料理が美味しくなる魔法がかかる! インドのタンドリー窯


今日は、インド料理の中で重要な役割を果たす、タンドリー窯について書いてみたいと思います。タンドリー窯は日本ではあまり一般的でなく、実際に使用する機会も少なくて、その魅力が知られていないので、この機会に、できるだけ詳しく紹介してみますね。

タンドリー窯とは、インド料理店でナンやチャパティー、そしてタンドリー・チキンなどを作るときに使われているインド独特の窯のことなのですが、実は、このインド独特の窯には、料理を美味しくする魔法がかかっているんです。

今日は、その構造の違いから、なぜタンドリー窯を使うと、料理が美味しくなるかを説明していきます。

■タンドリー窯と、ピザ窯

タンドリー窯と、ピザ窯の違いは、まずその見た目です。
ご存知のピザ窯はこの様な、横になったトンネル型をしています。

縦と横、この形の違いが、すなわち味の違いであると言って間違いありません。料理は、素材や調味料もちろん大切ですが、調理法や使う道具も同じ様に大切です。

ピザ窯の場合、火は窯の奥か端っこの方で焚かれます。
燃料として使うのは主に木の薪ですので、「狭い中で焚き火を行っている」イメージです。


ピザ窯では、火の輻射熱で窯の中や天井が温まり、ピザを焼く温度が得られます。ピザ窯は、直火をそのまま利用するのではなく、近くで焚き火をし、その火の熱や輻射熱で、窯の中を温めて料理をする窯です。


その結果として、窯で焼いている割には煙臭くなく、直火でないので窯の中の温度天井からの輻射熱も利用するので、どちらかと言うと、焼けムラが生じづらく、そして平面に平均的に熱が加えられます。ピザ窯はまさに、平べったいピザのために設計された窯なのです。

■タンドリー窯の場合
次はタンドリー窯のしくみを見てみましょう。タンドリー窯はこの様な、縦になったドラム缶のような形をしています。
タンドリー窯の場合、火は下にあります。ピザ窯のように横で火をおこすのではなく、下で火をおこし、食物は上から出し入れします。下からの火の熱で、直接、食物や窯の内部が暖められます。

使う燃料はガスか、木もしくは炭です。インドでは木や炭を使っているケースが多いと思われますが、シンガポールで見たタンドリーはほとんどガス窯でした。

縦型の窯だということは…これでは、料理を置く場所がありません。
料理を入れても、全て火の中に落ちてしまいます。
どうしたらいいのでしょうか?

実は、インドではこのタンドリー窯を2通りの方法で使います。
 ・窯の内部にぺたりと貼り付ける。
 ・材料を串に挿して、内部に入れておく。

使用方法はこの2つです。

タンドリー窯には、ピザ窯の様な平べったい場所がありませんので、この窯でピザや平べったいものを作ることはできません。正直、ちょっと不便だと思います。でも、タンドリー窯の構造には、それを遥かに上回る、魔法とも言うべきメリットが存在します。

■タンドリー窯の魔法とは

上の図の赤い波線の部分は、直接、火にあたって非常に高温になる部分です。これが、ナンやチャパティーを作る際の大きなメリットになります。

インド料理店で出てきたナンを思い出してほしいのですが、下の平べったい部分はカリッとしているのに、上の部分はもっちりとしていませんか?

このカリッ&もっちりが実現できるのは、この赤い部分のおかげ。直火で熱せられた、高温の窯壁に生地を直接くっつけるので、最高のカリッ!が実現できるのです。

ナンやチャパティは、写真の様に、タンドリー窯の壁にくっつけるようにして調理されます。


その次は、材料を串に挿して、内部に入れておく調理方法についてです。

この調理方法でいちばん有名なのが、スパイスに漬けたチキンをタンドリー窯で焼いた、タンドゥーリー・チキンでしょう。インド料理には欠かせないカッテージチーズ(パニール)と野菜をヨーグルトとスパイスに浸けこんで焼いた、ヘルシーな串焼きであるパニール・ティッカも、この調理方法で作られます。

写真はムンバイでタンドリー用に肉が準備されている様子です。

この調理方法の場合、写真のように、窯の中に串が差し込まれます。


これにより、どういう効果が得られるかというと…

 ・窯なのに、炭の直火で調理したのと同じ効果が得られる。
 ・炭火で調理すると、火にあたっていない部分は焼けないが、窯の中は高温なので、均等に焼ける
 ・食材から出た汁や水分が、炭で焼けて、スモーキーな味を食材に与える

という、炭火と窯の両方のいいとこ取りをした効果が与えられます。

ご存知のように、炭で焼いた焼肉は美味しいですよね。
また、オーブンで作った料理もまた美味しいと思います。

タンドリー窯はこの、炭火とオーブンの両方を味方につけた、まさに魔法とも言うべき窯です。

■タンドリー窯の中身は?
先程も写真に出てきたタンドリー窯。現代的なものはこの様に外側がステンレスになっていますが…

実は中にはこの様な素焼きのタンドリー窯が入っています。ドラム缶の様な(ドラム缶の場合もあります)大きな金属の円筒に、素焼きの素焼きのタンドリー窯を入れ、間に土を詰めると、現代的なタンドリー窯になるんですね。

■タンドリー料理は美味しいよ!

