レストランに入るだけでスーパースター! インド・ポリエステルの魔都スーラットを訪問する
目次
■ポリエステルの魔都。その名はスーラット
ティラキタ買付班、2019年10月にインドのポリエステルの一大集散地であるグジャラート州のスーラットを訪問してきました。インドでバイヤーをやっている人だったら一度は聞いたことのある、でもなかなか行く機会のない都市スーラット。
インドでポリエステルを買おうとする時、この布はどこから来たの?って聞くと、大体の人はスーラットだと口をそろえています。
バラナシで買ってもスーラット、ムンバイで買ってもスーラット。インドのどこでポリエステル製品を買っても、すぐにスーラットの名前が出てきます。
最初はスーラットってどこよ?と思っていましたが。
とにかく何でもかんでもポリエステルはスーラットから来てるのでした。
名前を聞くうちに段々と行ってみたくなるのはバイヤーの性というものでしょう。
以前「ムンバイの中心でイン インディア エブリシング ポッシブル!!!と叫んだサリー屋」でも紹介した、サリーショップの店長さんアミットバイもやはりスーラットから商品を持ってきています。
アミットバイいわく、スーラットは怖いところだ。スーラットで英語は一切通じないぞ。スーラットはお前の歯の立つところではない。だから俺と一緒に行けと何回も言ってきました。
アジアが長いからでしょうか。そういう風に言われると逆に自分の目で見たくなるものです。美味しい話を隠してるんじゃないかと、言葉の裏を読んでしまう習慣になってしまっているのです。
人の言うことを正面から信用しないというのは、日本では全く美徳とされませんが、やはりアジアやインドで長く仕事を続けていけるメンタリティの一つではあるでしょう。
スーラットの名前を聞き始めてかれこれ15年。
2019年10月にやっとこティラキタ買い付け班、スーラットを訪問することになりました。
スーラットはインドの西側にあり、ムンバイから電車で10時間ほど走った所にある街です。
■インドサリーの大半はポリエステル
日本では衣類の素材としてコットンが好まれますが、インドの人たちはポリエステル製のサリーや布が大好きです。軽くて丈夫、ビビッドな色に染まり、お値段も安く、高温になるインドの気候にもあっているんですね。
この様なビビッドな色のサリーはおよそ全部、ポリエステル製です。
余談ですが、ポリエステルのサリーって、とっても引火しやすいんですよね。
薄い化繊の布ですから、一度火がついたらあっという間に燃え広がるのですが、インドの農村では未だに薪や牛糞で煮炊きをしているところが多くありまして。
サリーに引火して火だるまになって大やけどっていう事件が頻繁に発生していたそうですよ。
それでも彼女たちはポリエステル製のサリーを選び続けるのですが。
■ポリエステル富豪を描いた映画GURU
2007年にヤシュラジフィルムからリリースされたGURUという映画がありました。主演はアビシェクバッチャンと、アイシュワリヤラーイという美男美女の組み合わせで、大ヒットした作品です。
まさにこの映画のテーマがポリエステル。元になった主人公はインド最大の産業王であるディルバイアンバニの生活に基づいているのですが、このディルバイアンバニがポリエステルを商売のネタとして、どんどんインドの工業界でのし上がっていく姿が描かれています。
困難にも負けず、手段を問わず、どんどん工場を拡大していく姿。
この映画はポリエステルと言う新しい繊維が、インドの市場にぴったりであったことを如実に表していました。
■街の中に広がる繊維市場
私たちティラキタ買付班は、デリーから飛行機でスーラットに飛びました。
エアインディアに乗って1時間とちょっと。あっという間にスーラットに到着です。スーラットの空港はちょっと立派な地方空港といった感じで、周りはには南国らしい緑が溢れた素敵な空港でした。
