これぞ究極のリサイクルプロダクト カシミールのペーパーマッシュ製品の工房を訪問する

■ハンディクラフトの聖地カシミール
ティラキタ買付班、インドのカシミール地方に行ってきました。インドは広くて様々な文化が混在している国ですが、歴史的にも、地理的にも、そして文化的にもカシミールはその中でも独特です。

今回の話の舞台であるカシミールはアフガニスタンやタジキスタンに囲まれ、もはやインドというよりも中央アジアといったほうがしっくり来る場所です。地図のココの場所ですね。



カシミールを訪れた理由は、クオリティの高さで知られる素晴らしいハンディクラフトを取材するためでした。カシミールはハンディクラフトの宝庫で、カシミール絨毯を始めとして、ペーパーマッシュ製品たち、カシミヤ製品、カシミール家具など、一流の作家たちが腕を競い、芸術品の域に達した素晴らしい工芸品がたくさんあると聞いていたのです。

これから何回かに分けてカシミールのハンディクラフトの紹介をしていきますが、今回は、ティラキタでも取り扱っている可愛いペーパーマッシュ製品の工房を紹介します。

■ペーパーマッシュ製品ってどんなもの?
ペーパーマッシュの作り方を説明する前に、まずはペーパーマッシュ製品がどんな物であるか、ちょっと見てみましょう。カラフルで、丸っこくて可愛い製品たちで、とてもこれが「ペーパーマッシュ=紙を砕いたモノ」であるとは想像がつきませんよね。

でも、実はこの製品たちは全部、リサイクルされた古紙から作られているのです。古紙からどうやってこんな素敵なハンディクラフトが作られるのか…ティラキタ買付班がその秘密を取材してきました。


■ペーパーマッシュ職人 ムシュタールさんちを訪問する
今回はカシミールのペーパーマッシュを、ティラキタに輸出してくれているザヒッドさんが工房を案内してくれました。ザヒッドさんの車に乗り込み、程なくして到着したのは、シュリーナガル市内のマーケット。古い木造の建築物やモスクが立ち並び、とても雰囲気のある場所です。

いわゆるデリーやジャイプールあたりのインドとは雰囲気が全く違うことがわかりますでしょうか。オートリクシャが走っているのはインドらしいですが、家の作りが全く違いますね。



車を停め、てくてくと小道を歩いていくザヒッドさん。なんだかとっても異国情緒あふれる街並みです。木造が懐かしく、なんだか夢の中で見た事があるかのような可愛らしい風景。



ほどなくして、1軒の民家の前につくと「ここがペーパーマッシュの工房だよ」と言いながら中に入っていきます。外には看板もなく、ただの普通の一軒家で、案内人なしでは到底たどり着けません。

3階建ての素敵なおうちに入っていくと、お父さんのムシュタール バットさんと、そして娘さんのマヒダちゃんが出迎えてくれました。ムシュタールさんは、30年もの間、このペーパーマッシュの仕事をし続けているベテランの職人さんです。マヒダちゃんは、ムスリムらしく、べールをかぶった姿がチャーミングな娘さんです。



日本からやってきたのかい? ペーパーマッシュの作り方を教えてあげるよ!!!

と言いながら、ムシュタールさんが庭を案内してくれました。

まず、一番最初に見せられたのはこちらの紙くずでした。日本でも見かけるような普通の紙くずです。ざっくりと裁断されたコピー用紙の古紙がビニール袋の中に詰まっていました。「この古紙からペーパーマッシュ製品が作られるのだ」とムシュタールさん。



次に見せてもらったのは、古紙が容易にほぐれてパルプ状になるよう、水に漬けておくタンクです。こちらの黒いタンクの中に、最低一週間以上、古紙を漬け込んでおくとのこと。紙がぐちゃぐちゃになっているので、見た目はちょっといまいちですが…紙を柔らかくするために必要な工程なのですね。



古紙が十分に柔らかくなった頃合いを見計らって、古紙を米粉汁で1時間ほど煮込みます。古紙だけでなく、お米の粉を一緒に入れて煮ることで、出来上がったペーパーマッシュ製品に強度が出るのだそうです。夏場は1時間位で十分に柔らかくなりますが、氷点下20度にもなる冬場は、もっと長時間かかるとのこと。下の写真の銀色の鍋で煮込むのだそうです。

古紙と米粉汁が程よく煮込めたら、木製の杵を使って、紙の繊維を完全にバラバラにしてパルプ状にします。「ペーパーマッシュ=ぐちゃぐちゃの紙」と言う言葉通り、紙が完全にパルプ状になるまで根気よく杵で撞きつづけます。

ティラキタ買い付け班、杵を持たせてもらいましたが、すごく重く、片手だと数回上下させるのがやっとでした。ペーパーマッシュの原料を作るだけでも重労働!!




