ろくろに乗る前から、こんなに手間が! スリランカのテラコッタ工房と資料館を訪ねて

現地の食卓に並ぶ土の器。器の中にも、その周りにも、スリランカらしい風景があります。
スリランカを旅していると、食事の風景の中で、よく出会う器があります。
赤茶色の、どこかほっとする土の器です。

カレーやおかずが盛られ、テーブルにいくつも並んでいると、それだけで食欲がわいてきます。
こちらが、ティラキタでもご紹介している、テラコッタの器です。

この器たちは、どんな場所で、どうやって生まれるのでしょう。

2025年9月、買い付けでスリランカを訪れた僕たちは、現地のパートナーに案内してもらい、テラコッタの工房と資料館を訪ねました。そこで見えてきたのは、ろくろの上の手仕事だけではありません。器になるずっと前の、土を整える仕事。そして、川や土地の歴史とつながった、暮らしの道具としての姿でした。

■緑の中に、器を作る場所がありました
車で、ヤシの木が立ち並ぶ道を走ります。町の景色を抜け、工房に着くと、建物の周りにも大きな木や草がいっぱいです。
緑に囲まれた工房の敷地。建物の間を歩きながら見学します。
緑に囲まれた工房の敷地。建物の間を歩きながら見学します。
買い付けでは、完成した商品を見る時間も大切ですが、作っているところを見る時間も、同じくらい大切なんです。写真やカタログでは分からないことが、目の前の作業から伝わってきますし、僕たちが熱量を持って素敵さを語れるかどうかにかかってきますしね。

工房をとても熱心に案内してくださったのが、赤いサリーを着た所長さんでした。工房について丁寧に説明してくださる姿から、ここでのものづくりを大切にしている気持ちが伝わってきます。

所長さんやスタッフの皆さんに案内してもらい、見学はまだ器の形すらないところから始まりました。

■まず見せてもらったのは、「土」
まず見せてもらったのは、「土」でした。手のひらに載せて見せてくれた、いくつかの土の塊。黄色みのあるもの、茶色いもの、細かく崩れたもの。色々あるのですが、それぞれ見た目も、テクスチャも違います。
手に載せて見せてもらった土。器の出発点は、こんな材料です。
手に載せて見せてもらった土。器の出発点は、こんな材料です。

これが、あの滑らかな丸い器になるんですかね

なるんじゃないかな? ただの土が陶器に変わる工程ってどんなだろ?


自然の中から採ってきた土には、粗い粒や小石、植物のかけらなどが混じることがあるのだそう。塊をほぐし、不要なものを取り除き、水分や硬さを整えて、器づくりに使える粘土へと精製していくのだそうですよ。

品質の良い土もきちんと精製しないと、よいテラコッタにはならないんです


サリー姿の所長さんが言う通り、この工房では、その土づくりをとても丁寧に行っていました。中へ入ると、大きなドラム、その先に水槽や網、布を何枚も挟み込んだ長い機械が並んでいます。

ろくろが出てくるのは、まだ先のようだね


■土をいったん、どろどろにする理由
横向きの大きなドラムと、原料を扱う設備。器になる前の土づくりから、案内してもらいました。
横向きの大きなドラムと、原料を扱う設備。器になる前の土づくりから、案内してもらいました。
最初に目を引くのが、この大きなドラム。構造から、陶土の粉砕に使う「ボールミル」の一種と考えられます。ボールミルは、筒を回転させ、中に入れた硬い玉や石が原料にぶつかったり、こすれたりする力で、材料を細かくする機械です。土づくりでは水も加え、粉砕しながら混ぜ合わせます。

ここで作るのは、手で丸められる粘土よりも、ずっと水分の多いもの。土の細かな粒が水に混ざった、とろりとした状態を「泥漿(でいしょう)」と呼びます。

泥漿を扱う水槽。成形する前に、土を水と混ぜて処理する工程があります。
泥漿を扱う水槽。成形する前に、土を水と混ぜて処理する工程があります。

こんな機械、初めて見るね。凄いな!