タクシーに乗ってホテルに向かいます。タクシーの窓からは、確かに、街のそこかしこにファブリックマーケットがあるのが見えました。
ホテルに到着してから改めて、「ファブリックマーケットはどうやって行ったらいいんだ?」とに聞くと、その辺にいくらでもあるよとの答え。
私たちティラキタ買い付け班、その中でも一番大きなニューテキスタイルマーケット周辺に足を向けてみることにしました。
■過酷なインド買い付け
インドのマーケットで買い付けをしているよと言うと、「いいなぁ~。ぜひ連れてってよ!」と、よく言われるのですが、正直な話、インドのマーケットで買い付けというのは全く楽ではありません。
相当過酷な仕事であると言ってもいいでしょう。
インドのマーケットはとにかく混んでいるのです。
車、オートリクシャー、リクシャ、そして商品を持った人達、牛でごちゃごちゃに入り乱れていて前に進むのもままなりません。地面は舗装されていない場所が多く、空気の中を土埃が舞っています。
みんなゴミをそのへんにぽいぽいと捨てますので、路上はダンボールで覆われています。コンクリートの上には土埃が積もっていて指で撫でると跡がつきます。
舗装はされている場所もあるものの、工事は適当で、道路端の舗装は崩れたまま。
下水もきちんと整備されていないので真っ黒い水がその横を流れていきます。
そして全ての車という車、オートリクシャーというオートリクシャがクラクションを鳴らしまくるのでうるさいことこの上なく。
クラクションの洪水、埃、人の洪水、そして暑さの中で仕事をします。
何日かいると、段々とぜんそくが出始め、空気が悪いのだと言うことを体で思い知らされます。
デリーでもムンバイでも、インドの市場というのは、だいたいどこもそんな感じです。
気温40度以上になるインドで、そんな埃っぽい中で商品を探していく。もちろん、良い商品がすぐに見つかるとは限りません。1日ずっと探し続けて、買い付けできる商品がない日も、もちろんあります。
それがインド買い付けです。
インド買い付けはただひたすらに過酷なのです。
でもインドにしかない商品がある、インドには素敵なセンスの商品がある、ということで私達はやはり行かずにはいられません。
■巨大な繊維市場の中に潜入してみる
人ごみを抜けて、クラクションを聴きながら、ニューテキスタイルマーケット周辺に到着しました。
とりあえず手近なところから入ってみることにします。
お、サリー屋さんがありました。
ちょっと入ってみます。
サリー屋さんで値段交渉しようと思ったら…なんと!全く英語が通じない。
とにかくびっくりするほど英語が通じないのです。インドに旅行に行かれた人だったらわかると思いますが、インド人は語学が達者で、普通に誰でも英語を喋るという印象だと思います。
でもここスーラットで英語を喋る人はほとんどいませんでした。彼らには英語は必要ないのでしょう。とにかくインドの中で大きなインド全土に物を発送してれば済むという仕事なのでしょう。
「英語がしゃべれる人はいないの?」と聞いたら、学生の娘さんが電話を代わってくれ、伝言ゲームのようにしてやっとこ値段が聞けました。
値段を聞くだけで一苦労なので、この人たちと仕事するのはとっても無理そうです。しかも実際問題、値段は他の街と変わりません。
きっと大手のバイヤーや、長期のバイヤー、同じインド人同士に出す値段と、私達にいう値段が違うのでしょう。世の中というものはそう言うものです。
■延々と布を折り続ける人たち
巨大繊維市場の中を、テクテクと歩いていると、延々と布を折りつづける人たちが次から次へと出てきます。
こんな独特の道具で、右に左に布を引っ張って、1mごとに折り続けます。
この人たち、ずっとこの仕事してるんだろうな〜
一生ずっとこの仕事してるんだろうな〜
■同じ様な布地しかない!!