そして最後に、このような感じのパルプが出来上がります。



■どんな形も手で作ります!!
ムシュタールさんに、ペーパーマッシュのうさぎができるまでを見せてもらいました。ムシュタールさんの目の前には大きな水色のたらいがあって、その中に紫色をしたパルプが入っています。



ムシュタールさん、適量のペーパーマッシュを手に取って、丸い形を作り始めました。あっという間に、細長い猫っぽい形を作って、ちょんちょんと耳を作って出来上がり!!!! 一匹の猫を作るまでに必要な時間は1分半位でしょうか。ものすごく慣れた手つきで、どんどん作っていきます。



いくらハンディクラフトとは言っても、型に入れて大雑把に整形してから形を整えるのだろう…。それ位の効率化はしているだろうと思ったのですが。ムシュタールさん、型は使わず、完全にフリーハンドで形を作っていきます。

ティラキタ買付班も、試しに作らせてもらいました。「ただ紙を丸めるだけだよね?」と簡単に考えていましたが、実際に作ってみると、これがとても難しい!!! ムシュタールさんはいとも簡単に作ってるのですが、ティラキタ買付班には全然できません。5分かかって、なんとか似たようなものができましたが…

ははは! これじゃ売り物にはならないな。

と笑われる始末です。

猫の形に整形したものを乾燥させると、カチカチの状態になって、ペイントできるようになるのだそうですよ。そして乾燥すると色が変わるのだそうです。



乾燥させている光景を見せてもらいました。遠くにシュリナガル市内のどこからでも見えるハリ・パルバットフォートが見えますね。素敵な眺めです。夏場は屋上で乾燥させますが、冬は雪が降るので家の中に小さな小屋を作って、暖房を入れて乾燥させるとのこと。



■余った部品も完全リサイクル!!
工房訪問時にティラキタ買付班がびっくりしたのは、こちらのちょっとゴミに見える紙のこと。こちらはペーパーマッシュ製品を作る時に出た余り分なのですが、これもリサイクルされ、もう一度使われるのだそうです。余り分を取っておいて、もう1回ほぐし、水で溶かたら、もう1回材料として使えるのだとザヒッドさん。



とにかく何も捨てない、そして無駄がない。 現地を訪問してみたら、ペーパーマッシュ製品が究極のリサイクルプロダクトであることがよく見えてきました。

■乾燥した型に色を塗る
さて、形ができたところで、絵付けに入ります。
絵付けは絵付けで、また別の工房で作られていました。

ねえ、ザヒッド。教えてほしいんだけどね。カシミールのペーパーマッシュっていうのは、みんな、自分の家か小さな工房で作るものなの?

そうだよ。カシミールのハンディクラフト製品たちは、基本的には家の中でコツコツと作られるモノなんだ

ペーパーマッシュだけじゃなくて、カシミール絨毯も?

そうだよ。みんな、基本的には自分の家で作ってる。だから子供の面倒を見ながらでもできるし、自分のペースで仕事ができるんだよ。家内制手工業の伝統なんだよね。


次にティラキタ買付班が案内されたのは、ペーパーマッシュの色付けを行っているところでした。雰囲気のある素敵な建物の中に案内されました。素敵な建物のすぐ横に携帯の基地局があるのが現代的ですね。


素敵な壁の雰囲気の緑色の階段をてくてくと登り。


入ったお部屋の中はイスラームの美しさに溢れた素敵な空間でした。ゆっくりとした時間が流れる中、おじさんがゆっくりとペーパーマッシュに絵付けをしていました。



ペーパーマッシュは紙で作ってるから柔らかいと思いがちですが、実は相当丈夫で木にも負けない強度があります。もちろん紙から作られているので、水には弱いのですが、通常使用するぶんには割と大丈夫な丈夫さです。

一番最初にベースカラーを塗り、下絵であるアウトラインを描き始めます。おじさんのやっている工程はまさにアウトラインのところ。アウトラインの後、カラーシェーディングを付けていきます。



全て描き終わったらクリアーのラッカーで塗って出来上がり。ラッカーを乗せる工程は最低3回やるそうですよ。

こちらはまた別の工房で、ペイント作業をしているところの写真です。シンプルなペーパーマッシュにゴールドがとても映えますね。



■人の手間で作られているペーパーマッシュ製品
さてさて、最初から最後までペーパーマッシュ製品の製作工程を見てきましたが、いかがでしたでしょうか?

ただ「紙から作られているんです」って言うだけの製品ではなかったですよね…
むしろ、想像を遥かに超える手間がかかっている、特別なハンディクラフトでした。

実はティラキタ買付班も、「紙をどろどろにしたものから作られているらしいよ」位の認識だったのですが。実際に訪問して、その制作現場を目の当たりにすると、衝撃を受けるくらいの手間がかかっている特別なモノだったのでした。

最後にティラキタ買付版班とムシュタールさんご一家で写真を撮らせてもらいました!!
ムシュタールさん、マヒダちゃん、そして案内してくれたザヒッドさん、ありがとうございました!!!


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