ネパールのパンツマスク
カトゥマンドゥを空から見る 盆地の中が全部見えないほどの大気汚染 |
ネパールのカトマンドゥ、そこは昔から多くの旅人や登山家、ヒッピー達を魅了して止まないヒマラヤの麓の古い都だ。世界最高峰のエヴェレスト、有名な湖畔の保養地ポカラ、野生の動物たちが闊歩するチトワン国立公園、それらへのアクセスが一手に集まるハブとして、そして古きカトマンドゥ盆地に残る古王国の息吹を残す街々の中心として世界にその名を知られている。
そんな訳でこの街は昔から多くの人が行きかう活気に満ちた街だった。最初はそれでよかったのだけれど、次第に車やらバイクやらが増えるにつれ、大気汚染が深刻な問題になっていった。盆地に位置しているため、汚染された空気が逃げにくいという地理的条件、冬の間はきわめて乾燥していて雨の少ない気候条件も相まって、ベストシーズンである冬のカトマンドゥは灰色の霞に覆われたようになってヒマラヤの山並みを見渡せることはほとんどなくなってしまった。
だからと言ってすぐに車を減らせる訳もなく、目下カトマンドゥ市民はマスクをつけて自衛するしかない状況だ。寒くて乾燥している上に空気が悪いとあっては風邪にもインフルエンザにも非常にかかりやすくなる。ローカルがつけているのを見て旅人たちも慌ててどこかで買ってつけている有り様だ。
私もそんな旅人の一人で、咳が気になって早速マスクを買おうとローカルマーケットをうろうろしながら探していた。ツーリストエリアはやっぱり何でも高いからだ。どこにでもあると思っていたのになかなか見つからず、ようやく靴下や帽子を売っているお店の軒先でたくさん吊るされているのを発見した。
どれどれ、と見てみるとなにやら全部おしゃれでカラフルだ。どれがいいかなと思って一つ一つ手にとって見ると、あれ?なんだか変だ。この触感、この色使い、確かどこかで触ったことがあるような。もしかして…そう思いながらじっくり見てみると。。
そう、形こそマスクなのだけれど、生地がみんなパンツなのだ。しかもどれもこれも女の子のパンツなのである。種類の系統も実に様々なのだ。いかにも脱がせ甲斐のありそうな黒のレース地のものがあるかと思えば、大中辺りで並んで売られていそうなプリントものもある。そんな数々のパンツマスクがカラーバリエーションも豊富に吊るされているのだ。しかも表だけでなく裏側までしっかりとパンツの裏地の質感を再現するという全く意味の分からないこだわりっぷりだ。困った顔をしていると店のおっちゃんがにこやかに
これがそのパンツマスク |
「これなんかどうだね。」と平積みにしてあった別のマスクを出してくれた。そのマスクはなんと白地に黄色のひよこさん柄である。
「それさすがに犯罪じゃねえのかよぉ!!」と突っ込みたい私の気持ちは全く無視されて
「これならディスカウントしてもいいよ。」と笑顔のままだ。そういう問題ではないけれどそれを説明するのはとても難儀である。
確かに大気汚染で敏感になった鼻と喉はとてもデリケートで、そういうデリケートゾーンに着用するものだから同じくデリケートな用途に用いられる素材を転用するというのはこういう場所ならではの適切なアイディアなのかもしれない。でも、それは買えません。
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。