ぜひ、次回インド料理店に行かれるときは、カレーだけでなく、なにか一品、タンドール料理を頼んでみてください。

ティラキタ的なオススメはタンドールの魅力がシンプルに味わえる、野菜のタンドール料理なんですが、なかなか、メニューに載っているところは少ないかもしれません。なかったら、店員オススメのタンドール料理をなにか頼んでみてくださいね!


タンドリーで調理することで、素材にスモーキーな香ばしさが加わり、いつもの素材が更に美味しくなっています。
きっと、インド人は天才だ!!って感じると思いますよ。


■もっと詳しい方からご指摘をいただきました
タンドゥール窯を、実際にレストランで使用されていた事のある根岸 憲夫さんから、ご指摘をいただきました


ちょっと長いし理屈っぽいので退屈な人だけお付き合いください(笑)

正確にはタンドールは輻射熱を利用した縦型のオーブンなんです。
確かに熱源が一番下にありますから炭の場合などは炎が上に上がる事はありますが基本的な使い方としてはまず炭を入れて火をつけてゆっくりとたっぷりと熱くします。炭は熾火になりタンドールの壁面がちゃんと温まって庫内の温度が350度くらいになれば準備OKです。

この時点で炭は熾火なのです。庫内全体が猛烈に暑くなっていて壁面全体がちゃんとむらなく熱せられている状態、オーブンの天板が熱くなるのと同じ状態で準備完了なわけです。縦型オーブンで壁面が全部熱いから串に刺したチキンも上から下までまんべんなく焼けるんですから。直火だったら上の方なんて焼けるわけないじゃん(笑)

オーブンとの違いは、たとえばチキンをシークに刺して焼けば肉汁や脂が炭に落ちて煙が立つし油の多いスペアリブみたいなものを焼けば炎も上がりますがタンドリーチキンてなんでスキンレスなの?っていうと皮を取ると皮の裏の脂肪もないので炎が立ちにくいから、なんです。多少の煙はスモーク効果をもたらすのでチキンはよりおいしくなるのは自明の理ですね。スパイスは直火に焼くと焦げて苦くなるだけですから、そういうところはちゃんと計算されているんです。

日本の焼き鳥、あれは直火ベースですよね。塩とかなら焦げにくいし。うなぎなどもそうですけど距離をうまく取って遠火の強火、のいいポイントを使います。たれが焦げて煙が上がることも計算されているのと同じです。長い時間かけて出来上がっている仕組みはものすごく理詰めに出来ています。

ちなみに最近日本で開発されている電気タンドールはヒーター部分を釜の一番底に設置してその上に溶岩石のふたをのせて密閉してしまうので直接熱源が食べ物に触ることはありません。完全に輻射熱で使う、という構造ですが要は釜全体がちゃんと熱くなることが必要なんですね。

あと、ナンを焼く場合、余熱されていることは当然です。余熱されていないと張り付けたナンが固定しません。炭火がボーボーでも壁面がぬるいとつかないんですよね。これは張り付けた際に瞬間的に焦げ付いて動かなくなるから、なわけです。長時間入れておけば裏表から熱が加わってすぐに真っ黒!。また熱ければいい、という事でもありません。火をつけてしばらく炭をガンガンに炊きますがそうすると時によりものすごく表面が焼けちゃうことがあります。こんな時にナンを貼ると張り付けた瞬間にもう黒くなって食べられません・・ぬるければ貼りつかないし、熱すぎたら炭だし(笑) だいたい350℃の適温で維持していないと貼りつけて数十秒ではがしてモチモチふんわりカリカリの出来上がり、とはいかないんです。

炭は温度管理が難しいのですよ。スイッチないし(笑)

素焼きのツボの外側に金属のケースでくるみ、隙間はスパイスの入った土をしっかり詰めて断熱、蓄熱効果を高めます。よく見かけるドラム缶みたいなステンレスのやつで150-180kgくらいあります。お店で使う四角いやつだと250kg(笑) 

日本のメーカーさんのやつだとツボがセラミックだそうで熱効率が全然よろしいとか。炭が少なくていいのはありがたいですね。

ちなみに一日で大体10kg使うんですよ、寒い時期だと。

こんどインド料理屋さんでナンとか食べるときは「地味に面倒なことやっているのね(笑)」と思ってくださると(笑) 
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