素敵な布を求めて6000キロかけてやってきたのに腰巻き布しかなかった



■南インドにコットン布を求めて
ティラキタ買付班、毎日、毎日、素敵な商品を探しています。もちろん、自分たちで商品をデザインしたりもしていますが、商品を探すのも大切な仕事です。



買い付けに行くだけではなく、ここ最近はオンラインでも探したりもしますが、やはり個性的で素敵で、人の手がたっぷりかかっているものを発見しようとなると、現地に行って工房を訪ね歩くしか方法はありません。

インドの隅々まで商品を探して歩く。コミュニケーションを取って、どうやって作られているのかブログで紹介し、輸入してくる。 インドの手仕事を一つ一つ訪問し、丁寧に紹介する。それが私たちの大切な仕事です。



■南インドのどこかに布の街があるはずだ
商品を探し続けている中で、いつか南インドに布を探しに行きたいと思うようになりました。南インドは、あまり足を踏み入れたことのない場所です。インドは北インドと南インドに大きく分かれますが、手工芸品の多くは北インドに存在していて、南インドにはそれほどありません。

北インドでも、割とイスラム教徒の多いエリアに手工芸品があったりします。手工芸品の多くは北インドで作られ、主にイスラム教徒が作っている。そんな理解で間違いがないのかなとも思います。

とは言うものの、南インドは南インドで、素敵な布などがあったりするわけです。南インドのウッドブロックプリントとか。カラムカリの布とか。シンプルなコットン布とかですね。

買付している商品の中に、南インドから来ているものがいくつかあり、実際に産地に行ったら、もっと素敵なものがわんさかあるのではないかしら?と常日頃から思っていました。

■取引先のみんなから情報収集
いつかは南インドに行ってみたいなぁ…そう思いながら、常日頃から情報収集をしていたのですが。

いろいろな人たちの話を総合した結果、南インドのタミルナドゥ州にエロードという大きな布の街があるという情報が有力になってきました。

「ねえ、アシーシュ。今度さ、南インドに行って布を探してきたいんだけど、どこが産地だか知ってる?」
「よく聞け。お前が欲しいものは、南インドにはほとんどない」


アシーシユ君はバラナシの布屋さんで、20年来のお付き合い。神様布とかを送ってくれる人です。日本との関係も深いので私たちが欲しそうなものをよく知っている人です。

「いやいや、南インドはコットンで有名って言うじゃない? 南インドのコットンの実情を見てみたいんだよ。」
「コットンで有名な街はいくつかあるよ。」
「どこどこ?」
「南インドのコットンはタミルナドゥ州が有名だよ。タミルナドゥ州の真ん中ら辺のエロードっていうトコとか。でも最小ロットは大きくて、お前が買えるような量じゃ相手にされないぞ!」
「そんなの行ってみなきゃ分からないじゃん!」


と言うことでティラキタ買い付け班、貰った情報を元に、南インドのど真ん中の街であるタミルナドゥ州のエロードに飛んできました。



実際問題、日本と長年取引しているインド人でも、私たち日本人が欲しいものを理解してくれる事はありません。

彼らは今までの経験をもとに、日本人が欲しいものはこれ!という風に知っていますが。インド物であってもトレンドが変わり、かつてのようなゴテゴテしたものではなく、シンプル&アンティークなものが好まれるようになったりしてるので、やっぱり行ってみないと分かりません。


■南インドの布の街は完全に現地仕様だった!!
ということで、ティラキタ買い付け班、エロードに向かいましたが、エロードはなかなかアクセスの難しい場所でした。


完全に南インドの内陸部で、輸出向けの産業が発達してるような、そういう場所ではありません。輸出向けのものは海から輸出するという関係上、基本的に全て沿岸部に存在しています。

このエロードは南インドの中心地にあるので、南インド全域に物を均等に届けるには非常に理想的な場所です。南インド全域を商域を考えて、物流拠点にするのであれば理想的とも言えます。

国際空港があるケララ州のコチから電車で6時間ほど走ったところにあります。ティラキタ買付班、今回はポンディシェリーからエロードへとバスを乗り継いでやってきました。旅行してる間中、外国人の姿は一人も見かけず。完全にローカルの人々の中を進んで行きました。



■1000軒を超える布問屋はすべて現地向けのみ
到着してバス停の近くに宿を取り、早速リサーチにでかけます。そしてほぼすべての問屋さんを訪ねたのですが…非常に残念な現実しか待っていませんでした。