器を作るのに、いったん、こんなにどろどろにするんですね

とにかく、土を滑らかにするんですよ


その理由の一つが、土をむらなく混ぜ、ふるいに通せるようにすること。粉砕して混ぜる仕事と、不要なものを取り除く仕事は、ここでつながっています。

見せてもらった、目の細かなふるい。泥漿を通し、網に残る粗い粒や異物を取り除きます。
見せてもらった、目の細かなふるい。泥漿を通し、網に残る粗い粒や異物を取り除きます。
網を通る細かな土は水と一緒に先へ進み、網目より大きな不要物は残ります。大きな不要物が器の表面に出ればざらつきになったり、成形の邪魔になったりするので、この段階で取り除いていきます。

■器より先に、丸い「土の板」ができる
特に面白かったのが、ずらりと布が並ぶ、大きな機械でした。

また見たことがない機械がやってきたぞ

これ……なん…ですかね??



資料館の展示にも同じ種類の機械が載っていて、名前は「フィルタープレス」。精製した泥漿に圧力をかけ、余分な水分を取り除く装置なのだそうです。

布を挟んだ板を何枚も重ね、その間へ泥漿を送り込みます。圧力がかかると、水分はろ過布を通って外へ抜け、細かな土は内側に残る。こうして、どろどろだった泥漿が、取り出せる粘土の塊になっていくんだそう。

スタッフの方が布を開いて見せてくれると、中から現れたのは……。

フィルタープレスを開いたところ。布の間に、丸い粘土の板ができています。
フィルタープレスを開いたところ。布の間に、丸い粘土の板ができています。

大きな、丸い、土の板!


真ん中に穴があり、同じような形のものが重ねられています。これが脱水してできた粘土の「ケーキ」。もちろん食べられませんが、なるほど、そんな呼び方をしたくなる姿です。

取り出した粘土が積み重なっています。ろくろの前に、まずこの状態を作る仕事がありました。
取り出した粘土が積み重なっています。ろくろの前に、まずこの状態を作る仕事がありました。
先ほどのふるいは、不要な粗いものを取り除く役目。こちらのプレスは、必要な細かい土を残しながら水分を抜く役目。それぞれの仕事を経て、ようやく手で扱える土に近づいてきました。

今日は器を見に来たつもりなんですけど。前工程が既にメチャクチャ面白いですね!!


■最後に、土の中のむらを整える
プレスから出てきた土には、まだ続きがありました。今度は、長い帯のような形で、粘土が機械から押し出されてきます。

土練機から押し出される粘土。脱水した土を練り合わせ、成形に向く状態に整えます。
土練機から押し出される粘土。脱水した土を練り合わせ、成形に向く状態に整えます。
これは「土練機(どれんき)」。資料館では「Pug mill Machine」と紹介されていました。機械の中で粘土を練り合わせ、水分や硬さのむらをならしていくものです。

同じ塊の中に柔らかいところと硬いところがあると、ろくろで伸ばしたときにも、土がそろって動いてくれません。また、器は乾くときに縮むので、水分や乾き方のむらは、ひびやゆがみの原因にもなります。

だから、形を作り始める前から、土を均一な状態に整えておくことが大切。そのうえで、一つずつ成形し、十分に乾かし、適切に焼き上げて、ようやく器になります。

陶器を作るってこんな大変だったっけか? 土から作るのは大仕事だな…

細かくする。ふるう。水分を抜く。練り合わせる。

焼き上がりの良さは、窯に入れるよりずっと前から準備されていたんですねぇ。この工房の器の品質に納得できたのは、完成品だけでなく、その土をここまで丁寧に作っているところを見られたからでもありました。

■ここから先は、職人さんの手の中で
ようやく、ろくろの出番です。

やっとこ知ってる光景が出てきた!!

