チャイは18円でコーヒーは360円 インドにおける値付けの不思議
目次
■所得階層に応じた物価体系
今回のティラキタブログでは、チャイは18円でコーヒーは360円になるという、わかるようで分かりづらい、インドの物価体系を解説します。インドの物価は、日本とはまた異なった法則があり、同じ種類のモノでも場所によって価格が大きく異なるのです。インドの物価は原価から算出した適正な利益だけで決まるものではなく、それを消費する人たちの階層に応じて決まっています。
インドには14億人の人口がいますが、その内訳を見てみましょう。
富裕層 0.7% 980万人
中間層 38% 5億3200万人
低所得層 66% 9億2千万人
人口の0.7%の富裕層だけで980万人、中間層を含めると5億3200万人と、マーケットを形作るのに十分な人数がいることがわかります。
980万人も富裕層がいたら、その層だけをターゲットにして、ビジネスが作れます。
そこに中間層を入れたら、5億人を超える巨大マーケットが出現します。
これが意味するのは、富裕層に向けた商品とサービス、中間層に向けた商品とサービスが別々に存在して大丈夫なのだ、という事なのです。
インドにおいては、各企業やお店は自分の商品やサービスがどこの階層を狙っているかでお値段を変えています。
それでは、その実態を見ていきましょう。
■スターバックスコーヒーは富裕層向け
スターバックスは完全に富裕層を狙った価格設定です。調査したのはデリー空港内のスターバックスコーヒーですが、インド国内であればどこのスタバでもお値段はあまり変わりません。富裕層を狙った価格設定の場合、日本とほぼ変わらないか、日本よりもお値段が高くなる感じがします。
カフェラテ・トール、カプチーノが330Rs(528円)
モカ・フラペチーノが425Rs(680円)
キャラメル・マキアートが385Rs(616円)
パン類も250Rs(400円)から350Rs(560円)くらいですね。
■マクドナルドは中間層向け
スタバは完全に富裕層を狙っていますが、マックは中間層をターゲットとしています。中間層をターゲットとした場合のお値段設定は日本の6-7割程度でしょうか。
先程も書きましたが、インドには38%、5億3200万人の中間層がいて、その人達が日本の6-7割程度の価格のマックを食べることができます。暴力的なまでに巨大なマーケットであることがわかります。
フィレオフィッシュが149Rs(240円程度)、セットメニューになると269Rs(430円)です。日本よりもちょっと安いくらいの値段設定ですね。インドならではのメニューでバターパニール・グリルドバーガーが99Rs(160円)、セットメニューになると219Rs(350円)ですね。
ちなみにこちらが2016年のマクドナルドのお値段。メニューが違うので一概に比較はできませんが、マサラグリルチキンのバーガー単体が62Rsで、セットメニューで127Rsです。マックのお値段は6年で倍以上になっています。
■ホテルは富裕層向けを狙っている
ホテル価格はただひたすらに上昇の一途を辿っています。毎年ではなく、毎月のように上がっている感じすらします。
ティラキタ買付班のデリーの定宿であるHotel Natraj Yes Pleaseも、2016年に1000Rsだったのに、今は2300Rs。物件は変わっていないのに5年で倍ですよ。
ムンバイのホテルの相場もここ5年から10年で2-3倍に値上がりしました。
それでも宿泊するお客さんがいるのですから、インドってすごい国です。
ガンガン値上げできるところを見ると、ホテルはどちらかというと、旅行ができる上流中間層、富裕層向けのサービスなのだろうなと感じています。
30年前に久美子ハウスのドミトリーが50Rsだったのは夢のまた夢…。
インド旅行が安かった日々は今や昔の話です。
■カシミールは富裕層向けの観光地
ちなみに先日訪れた、有名な観光地カシミールは富裕層をターゲットとした土地でした。
一生に一度は泊まってみたい! 地上の楽園カシミール名物のハウスボートについてにも書かせていただいたのですが、ハウスボートのお値段は、一泊3食付きで 9000RS(16000円程度)とのこと。
カシミールに、有名なTajグループのホテルがありますが、1泊6万Rs(9万円)なのにもかかわらず、1年半先まで予約で埋まっているのだとか。