エロードは完全に現地向けの腰巻布とサリーしか売っていない街だったのです。私たちが欲しそうな布は完全にゼロではないですが、本当に少ししか存在しませんでした。

東京から飛行機に乗って、バスを乗り継いで、わざわざやってきたのに…激しく残念です。5000 km の道のりを一生懸命頑張ってやってきたのに…



この店はサリーばっかり。


この店は現地仕様のパンジャビドレスのみの取り扱い。


このお店は反物を扱っていますが、割と現代風の生地ばかり。


おっちゃん達が集まってる後ろに、織りたての白い布がどっさりと積んであるお店があったりしました。


シンプルな布は割とあるっちゃありますが…


大量パックになってアソートで売られている模様です。






タミルナドゥ州はドゥパッタ&ルンギー文化圏。おっちゃんたちが、毎日民族衣装を着ているお土地柄です。


道の通り沿いに50軒ぐらいの布の問屋がずらりと並んでいるのですが、その全てが現地の人しか必要としないものばかりを売っています。僕らの欲しいものはどこにもありません。日本で売れる布はほぼありません。ここにあるものは現地のインドの方々が日常的に必要な布ばかりでした。



本当に南インドのど真ん中に来ちゃったんだなぁ…と、ただただ途方に暮れるばかりです。

■荷物の移動は牛が主役
そしてこの街では、牛が現役の荷物移動手段として使われていました。 牛の後ろに牛車をつけて。ぐいっと曳かせれば、1トンや2トンの荷物は難なく移動することができます。



牛はよく飼い慣らされていて、基本的に何も命令しなければ、勝手に動いたりはしないみたいです。各問屋からまず牛で荷物を持ってきて、トラックに積み込むということが日常的に行われています。


牛は草を食べるだけで排気ガスは発生させないし。化石燃料を使わないのでエコロジー!!!牛さん、凄い!!

■やっぱりここでもスーパーヒーロー!!!
そしてインドの田舎に来た時はよくあることですが…。
みんなから延々と、どこから来たの? どこから来たの? 何のために来たの?と延々と聞かれ続けられます。

問屋に入る毎にその質問をされ。お寺で参拝をしていたら、横にぴったりと青年がくっついてきてその質問をされ。

そして挙句の果てには子供たちがどんどん集まってきて。一緒に写真を撮ろうと大騒ぎ!!
気分は完全にスーパーヒーロー!!!



■インドをずっと歩いて出てきた結論
そして今回の買付で、インドを20年間歩いて出てきた一つの結論があります。

それは、「特別なものは特定の地域にしか存在しない」ということ。

例えばジャイプールであったらジャイプールの布が特別で。ジャイプールのブルーポッタリーも特別です。


ジョードプルだったら、手作りの家具やハンディクラフト製品が素敵です。


グジャラートには グジャラートの布やアジュラックの布に素晴らしいものがあります。


バラナシにはバラナシの工芸品があります。


その全ては他の地域、そして他の国では絶対に手に入らないもの。そこに行かなければ、手に入らない特別な物なのでした。

今インドはものすごい勢いのインフレに直面しています。なんとかお客様にリーズナブルに商品を届けられないかと考え、南インドの奥地まで商品を探しに来ているわけですが。

でも南インドの奥地にはやはりジャイプルの布は存在しないし、ラジャスタンの布も存在しませんでした。

素敵な商品があったとしても、その産地はひとつしかなく。他に代替えはなく、そこから買うしかないのです。

そもそも彼らが作ってる手工芸品は、今でこそ私たちに譲ってくれていますが、もともとは自分たちが地産地消のために、もしくはマハラジャのために作り始めたものだったのでしょう。

そして布の作り方一つをとってもその土地の気象条件が大きく影響しています。アジュラック布のあのディープな青は、砂漠地帯の気候風土、そして土地の成分などの組成によって出る特別な色だと言います。ジャイプールのスラマさんが、一度ジャイプールでアジュラック布を作ろうとしましたが、うまく色が出なかったと言います。



ジャイプールの布のあのパステルカラーは。ジャイプールにやってきた外国人の好みと、彼らのセンスが相まって出現したジャイプールだけの独特なもの。


インドにおける一つ一つの素晴らしいものは。産地、そこでしか買えないものなのだと。この地球の中に一つしかないものなのだと。

だからいくらインドがインフレしようが。日本円が安くなろうが。
産地の工房からモノを譲って貰っている場合は、そこで買うか買わないか。買えるか、買えなくなるか。

ただそれだけの話なのだと、今回の旅行で心の底から理解したのでした。
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