中国とインドに挟まれる世界最貧国ネパールの玉ねぎ事情

■ネパールから冬物がやってこない
大変困った事に、今年はティラキタにネパールから冬物が届きませんでした。ネパールへのオーダーは時間がかかるので、注文は6月頃にしていて、4ヶ月間の余裕をもって、10月ぐらいに到着するように準備をしておいたのです。6月に注文してから数カ月、あまり全く音沙汰がなく、10月のフェスティバルシーズン前に数百万円の支払いを求められ、支払ったはいいものの、やっぱり荷物は届きません。どうしたのでしょうか…。こう言う事があっても大丈夫なように、ティラキタはネパールだけでなく、インド、インドネシア、タイ、ベトナムなど色々な国と取引をしていますので、一国からの荷物が届かないと言って、私たち自体が困ることは、あまりありません。しかし。ネパールの取引先にとってみれば、私たちは結構大きな取引先であると思います。 少なくとも、無視できるサイズの取引先でないと思います。ティラキタに納品する、数百万円という商品は、ネパールの感覚で言えば何千万円という感覚の売り上げで、何千万円かの売り上げが消えてしまうということは、ティラキタの商品を作っている何十人もがご飯が食べられなくなるということを意味します。当然のことですが、衣料品はちゃんとその季節にお客様にお届けする事ができなければ、その年の売り上げが消えてしまいます。ネパールの彼らにとって、それでも本当に大丈夫なのか? なぜそんなことが起きているのか?きっと、大変困った問題が起きてるに違いありません。今回のティラキタブログでは、先進国に住む私達には考えられない、発展途上国ならではの事情を深堀りしていきたいと思います。
■世界最貧国ならではの事情
ネパールは世界最貧国の一つです。 世界最貧国ってどんなものなのか。実際に私たちも長いこと付き合ってみて、そして実際に困難にあたってみて、初めて気が付く部分が多くあります。ネパールでは全てが思うようになりません。 日本では空気のように当たり前なことが、ネパールでは全く当たり前ではないのです。当たり前でないこと その1:電気が来ない現在はだいぶ良くなっているようですが、4-5年前までは、ネパールでは1日12時間ぐらいしか電気が来ないのが普通でした。電気の供給が足りていなかったので、カトマンドゥ市内をブロックに分けて、ブロックごとに計画停電をさせ、電気を何とか供給していたのです。縫製工場でもミシンは動かないし、電灯も点かないのですから、そもそも仕事にはなりません。だから、ちゃんと納期を守る仕事をしようと考えている工場は、自前の発電機を持っています。電気が安定せず、自分のところで発電機を回さなければいけないことは、最終的にコストが高くなってしまうということを意味します。現在はまずまず安定して電気が来ているようですが、やはり予期しない停電はありますので、パソコンは安心して使えません。当たり前でないこと その2:燃料が安定して供給されない日本ではガソリンスタンドに行けば、簡単に手に入るガソリンですが、ネパールではそれもままなりません。ガソリンスタンドの前ではいつもバイクが列を作っている光景を目にします。発電機に入れる軽油やガソリンはほとんどインドからの輸入品です。 インドが一旦禁輸すれば、国中にガソリンがないと言う状態になります。ガソリンが1リットル700円! 燃料環境最悪な今のネパールと言う時期が2015年にありました。当たり前でないこと その3:できる若者がいないネパールは発展途上国ですので発展途上国らしく若者がいっぱいいると考えがちです。基本的には、若者はいっぱいいます。 いるはずです。しかしネパール本国を見ると、若者はそんなにいません。 特に頭の切れるできる若者がいません。 その理由は、若者の多くが、中東諸国などに出稼ぎに出てしまうからです。日本でも最近ネパール人のコンビニ店員を見かけますが、あれは氷山の一角で、彼らの多くは中東諸国に向かいます。すなわち、ネパールは発展途上国なのに、国内に若い労働力があまりなく、国づくりを満足に行うことができなくなっているのです。