■インドの真面目な出会い系
インドの国内の恋愛・結婚事情はまだまだ古風だというイメージがある。基本的に同じ宗教の中で結婚し、ヒンドゥー教であれば相手はカーストによって厳格に定められ、しかも親が決めた相手と結婚するというのは今も大枠として存在していると言っていいだろう。当然婚前交渉などはご法度ということになっている。もちろんムンバイやデリーの進歩的な若い男女においてはその限りではなく、自由に恋愛し、結婚している人々も確かにいるのだが、それはまだまだ一部の話だ。だが、そんなインドにも現代化の波は激しく打ち寄せている。ある気持ちのいい日曜日の朝、レストランに置いてあった新聞を読んでいたら8ページにも渡る別冊の広告が挟まっていた。それを見てみると求人情報誌のような細かい情報がびっしり並んでいる。何気なく読み始めてまず目に入ったのは「結婚のために」、「最高のご相手を」の文字と幸せそうに微笑むインド人の男女の写真だった。結婚相手のマッチングサービス?驚きだった。しかも紙面とウェブの両方で展開しているという。現代である。インド、いつの間にそんなにオープンになっていたんだ?驚いて頭からじっくりと見てみると、まず料金が「For Rs 2985./-only」とある。さすがに月額ではなさそうだけれど非常に高い。ターリーが30Rs程度で食べられることを考えるとその値段設定は半端ではない。最近増えている富裕層や中間層向けのサービスということだろうか。募集のアピールの短い文章の中には何歳で兄弟はどれだけいてどんな資格を保有していて(例えばMBA)どこでどんな仕事をしていてということが一切の謙遜なく語られている。なかなか日本人はこういうところで自分を「ベリーハンサム」とは表現できないものだからとても新鮮だ。こうした用語は字数の関係か、短縮形で書かれている。例えばこんな感じだ「H'some Boy 29 seeks V.B'ful Educ Qlfd Girl」この暗号を解読すると「ハンサムな29歳男子がすごく美人で教育があって有能な花嫁募集中」になる。29歳のインド人をBoyと呼ぶのには若干の抵抗はないでもない。
5年分の給料を全部使うといわれるインド人の結婚式。当然、お見合いも真剣です |
さらに読み進めてみると、面白いことに気がついた。花嫁、花婿募集のそれぞれに細かくサブカテゴリが設定されているのだ。「バラモン」「クシャトリア」「ムスリム」「未亡人」「などなど。オープンに誰でもというわけではどうやらないようだ。そして小さな広告がたくさん出ていて、そこはそれぞれ「ジャイナ教徒専用」「シーク教徒専用」と大きく書かれていたりする。どれもウェブとショートメールを使ったサービスのようだ。ウェブ上で誰でもアクセスできる状態なのに、そこに敢えて伝統的な決まりごとを持ち込む辺りは不思議なような、それでいて納得してしまうところもある。こういう新旧のミックス具合はなんともインドらしい。そして一番驚いたのがウェブ版の広告だ。そこには「貴方のご子息のために最高の新婦を」という宣伝文句が書いてあったのだ。なんと、この時代、この媒体であっても「親の決めた相手と結婚する」というあの伝統的な結婚観が根強く残っているどころか大きく宣伝文句に使われているのだ。伝統的なクルターを来た上品な壮年のインド人男性がサリーを着た奥方と一緒にパソコンに向かって、ぽちぽちとキーボードを叩きながら息子の結婚相手をまじめな顔で探している図というのはまるで漫画のようだ。でも、それがインディアンタイムスの日曜版にこれだけの広告を載せるビジネスになっているのだ。それにしても、こんなところまで親に見張られてしまうということは、多くのインド人の自由恋愛の願いがかなうのは、もう少し先のことになるのだろう。