ビルの中をどんどん歩きますが、とにかく同じような風景と同じ様な布しか出現しません。
基本的に僕たちが欲しいのはコットンなのですが、コットンの店はここには一切ありません。話には聞いていましたが、スーラットはやっぱりポリエステルの街なのでした。
ここスーラットからインド全土に商品が出荷されていきます。
このお店はデリーのなんとかさん、この店はジャイプールのなんとかさんと言う風に、一つ一つのお店に一つ一つの顧客がついているはずです。だからスーラットで似たようなものを全員が扱っていても、基本的には全く問題がないのだと考えられます。
■英語がぜんぜん通じない
先ほどのサリーのお店では英語がまったく通じなかったのですが、それはきっとレアケースだと思って、色々なお店で話しかけてみました。
やっぱりここの人たち、英語がほとんど通じません。
インドといえば英語が通じる国です。英語が第二公用語という国なので、英語が通じるのが当たり前と思っていましたが、ここまで英語も通じない場所があるのだと、逆にびっくりしてしまいます。
市場の中をうろうろ歩いていると、外人は大変珍しいようでして、逆に質問をされたり、怪しい人が歩いているという目つきで睨まれたりします。
歩いていてもインドでよく感じる居心地の良さは感じません。むしろ僕たちは来なくてもいい、アウェーに来てしまったんだということを歩く度に思い知らされるのです。
市場の中を歩いていると、何回も、「なぜお前がここにいるのだ?」と聞かれるのです。
そんな言葉、インドで聞いたの初めてです。
20年以上、インドに通っていますが、初めてでした。
外人が来てはいけないような場所に来てしまったような気分しかしません。
ムンバイのサリー屋さん、アミットバイが忠告してくれたことは本当でした。
アミットバイ疑ってごめん!
■どのビルに入っても商品は似たようなもの
とはいうものの、せっかくスーラットにやってきたのでいろいろ見て回ります。
こんな調子の街ですから、スーラットに来ることはもうこの人生の中で2回目はないでしょう。だからこそ、スーラットの市場をできるだけ多く歩いてみることにしました。
ニューテキスタイルマーケットの前には、何軒も大きなビルがあり、そのすべてがファブリックマーケットです。
中に入ってみるとどこやっぱりどこのお店も大体同じ感じ。ニューテキスタイルマーケットの中は広くて歩きやすかったのですが、小さなマーケットになればなるほど、だんだんごみごみして汚くなっていきます。
■レストランに入ったら、ヒカキンが来たレベルの対応!
夜になって近くにグジャラート料理の名店があるというので食べに行きました。
お店に入ってみるとテーブルの上に整然と並んだプレートにビビらされます。
メニューは一個しかなく用意されて勝手に始まります。
だいぶ斬新な営業スタイルですが、これがこの地方では普通なのでしょうか。
こやはりこのお店に外人が来ることは珍しいのでしょう。
歓迎されはするのですが、ずっと一挙一投足を監視されてるような気がします。
グジャラート料理自体は大変美味しかったです。
最後に店員全員と記念撮影!
レストランに入って、店員全員と記念撮影なんかすることある?
人生で始めてだよ!
■外人が来る街ではなかった!!
インドの他の町に行くと、外人の旅行者や、同じ仕事仲間にしばしば会うことはあります。そしてインドのどの街に行っても、私たち外人観光客は割と歓迎されている、もしくは空気の一部として認識されてると思っておりました。
しかしここスーラットは、そもそも私たちが来ることを全く想定していない街でした。
街のどこを歩いても外人の姿は見えず。この街に外人がいること自体が非常に珍しいことらしくて、興味本位に声をかけられたりするのです。
なんだか全然落ち着かない!!
ということで15年間名前を聞き続けてきたスーラットは、インド人の、インド人による、インド人のためのテキスタイルマーケットだったのでした。
いくらインドに精通してる私たちといえども、ここからは入ってはいけないインド、というものがあるような気がするのですが、私達にとって、この街はそのひとつだった気がします。
インドでサリーというと、シルクかコットンという印象でした。
ネパールではポリエステル製のサリーが人気でしたが、なんと日本製でしたね。「ジャパニ・サリー」がみんなのあこがれの的でした。広尾あたりに卸しのお店があったような記憶があります。
はい。もう30年以上も昔の話です^^;