結婚式の贈り物は牛だって! 真っ赤で神秘的なネパールの結婚式を全力レポート
ネパールの結婚式は真っ赤で神秘的でした。
日本の結婚式も、その昔はこんなだったのかもしれない…と思わせるような、素朴さと庶民的な感じがあり、さらに異国情緒のある儀式が何とも言えない、ネパールの村の結婚式に参加してきましたので、詳しくレポートしたいと思います。
目次
■タパさんち長女の結婚式
娘が今度、結婚するんですよ…
タパさんと立ち話をしていたら、素敵なニュースがやってきました。
長男のお兄ちゃんが去年結婚したので、今回は長女の結婚式です。タパさんの結婚式の招待状は、ネパールのおめでたい色である、赤に金色の文字があしらわれた、ガネーシャのイラスト入りのカードでした。
村では、結婚式やパーティ、法事などがあると、村人ほぼ全員に、この様なカードが配られます。
タパさんが住んでいる場所は、カトマンズの南側、ラリトプールにある静かな村です。地域名はタパガウン(タパ村)と言いますが、実はここは、住民のほとんどがタパさん。
タパ村に、タパさんがたくさん住んでいるってなんだか面白いですね。
■ネパール人の結婚観
ネパール人にとっての結婚とは、家族が増える、家と家が繋がるということでもあり、結婚は個人の問題ではなく、家族にかかわる大きな節目ととらえているようです。
■結婚式の準備はペンキ塗りから
結婚式の準備はペンキ塗りから始まります。ネパールで、家のペンキを塗り直していたら、その家は結婚式が近いサイン。
その例にもれず、タパさん宅も結婚式前には家のペンキを塗っていました。結婚間近という男性の場合は、嫁とその家族を迎えるための家を構えたり、または増築をしたりもします。
タパさん一家は、結婚式の二週間ほど前から、少しづつ準備にかかっている様子でした。まず会場になる村の空き地を、草刈りし、整地をし、掃除をして、披露宴会場にしていきます。
タパさんの結婚式の場合、空き地だけでは広さが足りなかった様で、畑だった場所も栽培中の野菜を移植して、会場の広さを確保していました。
昔は、自宅や家の周辺で結婚式をあげていたようですが、最近では、結婚式場や豪華ホテルなどで行うことが一般的になって来ています。今回のタパさんの結婚式は、昔ながらの家での結婚式スタイルで、披露宴会場は村の空き地にテントを張って行いました。
結婚式以外でも、大勢の人数が集まるイベントや誕生会など、色々なシチュエーションでこのテント屋さんが活躍します。
■結婚式の贈り物は牛だって!
結婚式の前、空き地には、二頭の牛がひもに繋がれていました。
聞いてみたら、なんと、二頭の牛は結婚式の祝いの贈り物だというのです!!!
ネパールでは結婚式の祝い品に、牛だけでなく、やぎ、ニワトリなども贈り物にするとの事です。お手伝いさん(人間)を贈ったという話も聞いたことがあります。
この牛の贈り物、今回は親戚のアイディアだったらしいのですが、結婚する本人たちの「昔はそうだったと思うけど、今時、牛はないでしょう?」という反対意見で、牛の贈答品は却下されたようでした。
結婚式に牛の贈呈!みたいな場面を想像していたので私的にはちょっとザンネンでした。
■村のおばちゃんたちと皿作り
ネパールでは結婚式で使うお皿も、自宅で手作りします。食べ物、お供え物はなんとなくわかりますが、お皿まで手作りするとはびっくり。
タパさん宅のガレージから、近所のおばちゃんたちの大声が聞こえてきたので覗いてみると、結婚式用の葉っぱの皿作りをしていました。
ちょっと写真と思って覗いたところ、「あんたも作って行きな!」と誘われ、葉っぱの皿作りに参加しました。菩提樹の葉っぱを何枚か、小枝で器用に縫って一枚の皿に完成させます。
ネパールではこの菩提樹は、他の木とは違う不思議なパワーを秘めている木です。菩提樹の木の下は瞑想場所になる場所であり、葉っぱも祝い事や儀式などでよく使われます。
■静かな村が賑やかになる日
結婚式の招待客はなんと1000人。タパさんの結婚式は静かなこの村が、賑やかになる大イベントでした。ネパールの人々は普段は自然の静けさを好みますが、祭りや儀式の時には、音楽に合わせてドンチャン騒ぎするのが好きで、一晩中踊り明かしても、へっちゃらな丈夫で陽気な人々です。
儀式のはじまりは、音楽隊と一緒にやって来ます。
音楽が遠くから、だんだん近づいて来ました。さあ結婚式のスタートです。
音楽隊はネパールの結婚式には欠かせない、式の盛り上げ担当です。音楽隊が新郎とその家族、親戚、知り合い、友達などを全員引き連れ、行列を作ってやって来ます。
