草木息吹く、ネパールの春のいろいろを紹介
日本でもそろそろ桜が開花しようかという今日この頃。ネパールでも穏やかな春が人々の心をうきうきさせているようです。今回はネパール在住のshyuさんから、ネパールの春の様子をレポートしていただきました。
目次
■穏やかな春の風景
菜種の花が一面に広がる季節、春がやって来ました。
ご近所では、早朝から洗濯仕事を始める女性たちの姿も見られるようになり、
寒さも緩んできたようです。
ネパールは一年を通して雨季と乾季に分かれています。
その中でも10、11月、3、4月がベストシーズンです。
トレッキングや山歩き愛好家たちは、この時期に合わせてネパールを訪ずれることが 多いようです。
早春と言われる3月上旬には、しばらく雨の日が続き、そのあとは気温が上がり始め、 過ごしやすくなってきます。
ネパール庶民にとっては、暖かさで、やっと肩の荷がおりたような、一息つける春です。
日本では、桜の開花とともに、新しいことにチャレンジする切り替え時期だったりしますが、 ネパールでも、カレンダーは4月から新しくなり、春の景色の中、人々の動きも少しづつ 軽くなって来ているのが見えてきます。
■ 種蒔きと八百屋さん
冬の大根、ほうれん草が、旬を終える頃には季節も変わり、畑を耕し、次の収穫のための 農作業が始まります。
朝飯前に畑を耕す人が見えます。
今度は何を植えるの? と尋ねると「とうもろこしだよ!」との回答。
夏の収穫物、とうもろこしの準備が始まっていました。
八百屋には、春野菜が出始めます。
そら豆や、キャベツ、グリンピース、たまねぎ、などが美味しくなります。
野菜を豊富に使ったネパール料理は、季節季節の野菜を楽しめる食文化です。なかでもカリフラワーは大人気。じゃがいもとカリフラワーを使った「アル・ゴビ」はみんなの大好物!
春になって気温が上がってくると新鮮野菜の寿命は短く、八百屋では新鮮野菜も 朽ちかけた野菜も、同じように売られていることもあります。 さらに暑くなるにつれ、野菜選びは、八百屋をいくつかハシゴしながら買うようになります。ネパールでは野菜の目利きは主婦の大事なスキルなのです。
夕方4時頃には、路上野菜売り場で、新鮮野菜を買うことができます。 自分で野菜を作れば、もっと気軽に収穫したての野菜で料理できます。
■ 馬とコイララ
ネパールの4月上旬頃、ゴデジャトラという馬祭りがあります。
カトマンズ中心部の広場で、馬レース、パレード、障害物レースなどが行われます。
毎年溢れんばかりの聴衆が集まるので、この目でしっかり見て楽しむためには、
まずは、早朝から見物場所を確保するのが先決です。お祭り好きのネパール人が押し合いへし合いするので、楽しむには最前列がおすすめ!
ゴデジャトラにまつわる物語があります。
ギャンブルに明け暮れている、ある村人がいました。
ある日、村人は、米の入った袋を置いて、木の下で昼寝をしていました。
そこへハトが飛んできて米を食べてしまいました。
ハトは、食べ終わると、木の枝にとまって糞をすると、糞はお金に変わっていました。
そこへグルマパという巨人がやってきて、村人を食べようとしました。
村人はお金も食べ物もあげるから、と言ってグルマパを村へ連れて行きました。
村人たちはグルマパにたくさんのご馳走を与えました。
しかし、グルマパは食べ物を食べても食べても満足せず、 暴れまくって村人たちを困らせました。
そこへ馬が走って来ました。
馬は勢いよく走ってきてグルマパをやっつけてくれました。
ゴデジャトラの日にネワール族は、コイララのアチャールを食べる習慣があります。
「コイララ」というのは花の名称です。
花と蕾の部分と、にんじん、グリンピース、ごま、スパイスであえたコイララアチャールは春の風物詩。 フキノトウのような、ちょっとアクのある風味で、春を感じる食材です。 一年に一回食べて、「ああ春が来たなあ」と実感する味です。
この時期八百屋の店頭を彩る、いかにもネパールらしい季節野菜です。
■ クルタスルワールと彩り
ネパールの女性の服は、クルタスルワールという、上下セットになった服を着ています。 冬には少し厚手の生地で、春から夏にかけては、薄手の生地でクルタスルワールを作ります。
布の色は、年間通して、派手な原色が好まれています。
ネパールの人々は、春らしい色とか、秋らしい彩りというのは気にしていないようですね。
クルタスルワールには、首周りに巻くストールが供布で作られていて、
日よけや風よけに、頭にかぶったりもします。
年齢を重ねた年配の女性でも、ピンクや黄色、赤色の服を着ています。
畑仕事の女性の服は、原色の色柄が土色にあせて、味のある色合いになっています。
■ ホーリーと子供たち
色粉が舞い上がるホーリー。
3月中旬頃、春を祝う祭り、ホーリーがあります。
この日は国民の祝日になります。
色のついた粉や水を掛け合って、春の訪れを楽しみます。
子供たちは、水鉄砲や水の入った小さなビニール袋を投げ合って遊びます。
子供以上に大人たちも、この日は無礼講、ペイントだらけの顔で、街を闊歩しています。
この日に外出した時は、上から突然、バケツから水が落ちてきても、怒ったりしないで、
Happy holi!とワーッと喜んで発散して楽しみます。
あまりにもエスカレートし過ぎる傾向もあって、ホーリーは限定時間内に、という ことになるほど、色粉や水の掛け合いが激しく飛び交う祭りです。
