヶ月かかることもある特別なカンタ刺繍です。
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ノクシカンタ、またはノクシカタと呼ばれる刺繍がバングラデッシュにあります。

その他にも、四角い布に波状の刺繍を施すレップカンタ。
本の表紙として使われるバイトンカンタ。
中央に蓮のデザインがあり、財布を作るために使用されるバイトンカンタなど。
中央に蓮をモチーフにした刺繍のハンカチであるルマルカンタなど。
直線だけでなく、花、動物、鳥のモチーフのランニングステッチが全体に縫い付けられているものなど、色々なカンタがあります。
インドの人たちがひと針ひと針、丁寧に縫って作る素晴らしい工芸品カンタ。
インド手工芸の心と伝統が生きている布です。