この音楽隊の役割は、“私たち結婚します!”ということを、世間に知らせる事。だから、できるだけ大音量で演奏し、結婚式のスタートから終わりまで、音楽を演奏し続けます。
そして音楽には踊りは付き物。皆さん、そこら辺で勝手に踊りだして楽しんでいました。
音楽隊に連れられて先頭で歩いてくるのは今日の主役、新郎です。
ネパール結婚式の伝統の正装にサングラス、カッコいい登場でした。
その後には、色とりどりのサリーを着た女性たちが、ナッツやアーモンド、チョコレートを盛った皿を、片手に抱えて次々とタパさん宅へ入って行きます。
風船があちこちに飾られて、庭の隅っこで、バクパイプ演奏が始まっていました。
庭の真ん中には、四角いスペースの四隅に木が立てられ、キラキラとした装飾と、マンダラが描かれ、供え物や、赤や黄色の粉、など、ネパール独特の色鮮やかな空間が出来上がっていました。ここを中心に結婚式の儀式が行われました。
■ヒンズー教の儀式
新郎新婦のほかに、この日のもう一人の主役となるのは、近所の店のご主人です。彼はタパさんの父親の叔父さんに当たる人で、彼を中心に儀式が進行しました。家族の中の一番の長老がこの役目を受けます。儀式のひとつひとつに意味があり、それは、よくわからないのだけれど、見ているだけで、不思議な神秘的な空間へと惹かれていくような感じでした。
水や火、太陽や月、木と土、自然界に通じるものが場面ごとに現れ、想像が膨らむのです。ひとつひとつの儀式が深いものであることは感じられました。
印象深かったシーンが、いくつかありました。
新郎新婦が大きな壷の上に置いた木材の上に裸足で両足を置き、その上からゆっくりと静かに水が注がれ、新婦の両親が、新郎新婦の前にひざまずき、足に向かって礼をする場面は、ネパール独特の世界が広がる瞬間でした。
また両親と娘という場面は、日本の結婚式にある、両親への花束贈呈のシーンと重なる感じがしました。
新婦の腰に巻いた白い布を持った新郎、ふたりが、火の回りを一周回ってきて、いったん止まり、米を火の中へ投げる、また一周して、いったん座り込んで地べたにお金を並べる、また一周してきて新婦のおでこに布で出来た装飾品をつける…
火の周りを一周するたびに、ひとつひとつ違う行いをする。結婚への誓いのようなものなのでしょうか? 不思議な儀式でした。
■披露宴会場は主役不在で
儀式の一連はタパ さんの庭で行われ、それと同時に、家の隣の空き地に張られたテントが披露宴会場になります。
披露宴会場では朝から、ケータリング業者が披露宴の食事作りを始めていました。大量の食材と水、ガスボンベ、ガス台、巨大な鍋を持ち込んで、野外で料理をします。
披露宴会場は、次々と訪れる客人が、自由に飲み食いでき、儀式は家の庭で同時進行しています。日本では、結婚式や披露宴は、必ず新郎新婦を目の前にして、招かれた客人が一緒に祝う形ですが、ネパールの披露宴会場は、新郎新婦不在の、客人が飲み食いする場所となっているだけでした。
■結婚式に来ていく服装は?
結婚式の服装はこの日の場合、招く新婦側の服装は正装でなくても構いません。近所の人たちも普段着で来ていました。女性は赤いサリーを着ていますが、男性は、いろいろでした。招かれる新郎側は男性も女性も、正装です。男性の場合、ネパールの伝統的な帽子ダカトピをかぶると、正装感がでます。女性は、基本赤ですが、他の色のサリーでもスパンコールや光沢あるドレスで華やかに祝いの席を盛り上げていました。
■両家を行き来し、家族になる。
ネパールの結婚式は、一般的には、新婦側で儀式を行い、披露宴を新婦の自宅または披露宴会場で行います。披露宴が終わると、音楽隊を引き連れて、新郎新婦そろって新郎宅へ移動します。新郎宅へ着くと、もう一度そこで披露宴をする場合もあります。また、結婚式の後日には、嫁いだ娘の様子を、嫁いだ家へ様子を伺いに行く… という儀式があります。その時は、家族親戚、ご近所さんや知り合いも含めて、団体でバス貸し切りで移動します。家族や親戚の交流をもっと深めましょうという意味があるようです。
結婚式が終わって2、3日すると嫁に行ったタパさん娘は、さっそく里帰り。もう里帰り?と見るのは日本的で、ネパールでは、そういった見方はしません。実家も嫁いだ家も自由に行き来できるようです。
ヒンズー教にそった一連の儀式は、とても美しく神秘的でした。
日本の結婚式に見られる "おごそかな"という印象はなく、ネパール結婚式は、神聖なのだけれど、お祭り的でもあり、儀式なんだけれど、格式ばっていない、とってもネパールらしさが感じられる式でした。
家族と家族が繋がっていく、そういうのっていいなあと思える結婚式でした。