土の内側と外側に手を添え、回転に合わせて形を整えていきます。日本でも見たことがある光景ではありますが、目の前で器が立ち上がる様子は、いつまで見ていても飽きません。

ろくろで器を形作る職人さん。内側と外側から、手で少しずつ整えます。
ろくろで器を形作る職人さん。内側と外側から、手で少しずつ整えます。
作業台には、丸い胴と小さな口を持った器が並んでいました。似た形を、こうして一つずつ作っていく。その手つきの迷いのなさに、積み重ねてきた時間を感じます。

形を作り終えた器。並べてみると、丸みの表情にも目がいきます。
形を作り終えた器。並べてみると、丸みの表情にも目がいきます。
普段、お店で器を見るときは、色や大きさ、使い道を考えます。でも工房で見ると、その丸い縁を整えた手、その胴をふくらませた手のことまで、気になってきます。

今日はここに来れてよかったですねぇ…


■赤い帯のもとにも、土と石の仕事がありました
別の場所では、筆を使って器に赤い帯を施していました。くるりと回しながら、細い首の部分に、すっと筆を当てていきます。

筆を当て、器を回しながら赤い帯を施す作業。小さな模様にも、人の手が入っています。
筆を当て、器を回しながら赤い帯を施す作業。小さな模様にも、人の手が入っています。
茶色い土に、赤い線。それだけなのに、ぐっと表情が変わります。

この赤い材料は、何なのでしょう。資料館に、その手がかりになる展示がありました。材料の名前は「Guru(グル)」。赤い塊をすり、器に施し、表面を磨く工程が写真で紹介されています。

Guruをすり、器に施して磨く工程。資料館では、赤い材料をすりつぶすところから紹介していました。
Guruをすり、器に施して磨く工程。資料館では、赤い材料をすりつぶすところから紹介していました。
スリランカで伝統的に使われるGuruは、鉄分を含む赤い土や石を原料にするものです。考古局の資料では、赤い化粧に使うラテライト系の素材として紹介されています。鉄分の多い土石を細かくすり、水と合わせて、器の表面に施すのです。

色もまた土なのか! ここでは全部、自然なものだけで作られてるんだな

こうした、土や鉱物を水に混ぜた材料で表面を仕上げる方法を、焼き物では「化粧」と呼びます。器の土の上に、色の異なる土の薄い層を重ねる、と考えると分かりやすいでしょうか。

展示の工程図では、Guruを施して磨いたあと、乾燥、焼成へと進んでいました。赤い帯にも、材料をすり、筆を運び、仕上げる人の仕事が重なっています。

■丁寧に整えた土を、ようやく窯へ
工房には、器を焼く窯もありました。その脇には、赤茶色に焼き上がった器が並んでいます。

窯のそばに並ぶ器。手前の白い器には、焼きむらや割れが出てしまったものがまとめて入れてあります。
窯のそばに並ぶ器。手前の白い器には、焼きむらや割れが出てしまったものがまとめて入れてあります。
ここまで丁寧に土を整えても、焼きむらや割れが出てしまうことはあります。白い器の中を見ると、一つの器が無事に焼き上がるまでの難しさも伝わってきました。

土を整える。形を作る。表面を仕上げる。乾かす。焼く。

「手作りの器」という短い言葉の中に、ずいぶんたくさんの仕事が入っているんですね。

シンプルなテラコッタなのに、これだけの工程があるとは…。びっくりだ!!!


■資料館の地図が教えてくれた、川と器の関係
工房見学に続いて訪れた資料館には、器の作り方だけでなく、スリランカのどんな場所で器づくりが続いてきたのかを示す展示もありました。

目を引いたのが、ケラニ川の流域に点々と印がついた地図です。

ケラニ川下流域の器づくりの村々を示した、資料館の地図。
ケラニ川下流域の器づくりの村々を示した、資料館の地図。
展示の説明によると、スリランカの窯業では、谷や河口のデルタ地帯が粘土の大切な供給源になってきました。中央の山地から流れるケラニ川が運んだものが、川沿いの低地にたまり、器に使う粘土になるのだそうです。

