お前を教育してやると客に言う! 上から目線なインドの楽器屋
言うまでもなく、日本では「お客様は神様」です。 私達を取り巻く社会の全てにこの基本ポリシーが貫かれていて、それが出来ないお店や会社は潰れていきます。でも不思議な国インドでは、様子がちょっと違うようです。
今月はインド楽器の輸入で色々あったので、内情暴露レポートをしつつ、インドと日本の違いについて考察してみます。
インドと日本、どれだけ違うかと象徴する一枚の写真を紹介します。この写真はグジャラート州の布屋さんで撮影したものですが…返品なし・補償なし・返金なしと言う3拍子揃った素晴らしいお店のポリシーが伝わってきます。こんなお店、日本だったらすぐ潰れるよね!!
友達のインド人に聞いてみると「そう言っておかないと、みんな難癖をつけて返品しに来るのよ」との事。 この様に場所が違えば文化もまた違うのですが…
■インドの物価がどんどん上がっている
ここ10年ほど、インドではすべてのモノの値段が上がっています。食料品から、宿の値段、バスの運賃から、ミネラルウォーターに至るまで、すべての値段が行く度に上がっています。
日本では10年も20年も値段が変わっていませんが、インドでは年間8%から10%位の速度で物価が上がっていきます。1年で10%物価が値上がりすると言う事は、8年でモノの値段が倍になることを意味します。
その事情を知っている人からは「インドとの仕事、大変でしょ?」と聞かれますが、インドはとっても広く地域差がありますので、インドをよく知り、より原産地に近いところから仕入れることで、ティラキタではずっとリーズナブルな値段をキープしてきました。
これは2014年1月にガスの値段が上がって抗議する人々の写真です。 インフレは社会の不安定要素にもなっています。
■偉そうな態度をするインド人
日本で普段から偉そうな態度をする奴ってあまりいないと思うんですよね。偉い人でも、会社を出ればただの人。みんなで仲良く満員電車に乗って帰ります。基本、日本は平等な社会だと思います。でも、インドはそうではありません。インドは厳然たる階級社会です。何千年もの昔からインドではカースト制が敷かれ、口先ではカーストはないと言うインド人もいますが、彼らの心のなかには厳然とカースト制が残っています。
・カースト制による違い
・教育の有無による違い(英語が喋れるか喋れないか)
・お金の有無による違い
・職業による違い(人の汚れ物を洗う人は階級が低い)
こちらはムンバイの有名な観光地であるドービーガート。ここにはムンバイ中の洗濯物が集まり、選択夫たちがたくさん働いていますが、「人の汚れ物を扱う」と言う理由で彼らの社会的地位は低いままです。
上記のような理由がいろいろと入り混じって、インドの社会では社会階層が決まってきますが、その階層は仕事の場を離れても、プライベートでも持続します。だからインドで偉そうな奴は、仕事場だけでなく、いつでも偉そうな態度をします。偉そうな態度をする奴は、それが体に染み付いているのでTPOにあわせて態度を変える事ができなくなってます。
国際線のキャビンアテンダントから、ファーストやビジネスクラスに座っているいろいろな国籍の人々の中で、機内でインド人が一番偉そうな態度を取ると聞いたこともあります。それ位、彼らのDNAには偉そうな態度や、社会階級という意識は染み付いていると言う事なんですよね。
■偉そうな態度をする楽器屋
インド古典楽器を扱っている楽器屋は、どちらかと言うと上流階層に属す人々です。一流の楽器屋は、インドの人間国宝や、その候補になる人々に楽器を供給し、時間を過ごしています。そしてそれを50年も100年も続けているわけです。
だから名前の通った楽器屋は一様に偉そうな態度をします。日本ではどんなに老舗であっても「お客様は神さま」ですので、基本的に腰は低く、笑顔を絶やしませんが、インドの楽器屋はそう言う人達ではありません。
ティラキタでは14年間もムンバイの老舗の楽器屋さんとお付き合いしてきました。1925年から90年の歴史のある楽器屋で、いつもその3代目のアシーシュ君といろいろなやり取りをしています。
問題の発端は2年位前に遡ります。
ムンバイのこの楽器屋さんからの値段が日本で売れないほど高くなってきたのです。
2年前、実際にムンバイに行き、アシーシュ君と直談判してきました。
「ねえ、アシーシュ。楽器の値段が高くなり過ぎなんだよ。1年で1.5倍になるなんて…。どうにかならないの?」
「インドは年間15%(ホントはその時点では10%。主張するために多く言ってる。)でインフレしてるから、5年で値段は倍になるよ」
「日本では物の値段は変わってないから、うちは値段を上げられないんだよ」
「楽器を作っている人の数も減ってるから、値段はどんどん上がるんだ。」
「インフレだけは理解するよ。でもインフレの値段以上に値段を上げないで欲しい」
「判った。約束しよう。インフレ率以上に値段は上げないよ」
と言うやり取りをしたのが2年前のことです。
インドの民族楽器は熱で壊れてしまうので、冬に1回しか仕入れできません。
ですので、今回はまとめて1年分必要な、大量の楽器をオーダーしました。
送って貰う前にプロフォルマインボイスという見積もりを貰いました。
チェックしてみると…
ああ、やっぱり!!