カトマンズ市内でも、道路の整備は行き届かず、車が通るたびに埃がもうもうと上がります。 2015年の震災の時からの復興もなかなか進みません。必要な公共工事ですらそのような状態なので、服飾工場で人を雇うと思っても、十分なスキルをが持ってる人がなかなか集まらないのが現状です。日本では、日本の国内でスキルを高めることが普通です。日本の国内で働き、自分のスキルを高めていく。 その結果として、最終的に日本全体が良くなる、というループが普通ですが、ネパールではそれが成り立たないのです。ネパールでいい働き口がないから、みんなどっかに働きに行っちゃいます。 寂しいことです。当たり前でないこと その4:住所がない国民全員住所不定? ネパールの不思議な住所事情と言う記事で、ネパールにはきちんとした住所がありませんと言う話をお伝えしたのですが、住所がないということは、郵便配達や社会システムが、効率的にできていないことを意味します。今、日本で私達が当然のように享受している便利な宅配サービス ピザのデリバリー 荷物の受け取りなど、およそ住所が必要なすべてのサービスがうまく動いていません。このように電気がない、社会に労働力がない、住所がない、という、そもそも私達では全く考えられない所に、ネパールの困難さがあります。当たり前でないこと その5:山だらけで道路が満足に作れないこの困難さがそもそもどこから来ると言うと、ネパールが山だらけのヒマラヤの国であるという事情によります。ネパールには海がなく、国土のほとんどが山です。 ネパールは海のない山岳国です。 海のない国というのは大変悲しいものでして、海を通じて外国と通商をすることができません。大きな商品の輸出入は、海を持っている隣国頼りになります。 効率的なコンテナで商品を輸出入することが難しいのです。もちろんできないわけではありません。カトマンズから海上コンテナを出そうとすると、カトマンズから山を降り、ビルガンジの国境を経由して、インドのビハール州に入り、ウェストベンガルを抜けて、コルカタの港にて初めてコンテナ船に荷物を載せられます。カトマンズから海上コンテナを出そうとすると大変長い時間がかかってしまいます。そのような事情から、ティラキタの商品はすべて飛行機で空輸されてきます。ネパールは8000M級の山々が8座もある国です。 険しい山だらけの国です。道路を作るだけで、大変な苦労が伴います。日本のように国中に道路を作ったり、高速道路を張り巡らせたりするのが非常に困難なのですね。感じとしては国全体が、日本アルプスの中にあるというような感じでしょうか…。このような事情を色々考えていくと、そこでビジネスをし、私達の日本のような先進国の要望に応えること。そもそもそれ自体が大変な困難だと言わざるを得ません。そりゃあ若い人たちは、逃げ出したくもなるよなと、同情してしまいます。実際、ティラキタに働きに来ているサラダちゃんだって、ネパールには帰りたくないって言いますもの。ネパールの国に残って、自分たちのスキルを高めていかなければ、ネパールという国は付加価値が付かず、生き残ることができないのに、みんなネパールから逃げ出してしまうのです。今年オーダーした私達の商品は、このような事情が重なって、期限通りに届かなかったのだろうなと想像できるのです。
■インドに頼りきった経済事情
ネパールには海がありません。 そして背面をヒマラヤに遮られているので、簡単に通商できる唯一の国はインドです。誇張せずに言って、ネパールの運命はインドに握られています。ここ最近になってヒマラヤを越える道路が良くなり、ネパールと中国の通商がだんだんと盛んになってきましたが、やはりそれでも、ネパールの輸出入の80%は対インドです。インドがネパールに対する輸出を止めたらネパールは簡単に干上がってしまいます。
■玉ねぎを輸出しなくなったインド