地図には、ケラニヤ、ビヤガマ、カドゥウェラ、ハンウェラなどの地名が並んでいました。

ただ「この辺りは焼き物が有名」という話ではなく、その仕事を続けられる理由が、土地そのものにある。手のひらの小さな器が、川の流れる風景につながって見えました。

後に、この工房が大きな洪水に見舞われたと聞いたときも、この展示を思い出しました。暮らしや仕事を支える自然の恵みと、その大きな力の、両方に接している場所なのです。

■昔の器は、どうやって焼いていたのだろう?
資料館には、器を焼く方法を示した模型もありました。器と枝のような燃料がぎっしり重なり、その外側を土のような層が覆っています。

資料館の焼成模型。器と燃料が中でどのように組み合わされるかを見ることができます。
資料館の焼成模型。器と燃料が中でどのように組み合わされるかを見ることができます。
横から断面を見ると、中にも器、上にも器。その隙間に燃料。完成した窯の外側だけを見ていたら分からない構造です。

別の模型では、下から火を入れる空間と、その上に器を積む場所が見えました。

こちらも資料館の展示模型。工房で現在使っている窯そのものではありません。
こちらも資料館の展示模型。工房で現在使っている窯そのものではありません。
土を器の形にして、それを火で焼く。言葉にすると単純なのに、どう積み、どう焼くかには、いろいろな工夫があります。

資料館の工程図や模型を見てから工房の写真を見返すと、さっきは何となく眺めていた設備や作業にも、役割が見えてきました。

■同じ「壺」でも、中に入るものが違います
もう一つ、面白かったのが「家庭で使う土の器」の一覧でした。

水を運んで保存する器。お米やジャックフルーツを調理する器。牛乳を沸かす器。お菓子をしまう器。塩やライムを保存する器……。

一つずつ見ていくと、そこにスリランカの暮らしが並んでいるようなのです。

器の形と、暮らしの中での用途を並べた資料館の展示。
器の形と、暮らしの中での用途を並べた資料館の展示。
展示の呼び名紹介されていた用途
Kalaya水を運ぶ・蓄える
Bath Muttiya / Kos Muttiyaお米・ジャックフルーツを調理する
Kiri Muttiya牛乳を沸かす。儀礼で牛乳を沸き立たせる用途も
Kavili Muttiyaお菓子を保存する
Pani Muttiyaキトゥルやココナッツの蜜を保存する
※呼び名と用途は、訪問時の展示を要約したものです。ティラキタで扱う個々の商品の名称や、使用可能な調理方法を示すものではありません。

形だけを見ていたときには、全部まとめて「壺」に見えていたものにも、それぞれ役割がありました。どんな食べ物を作り、何を保存し、どんな行事を迎えるのか。器の名前を追うだけでも、暮らしの中を少し歩いたような気持ちになります。

■「この器、あの人が作っているんだ」
工房を訪ねる前にも、テラコッタの素朴な色や形は好きでした。

でも、土を整えるところから見せてもらい、ろくろを回す人に会い、資料館で土地とのつながりを知ったあとでは、同じ器が少し違って見えます。

工房で見せてもらった器。いろいろな工程を見たあとでは、一つずつの表情が気になります。
工房で見せてもらった器。いろいろな工程を見たあとでは、一つずつの表情が気になります。
これは、あの布の間から取り出した土が、職人さんの手に渡り、乾かされ、焼かれてできたもの。そう思うと、手に取ったときに見えてくるものが増えるのです。

ティラキタが買い付けたいと思ったのも、そんな仕事を実際に見て、工房の皆さんと話せたからでした。

その後、この買い付けの品々が日本に届くまでには、洪水による被災や税関での足止めもあり、ほぼ一年かかることになります。その長い道のりは、貨物到着の記事でご紹介しています。

工房の皆さんとの一枚。左から3人目、赤いサリーの女性が所長さんです。とても熱心に工房を案内してくださいました。
工房の皆さんとの一枚。左から3人目、赤いサリーの女性が所長さんです。とても熱心に工房を案内してくださいました。
器を買う旅は、作っている人に会う旅でもありました。

今度テラコッタを見かけたら、ちょっとだけ、土だった頃のことも想像してみてください。その器を見る時間が、少し面白くなるかもしれません。

※工房・資料館の写真は2025年9月30日の訪問時に撮影しました。資料館については、撮影した展示の英語表記をもとに内容を要約しています。

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