楽器の値段が倍になってるものがある!!
「ねえ、アシーシュ。こんな値段は困るよ」
「なんか問題あるのか?」
「あるよ! こないだインフレ率以上、値段を上げないって約束したよね? 10%の値上がりどころか、倍になってるのがあるんだけど。」
「ああ、その倍になった楽器は、以前はストックがあったから、特別にお前に安く出してやったんだ」
「他の楽器も上がりまくってるよ」
「いいか、聞け。インドでは大雨が降ると値段が上がるんだ」
「え?」
「大雨が降ると、道路が壊れてトラックが走りづらくなり値段が上がる」
「また、雨が降らなくても値段が上がるんだ」
「え?」
「雨が降らないと、不作でカレーに必要な玉ねぎの値段が上がり、それを買うためにトラックの運転手の給料が上がる。」
……知ってるかアシーシュ…それを日本では風が吹くと桶屋が儲かるって言うんだよと心のなかでつぶやきます。
こんな道路がまだ残るインドですので、言い訳も判らないでもないですが…。
「何を言っても、この値段じゃ、日本では売れないよ。 お客さんは高かったら買わないよ。」と返信すると…
帰ってきたメールにはこういう一文がありました。
「I would like to EDUCATE YOU…俺がお前を教育してやる。」
おいおいおいおい!!!
値段を倍に上げといて、その挙句に「俺がお前を教育してやる」かよ!!!
どんだけだよ!!
偉そう過ぎるだろ!!!
あまりの王様ぶりにびっくりを通り越して笑うしかありません。
その文面にはグダグダといろいろな理由が書いてありました。
「バンスリの材料になっている竹はここの所、雨が降りすぎて竹林で腐るばっかりだ。だから3年前から5倍値段が上がっているんだ」とか。
「楽器の原材料は全部海外からの輸入だから、US$が上がるにつれて高くなるんだ」とか。
「楽器製作者の生活レベルが上がっているから、値段もあがるんだ」とか。
「楽器の革を作っている人は、土地の値段が上がったから、家賃も上がって…」とか。
もう、本当に…。
値段を上げるために君は何でも言うのか。
トラックの話から始まった言い訳は、手を変え、品を変え、どんどんやってきます。
そして、1ルピーも値下げしない!!!!!!
断固として値下げしない。
ああ、やっぱり偉そうなインド人だよなぁ…インドってこういうヤツ、居るよなぁ…
偉そうな楽器屋の偉そうな態度は決して値下げしないところにもあらわれてきます。
■インドへ楽器探しの旅に出かけてきます
と、言うことで。急遽、インドへ楽器探しの旅に行くことになりました。みんなにリーズナブルな値段で、問題のないクオリティの楽器を安定して供給できるように、インドの楽器の産地を巡ってくることになりました。14年もお付き合いしていた相手ですので、そんな簡単に次の供給先が決まるとは思えませんが、でも、やらなければなりません。
西はコルカタの郊外から、バラナシ、デリー、東はムンバイの南まで。インドの楽器の有数な産地を巡り、クオリティと値段のバランスが取れた楽器を探してくるのに何ヶ月かかることでしょうか…
拝読させて頂きました。
毎回大変な思いをされて楽器を買い付けておられるんですね。
向こうはびた一文値下げしないつもりでしょうから…
早く良心的な値段設定の楽器屋が見つかることを心よりお祈り致します。
しかし、「教育してやる」とは余りにも酷い対応だと思います。
楽器のお取り扱いだけでも、こんなに大変なのにティラキタさんの各カテゴリーの商品数、バリエーションを見ただけで輸入業って大変なんだろうなぁとクラクラしてしまいそうです。でも、それ以上に、おもしろいから続けていらっしゃるのでしょうね。すごいです。インドに慣れてはいるとはいえ海外では危険もあるでしょうから、充分気をつけながら魔法のように素敵で素晴らしい人たちと楽器たちに出会えて充実したお取引(入荷)ができますように!ピンチはチャンス!これを機にハッピーターンとなりますように!
お読み頂き、ありがとうございます!! 楽器って、なかなか一筋縄ではいかないものだなといつも感じています。音質、素材、綺麗さ、値段、ブランド、すべての要素があって、本当に難しいです。
1月にインドに行って、ちょうどいい所が見つかると良いなぁ…と心から願っています。
インド初心者様、書き込み、ありがとうございます!!
輸入業は思うようにならないことが多いですが、それは仕方ないのかな…と思います。
そもそも、相手が考えていることが違うのが異文化ですしね。
でも、仕事にかこつけて、いろいろな国に遊びにいける素敵な仕事でもありますよ。
「ピンチはチャンス!」素敵な言葉を送っていただいて本当に有難うございます!!
その言葉を心に秘めつつ、インドに行ってきますね!!