指先に官能の喜びを覚えて。五感でいただく南インド料理のこと
今回は「ご飯をできるだけ感じながら食べる」というちょっとエッチなお話です。一回の食事ごとに快感を感じながら食べられたらどんなに素敵でしょうか…。南インド料理にはそれがありました。
■インド人は手でご飯を食べるというが
ご存知の通り、インドの方々は手でご飯を食べます。左手はお尻を洗う手で不浄なので、基本的に右手を使います。指で食べるとカレーが美味しくなるよと、よく言われます。
ティラキタ買付班、インドに通って25年ぐらい経つのですが。その中で日常的に手でご飯を食べてきたのですが。
実際じゃあ、本当に美味しくなるか?と言うと、実はさほどでもないと思っていました。
多少は美味しくなるような気がするけど。
そんな言うほどかしら?と。
正直、実感できていませんでした。
北インドのカレーを手で食べる場合は、パン的な存在のチャパティでカレーをすくったり、つまんだりして食べる場合がほとんどです。だから手で食べると言うよりも、多くの場合は何かにカレーをつけて食べるという感じです。
また北インドのカレーは、グレイビーでもっちりとしていて、そして脂っこいので、手で食べたとしても、指先の触感のダイレクトにくるわけではありませんでした。基本的にはただ指先ですくって食べるだけの行為でした。
■ご飯をずっといじってる!
その認識が変わったのは南インドに来て、地元の人々の食べる様子を見てからのこと。ケララの人々がご飯を食べる時、指先でずっとご飯をこねくり回してるのです。
すぐに食べない時でも、指先でご飯をかき回して遊んでいるかのようです。
実はこれこそが官能的にご飯を食べる方法であり、彼らは日常的にその動作を無意識に行なっているのだと気がついたのです。
■指先で感じる食べ物
ケララの人々は指先でご飯粒を感じながら食べているのだと気がついてからは、真似して食べてみることにしました。まず指先で、ご飯粒の凸凹、魚の硬さ、野菜の形や柔らかさなど感じます。指先に感覚を集中させ、指先で食べ物をよく感じるようにします。ケララではご飯とカレーは指先で熱く感じないくらいの温度でサーブされてきました。
脳に食べ物の感じを良くインプットしてから、初めて口に入れます。敏感な感覚器官である指先で十分に食べ物を楽しんでから、口の中でさらに楽しみます。
そこに広がっていた食事世界は、感覚的にとても豊かなものでした。エロスすら感じる、官能的なご飯の食べ方がここにありました。
指でご飯をいじりながら食べると、指先の感覚が鋭敏化され、お米で指先を愛撫されているような性的な感覚すら芽生えるようでいて。食べるという行為が、生殖と同じ、生きるて繁栄していく行為の一部なのであると自然と理解できるのでした。
特にこれは南インドのシャバシャバカレーとサラサラご飯の組み合わせの時に顕著で、前述したように北インドのチャパティとグレイビーなカレーの場合にはあまり当てはまりません。
目の前に食べ物があった時、なぜ口だけで味わい、指などの他の感覚器官で食べ物を感じたりしないのだろうか?
指先で感じる食べ方を発見して、そんな疑問が湧いてきました。
大切な食べ物を
まず目で見て視覚で鑑賞し。
カレーの匂いを嗅覚で感じ。
指で触って触覚で体感し。
口の中に入れて味覚で味わう。
そして食べる音を耳で感じる。
これこそがまさに五感で感じる食事そのもの。
食事が全感覚的なものになり、食べるという行為が食物とのまぐわいになる瞬間です。
■オーケストラの様にして食べる
南インド料理では、ごはん
サンバル
カレー3種位
アチャール
ココナッツチャツネ
ライタかヨーグルト
等が一つのお皿に乗ります。まず、ご飯の上にサンバルがバシャッとかかったら食べ始め。はじめはサンバルだけで食べてみて、そして次はカレーを一つ一つ、ご飯と一緒に味見します。
ココナッツチャツネと、ライタ、そしてアチャールもちょっとづつ食べて味を覚えておきます。ご飯と軽くミックスしても美味しいです。
そして食べ進めて行くと、サンバルとカレーのどれがが混じってまた別の味が出現して。カレー同士が混じってまた別の味が出現して。お皿の上のご飯のどこを食べても、同じ味が、もはや存在しない、しかし全て美味しいと言う状態になってきます。
この辺まで食べ進めてくると、ちょっと酸味が足りないな、とか、ちょっとヨーグルトを入れてみようかなと余裕がでてきて。
それをすべて手で混ぜながら食べるものですから、手は指揮棒となり、ご飯たちを踊らせて、上手にミックスして、その瞬間だけの味を作り出すのです。
それはまるで、お皿の上で、味のオーケストラを奏でているかのようなのです。
この様な感覚の食べ心地は他の料理では味わったことがありません。
南インド料理は、味もさることながら、指先の感覚もさることながら、食事内容を音楽を指揮している様に自由に変化させつつ食べることのできる料理なのでした。
■セクシーな食事をどのようにして食べるか
なかなか手を使って食べるということに抵抗がありますので、そこはちょっと慣れが必要かもしれません。指先で感じながら食事を食べるには、やはりシャバシャバの南インドカレーが一番適している気がします。
大きなプレートにご飯を盛り。
サンバルと、付け合せは2-3種類ぐらい作った方がいいと思います。
薄めのスープさえあれば、付け合わせはカレーでなくても構いません。
酸味のある一品も必ず用意してください。
出来上がったらさあ食べ始めましょう。
右手でよくご飯とスープを混ぜます。
指先に意識を集中させてご飯をよく感じてください。
ご飯の温かみ。
一つ一つのごはん粒の形状。
ご飯粒とスープの絡まり具合。
指先に感じるご飯のテクスチャー。
十分に指先でご飯を感じましょう。
十分に感じたなと思ったら、初めて指先ですくい、口に持って来ます。
いかがでしょうか?
いつもの食事と何かが違うのではないでしょうか?
食事をする時、今まで自分が味覚しか使ってこなかったのに気がつきませんか??
食事とは目の前の食べ物を、五感でフルにエンジョイするものである。与えていただいた大切な食べ物を全身で喜んでいただくものである。
そんなことを思いながら食べると、一回の食事がとても特別な、印象深いものになるのではないでしょうか。
そんな食べ方、なかなか日常的にはできないものですが。
意識して一度やってみると、自分が今まで感じていなかった、新しい感覚に気がつき、人生の喜びがもう一つ増えるのではないかと思いますよ。