カシミールに来たら、ヨーロッパよりもお金使ったよ!ってこないだ友人が言っていたよ
と、インタビューさせて頂いたマンスールさんも言っていました。
■化粧品は中間層・富裕層向け
ティラキタ買付班の目から見ると、インド人はあまり化粧品を使わないなと感じています。きれいに着飾るのは結婚式のときだけで、普段はすっぴんが多い気がしています。
インドでは伝統的にお見合い結婚が多いですし、基本的に婚前交渉もない(事になっている)ので、派手にお化粧したり香水をつけたりすると、「遊んでいる娘」っていう事になって世間様からの評判が悪くなるんであろうと思うのですよね。
だからなのか、化粧品は中間層・富裕層向けの高級品と言う位置づけになっています。ラグジュアリー・アーユルヴェーダで有名なForest Essentialの製品は、ボディミスト一本が2675Rs(4280円)。他の商品も軽く1000Rs、2000Rsを超えてきます。
■チャイは全国民向けだけど、コーヒーは中間層以上の飲み物
インドで不思議なのは、チャイは安いけどコーヒーは高いってことでしょうか。多分、チャイとコーヒーは消費する層が違うものとして受け入れられているのだと思います。
チャイ = 全階層が飲む国民的ドリンク
コーヒー= 中間層と富裕層が飲む、ちょっとステータスのあるドリンク
ということで、チャイが10-20Rs(36円)の所、コーヒーは200Rs(360円)もしたりします。
チャイは低所得層に合わせた値段設定の商品です。
とは言うものの、チャイの値段も年々上がり続けているな…と思っていました。1993年は確か3Rsとか5Rsだったんじゃないかしら。2010年頃に、一旦15Rsを超えて、これはもっと上がり続けるのかな…と思ったのですが。
カップを小さくすることによって、10Rs(16円)に逆戻りしていたりします。
チャイはインドの人たちの必需品なんですね。
■電車の値段は全国民向け
電車は低所得層に合わせた値段設定です。とても安いので、何ヶ月も前からいつも満員です。
寝台列車のお値段は30年前は250Rs位だったのが、今は500Rs位でしょうか。
一応倍にはなっていますが、為替レートや他の物価の上がり幅から考えると、実質的には下がっているともいえます。
■バスは低所得層に合わせた値段設定
バスも電車と同じで低所得層に合わせた値段設定です。バスのお値段は本当に安くて10Rs(18円)から。
そもそも、中間層や富裕層は自家用車を持っていて、バスになんか乗りませんしね。
■お水は低所得層に合わせた値段設定
お水のお値段は1L 20Rs(36円)とほぼ変わりません。お水は生活に必要で、富裕層、中間層、貧困層関係なく必要ですからね。
値段体系としては、低所得層に合わせた値段設定の商品です。
■物価は永久に上がり続ける
そして、インド人の消費欲を支えているのが、「インドにおいて、物価は永久に上がり続ける」と言う事実でしょうか。基本的にインドでは物価は上がり続けるものです。
物価が上がり続け、お金の価値は下がり続けます。
これは本当に確実なことで、インド人全員が共有している基本概念ともいえます。
物価が20年間変わらないと言う日本みたいな事はインドではありえません。
お金の価値が下がり続けますから、銀行の利子は非常に高く設定されていて、ローンを組むと年利15%取られる時もあるのだとか。銀行にお金を預けた場合でも年利で7%位つきます。
年間7%の利子がつくなんて、日本ではあり得ない高利率ですが、逆に言うと、インドではお金の価値がそれだけの速さで減っているともいえます。
為替レートにもそれが反映されていて、インドルピーは基本的に下降曲線を描きます。日本円のように上下しません。30年前は1US$ = 38Rsでしたが、2023年現在は1US$ = 82Rsです。30年のうちに対ドルレートで半分になりました。
■高級品は更に高級に、庶民の物価はマイルドに
ということで、インドの物価の色々をざっと見てきました。全般的に物価はどんどん上がっています。基本的には5年で倍になる勢いです。でも、その上がり方はどの階層に向けて売っているかで変わり、高級品はどんどん高級になり続けていますが、低所得層向けの値段はほぼ変わらないか、マイナスになっているものすらあります。
インドでは。
そしてこの資本主義社会の世界では。
富める者はどんどん富んでいき、貧富の差は広がるばかりなのですねぇ。