今年の冬、ネパールで困った問題が発生しました。 ネパール人の主食であるカレーに使用する玉ねぎを、インドが輸出停止したのです。インド人もネパール人も、基本的にはカレーを食べていますので、玉ねぎはなくてはならない食材です。玉ねぎを禁輸するということは、日本人にとってみれば、米がなくなるということを意味します。ネパールにとってみれば、インドから死刑宣告をされたような状態です。 なんて酷い!!! 俺たちに死ねというのか!と。もちろんインド側にも言い分はあります。インドのニュースでもIndia bans onion exports after monsoon rains damage crops and prices soarと報道されています。インドでは今年の夏から秋にかけて大規模な洪水が発生し、十分な量の玉ねぎが収穫できていません。玉ねぎはインドにとっても頭の痛い問題で、年によっては玉ねぎの値段が日本よりも高くなったりすることもあるのです。インドでは玉ねぎが政治家の運命を握っているとも言われるくらいです。インドとしては、まず自分の所の13億人の人口を食べさせなければいけないので、隣国ネパールに輸出してあげるような余裕はないのですが…。仕方ないことではありますが…。今回の玉ねぎだけでなく、インドはネパールにここ近年様々な形で圧力を強めつつあります。2015年のネパールの大震災の半年後に、ネパールが困っている状況にも関わらずネパールが鎖国状態になったのは記憶に新しい事です。このブログでも地震を超える危機!! ネパールが鎖国状態になっていますとしてレポートをしました。
■地政学的、軍事的重要さからネパールに近づく中国
中国が15年ぐらい前に、青海省の省都西寧からラサに走るチベット青蔵鉄道を完成させました。海抜5000mを超えるような所を通る、極地を走る鉄道で、その建設が非常に困難だったことは想像に難くありません。そして中国は今、そのチベット青蔵鉄道をラサからネパールのカトマンズまで走らせようと計画しています。中国からネパールのカトマンズまで鉄道が繋がったら、ネパール、インド、中国あたりの軍事バランスが大きく変わり、中国側に有利になるのは容易に想像がつきます。そして今回も、インドが玉ねぎを禁輸したことで、中国がネパールに玉ねぎを大量に輸出し始めました。中国の玉ねぎは標高4000mの高地を、3500キロも走って、カトマンズまで運送されます。今、気の遠くなるような距離を走って玉ねぎがネパールに運ばれているのです。今年の冬、カトマンズ市内は中国産の玉ねぎで溢れてるとのこと。もちろんインド産やネパール産の玉ねぎと、中国産の玉ねぎの味は全く違いますが、背に腹は変えられません。ネパール人は玉ねぎなしではご飯が食べられないのですから。冷たくしているインドに対し、中国が玉ねぎでネパールの歓心を買おうとしている構図がありありと透けてきます。玉ねぎで軍事的な優位性が買えるんだったら、中国にとってネパールは激しく安い買い物と言わざるを得ないでしょう。
■今後ネパールはどのように生きていくのか
実際に行ってみるとわかりますが、ネパールはインド文化圏の一部です。歴史的な背景がなければ、インドの一部として併合されていたとしても、全くおかしくはありません。もちろん様々な歴史的な背景があるから、ネパールはネパールとして独立しているのですが。そして今。中国がトラックで、鉄道で、ネパールにどんどん近づこうとしています。 中国の発展にともない、今まで険しいヒマラヤに阻まれていたルートが実用に耐えるレベルで開きつつあるのです。もちろんネパールにとっては、インドに頼りきりだった今までの情勢が変わり、インドと中国と言う2つの大国のバランスをとって生きることができるので、自国の政治的地位が格段に有利になることは間違いありません。しかし、中国の接近は、そのうち、ネパールの文化をも変えていくでしょう。 インド文化圏の一部だったネパールが、今後30年、50年という間にどのように変わっていくのか。ティラキタとしては、商品がなかなか来なくとも、辛抱強く、ネパールとの取引を続けながら、見守っていくのかなぁ…と思うのです。
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