溢れるほどの肉・肉・肉!! ムンバイのイスラム街を訪ねる

■ムンバイにムスリム教徒が住んでいる街があった

上野のような終着駅的な存在であるチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅。インド人の間では略してC.S.T.と呼ばれるこの駅は、インド各地から様々な旅行者が降り立つ、インドの中でも非常に重要な駅の一つです。

その駅から一駅行った所に今回の目的地であるマスジッド駅があります。マスジッドとはイスラム教の壮大なモスクのことで、名前からも「イスラム教徒の街ですよ」とわかります。

マスジッド駅を降り立ち、テクテクと歩き始めます。
数分歩くだけで、ここが一般的なインドとはどこか違うことに気が付きます。


街では黒装束の女性が歩き、モスクがあり、人々が礼拝をしていて、ミナレットの上のスピーカーからは1日5回、コーランの詠唱が流れてきます。イスラム教徒の街ならではの商売である香水屋や、クルアーンを売っている本屋、白くて薄いイスラム帽を売っている帽子屋、女性用のイスラム服であるヒジャブやニカーブを売っている店などが点在しています。

代表的な中東の食べ物デーツも売っていました。


ここマスジッドはインドであるのにインドでない。
どこか中東に旅に来たような雰囲気があります。



レストランの前に人が並んでいるのはイスラム街ならではの光景。イスラム教では持てる者が持たない者に喜捨をするザカートと言う習慣がありますが、この人達はレストランからの喜捨を並んで待っている所です。「こんなに列になって店の前で並ばれたら営業妨害だよ!」って思いますが、彼らにとっては日常の一コマで、ちゃんとクルアーンに従って喜捨をしているいい証明になっています。

■イスラム街のレストランは肉祭り
基本的にインドはベジタリアンの国です。人口の半分か6割以上はベジタリアンだと思います。その理由は宗教的に肉を食べることが、あまりよい事とされていないため。ですのでインドでは街中のレストランの多くはベジタリアンレストラン。

ですがここマスジッドは違いました。通りに並ぶレストランでは堂々と肉が売られ、多くの人々が肉を喰らい、まさに肉祭りの様相を呈しているのです。

肉を焼くケバブ屋さん。ケバブは中東諸国ではごく一般的な料理です。


1997年から続くサルワリ・ホテル。ホテルと名前がついていますが、立派なレストランです。メニューに並ぶのは脳みそのカレーであるベジャ・フライ、ひき肉のカレーであるキーマ、肉団子のコフタ、アフガン風チキン料理のチキン・アフガニなど。肉ばっかりという印象です。


店頭でカレーを煮込んでいたので、近づいて鍋の中を見せてもらいました。唐辛子のエキスが溶け込んだ赤い油の中に、グレービーソースと一緒にチキンやマトンがゆっくりと煮こまれています。長い時間をかけてゆっくりと煮こまれ、アツアツの状態でサーブされるスパイシーな肉料理は間違いなく絶品に違いありません。


他のお店も見てみます。手前のお盆には足だけのタンドゥーリチキンが山のように並べられ、フルサイズのタンドゥーリ・チキンは奥に吊り下がっています


なぜか緑、黄色、赤に菜色された肉が並んでいます。これってインドの国旗カラー?? 緑の肉なんてあまり食べる気にはなりませんが、店頭に堂々と陳列している所を見ると、これもまたお客さんを呼ぶアピール効果があるってことなのでしょう。


緑の肉が挟まれたサンドイッチも発見! これはちょっと無理…。これを見て食欲が湧く人がいるから作っているのでしょうが…大きな文化の違いを感じます。

■普通に町中で屠殺している
日本の街中で屠殺している光景って見たことがないと思います。日本で屠殺は私達の見えない所で行われ、できるだけ家畜を苦しませないよう、電気ショックで殺すそうです。

でも、南アジア世界では動物は普通に街中で屠殺されるもの。朝早く、生きている羊や鶏が運ばれてきて、店先で屠殺されます。店頭に並んでいる肉は、多少不衛生ではあるものの、フレッシュそのもの。ヤギや豚などの大きな家畜はそれ用の屠殺場所がある場合がありますが、鶏は平然と店先で屠殺されています。


生きている鶏は下のケージに入っていて、一羽づつ取り出されては屠殺される屋台があったり。


切り分けられたお肉の中にはもちろん、肝臓や脳みそもあります。肝臓は肝臓を使ったカレーに、脳みそもベジャ・フライと言う特別な料理になります。

■老舗のレストランに入ったらなんと牛肉メニューが!!!