行事ごとにティカをする習慣がありますが、ホーリーの日には、ピンクのティカを付けます。(ティカ=額の真ん中につける祝福の印)
静かな村のホーリーは、春を喜ぶ子どもたちのはしゃいだ笑顔があります。
■ 春休みと新学期
ネパールの学年の終わりは、3月末までです。
進級試験が終わって成績表が配られると、宿題なしの春休みが始まります。
ネパールの子供たちは、普段から、かなり多目の宿題をこなしていますが、春休みだけは宿題から開放され、子供たちは伸び々と遊んでいます。
親戚づきあいの濃いネパールですから、子供たちも親戚宅へ行き来したりして過ごしているようです。 子どもたちにとっては春休みは最高に開放感ある休みのようです。
新学期は日本と同じ4月スタート。新入生のための入学式は特にありません。
桜の木の下を親子で入学式、といったイメージとは、かけ離れた、サラッとした始まりの 新学期です。
■ サーランギと庭先演奏
サーランギというのは、四つの弦があるの弓奏楽器です。
ネパール社会のカーストで“ガイネ”という階層があります。
ガイネは音楽家という職業をもつカーストです。
彼らは、吟遊詩人、放浪する音楽家とも言われて、音楽中心に暮らしています。
ガイネは、街や村を歩きながら、各家庭の庭先などで、演奏して賃金を得ています。
窓からサーランギと歌が聞こえてくると、近所の家の庭先で演奏しているのが見えます。
しばらくすると、ガイネは隣の民家へ、サーランギを奏でながら移動して行きます。
彼らは、春限定で演奏しているわけではなく、年間通して季節の詩も歌います。
彼らの歌う詩の内容は、自然や物語、抒情詩などで、即興でサーランギに合わせて歌います。
ガイネは、ダカトピ(ネパール帽子)をかぶり、一見すすぼけた身なりに見えますが、
いったん演奏が始まると、その風貌と音楽が、ちょうど良く相まって見えて来ます。
2,3年前までは、庭先に座ってサーランギを奏でるガイネの姿が、良く見かけられま
したが、最近ではあまり見かけることは少なくなりました。
■ トリコサーグと菜種油
菜種の葉をトリコサーグといいます。これも春を代表する味覚です。 ジャガイモと一緒にスパイスで炒めて食べたりします。
花が咲く前の、背の低い茎と小さな葉っぱを、間引きながら、料理に使います。
トリコサーグを食べ終わる頃には、黄色い菜種の花が咲き、花が咲き終わって、葉も茎も カラカラに乾燥したら、土から抜いて、サヤから菜種を取り除き、菜種油を作ります。
サラダ油や大豆油ではなく、菜種油でネパール料理作ると、ネパール料理らしい独特の味に 仕上がります。健康を保つためにも菜種油が使われています。
歯痛には、菜種油とターメリック、塩を少量まぜて、歯ぐきに塗ると、痛みが緩和します。
血行促進には、カラダや頭、髪の毛にぬり込んでオイルマッサージをします。
具合がわるいんだけど…というと、菜種油でマッサージしなっ。と皆さんおっしゃいます。
■ 結婚式と花屋さん
春の日和り。結婚式も多い時期のようです。
ネパールでは、新郎新婦が乗る車を、花でデコレーションする習慣があります。
↑こちらが新郎新婦を載せる車。ハート型の花模様や、新郎新婦のイニシャルの花模様などがデザインされています。 花のデコレーションは、お花屋さんが飾り付けてくれます。
街中で見かけるネパールの花屋は、主に切花専門店になります。
ギフトショップと兼ねている店が多いようです。
年中行事や宗教儀式などでは花をよく使うので、お供え用のマリーゴールドの花飾りが 売っています。
■ 新年と新年
ネパールの新年は各部族ごとに違った日になります。
その中でも、ビクラム暦の新年は、西暦4月中旬頃になります。
ビクラム暦の新年1月1日をバイサーク1月1日といいます。
バイサークの前月チャイトには、街中で新しいカレンダーが売られています。
ついたちの日には、親戚宅で新年のあいさつをしたりして日本の正月に似ています。 また、家族みんなでピクニックに行ったりして楽しみます。
■ 桃の木と牛
3月のはじめ、雨の日がしばらく続いたあとに、晴れの日が続くと、桃の花が咲いて 春の訪れを知らせてくれます。
近所にある、小高い家の庭から、桃の花がしだれるように咲いているのが見えて、 その隣りの民家にはティカをした牛が、こっちを見ています。
生まれたての子牛は元気良くエサを食べています。
暖かくなってくると、雑草も元気良く伸び始め、牛は草の生えている場所で、のんびりと 一日じゅう草を食べています。
牛飼いは、草の生えてる場所へ場所へと移動しながら放牧しています。
ネパールでは、道で牛とすれ違うことが良くありますが、牛に道をゆずって通ります。
ネパールの牛は、道路の真ん中に座り込んでいること良くがありますが、
これは通行妨害のように見えますが、牛は人間より優先されるネパール、ということで、 許されているようです。
■ 春は喜びに満ちたシーズン
一年経って春が来ました。ネパールの春はいつも同じように繰り返されています。
ネパールの人たちは、恒例の行事や祭りを楽しみ、春に出来る日課をこなし、暖かくなった
開放感に一息ついています。
春の日課が一段落すると、祭りや娯楽は、おもいきりはしゃいで楽しみます。
毎年同じことを、丁寧にゆっくりと過ごしている光景にホッとします。
そんな、ちっとも変わらないのが、ネパールのいいところなんですよね。