ティラキタ買い付け班、イスラム街の中でも評判のレストランNOOR MOHAMMADI HOTELに入ってみました。このレストランは1923年から90年以上もの間、連綿と続く老舗のレストランで、イスラム街では知らない人がいないほどの存在です。到着したのはちょうど夕食時で人でごった返していました。


レストランに入ってメニューを見ると…なんとビーフが!!! 
インドで堂々と牛肉料理を売っている!!!

こないだ牛肉を持っている人がいるからって、極右ヒンドゥー教団体が列車を襲ったっていうニュース見たよ!!
このレストラン、大丈夫なのか…襲われないのかと心配になってしまいますがもちろん、全く問題がないから売っているのでしょう。


このお店の看板メニューであるチキン・ハキミを頼んでみました。炭火でジューシーに焼かれ、程よく焦げ目のついたチキンに絡まるレモン風味のスパイシーヨーグルトソースがたまらないマッチングでした。今までインドで食べた肉料理の中でもダントツの旨さでした。
■牛肉を巡るここ最近の情勢
今までインドで牛肉を食べることはもちろん良しとはされていなかったのですが、ここに来て、国全体で牛肉を食べられない様に法制化しようと言う動きが起きてきています。

牛肉が禁忌とされるのは御存知の通り、牛がヒンドゥー教の聖なる動物だからです。牛は生きていれば農耕に使え、牛乳を出し、うんちは燃料になる、素晴らしく役に立つ生き物ですが、殺して肉にしてしまえばそれで終わりです。だからきっと、昔の人はむやみに牛を殺して食べないようにと聖なる動物にしてしまったのでしょう。

とは言うものの、インドにはヒンドゥー教徒だけでなく、イスラム教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒、仏教徒、拝火教などありとあらゆる宗教の人達がいて、食習慣は様々です。ヒンドゥー教徒の多くはベジタリアンですし、イスラム教徒にとっては牛はOKだけど豚は汚れた生き物だからダメ。ジャイナ教徒はそもそも肉を食べません。だから、牛は禁忌とされていつつも、インドのどこかでは食べられ続けていました。

ところが、ここ最近、インド国内でも右傾化の流れが強まり、多数派であるヒンドゥー教の習慣をゴリ押しするような法律が提出されています。その中の一つに「牛を食べると違法」と言う法律があります。また牛肉を持っているのではないかと疑われて列車が極右ヒンドゥー教団体に襲われるような事件も起きています。

すなわち、今のインドで堂々と牛肉を売るのはとてもリスキーな事。また、肉食はインドでは全く一般的でありません。今回のブログの内容はこの2つの点をまず押さえないと「なんで肉を売ってるだけで話題になるの?」と感じる内容かと思います。

多様性を誇りにしているインド社会ですが、やはりその内部には様々な流れがあり、多数派のヒンドゥー教徒が数に物を言わせて社会を変えようとしている部分もあるとご理解いただくと幸いです。
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1 Comment + Add Comment

  • いつも体を張った情報を提供してくださって、ありがとうございます。
    最近のTVなどでは生贄の儀式や、動物が生きたまま解体されるシーンを見ることはほとんどありませんが、
    動物たちがカワイソウと思ったら、肉にしてくださる人達には大変失礼になってしまうと思いますが・・・・。

    でも、やはり、生きたままだとカワイソウかな・・・。
    動物さんや食肉処理業者の方達には、感謝しております。

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