奴らは人が困りそうな所で網を張っている!! デリー騙しの手口 最新版

ティラキタでは研修も兼ねてスタッフには必ず一度は買い付け旅行に参加してもらいます。インドだったり、タイだったり、インドネシアだったり行き先は様々ですが、現地の空気を自分の身体で感じ取って、それをお客さまにお伝えすることが何よりも大事だからです。

そんなティラキタには色々なスタッフが集まって一緒に働いています。ティラキタでは海外に旅行に行きたいというと一ヶ月の休みが取れるので、休暇が出来るたびに海外へ出かけていくスタッフもいれば、「家が一番落ち着く」といって日本から出ようとしないスタッフまで様々です。

今回参加したスタッフTはどちらかというと後者のタイプ。そんな海外旅行初心者がインドに旅立ってみると…やっぱりみごとにインド人に騙されちゃいました。今回はその顛末をご紹介します。

■旅行者の最初の難関・ニューデリー駅
今回のティラキタ買い付けは現地集合・現地解散。先にインド入りしているスタッフとデリーで合流してさまざまなマーケットを回っていくという予定になっています。

これまでティラキタブログでも紹介してきた通り、日本からインドに行くのはだんだん便利になってきています。 VISAがオンラインで申請出来るようになったり空港からニューデリー駅まで地下鉄が通ったり…。かつてのインドを知っている人からはめちゃくちゃ安全で快適になっていると思います。



スタッフTもブログを参考にしながら地下鉄ニューデリー駅までは難なく到着することができました。ちょっと殺風景だけど結構近代的だし、なんだインド楽勝じゃん!と、この時点で油断したのが後のアダになったのでした。

■インドの空気が押し寄せてくる!

↑外の喧騒とは正反対な、静かな構内

妙にガランとした地下鉄ニューデリー駅を出ると、いっぺんに色々な匂いが押し寄せてきます。空気に強く入り交じるお香の香り、得体の知れない糞尿の入り混じった匂い、大気汚染なのか埃っぽいようないがらっぽいような空気、夕餉を知らせる揚げ物の香り…。ひっきりなしに鳴り続けるクラクションと怒ったようなリキシャ運転手たちの呼び声。首都のメイン駅のど真ん前だというのに道路は壊れていて野良犬がうろついています。

気がつけば自分はインドに来ていたのだと、先ほどまでの地下鉄の近代空間から一気に現実に投げ込まれた気分になります。こわい!



周りの勢いに気圧されつつも地下鉄のニューデリー駅からは、地上線のニューデリー駅を乗り越えて反対側の宿場街・パハールガンジを目指します。google先生の地図によれば徒歩で20分程度。異国の街を眺めながら歩くのに丁度良さそうな距離です。

このニューデリー駅、旅行者の間で色々なうわさがあることで有名です。
いわく、「日本の駅と違ってチケット無しでも通りぬけ出来る」
「チケットがないと入り口で止められる」
「外国人だとなんとなく通れる時がある」等々、何ともはっきりしません。実際現地に行ってみると、一つの階段の入口では銃器を携えた怖そうな警官が睨みを効かせており、「EXIT only」の看板が掛けられています。なんとなく無理そうな雰囲気…。



少し離れたところにあるもう一つの階段入り口に行ってみると、こちらにも「進入禁止」と書かれているものの、警備員は誰もいません。人の流れがあり、それに乗じて駅の反対側までなんとなく抜けられそうな雰囲気です。やった!そう安心したのもつかの間…



■パーミッションパス?
勢いで階段を登ろうとした矢先、駅員と思しきインド人からすぐに呼び止められてしまいます。




「チケット持ってないと構内には入れないよ!」

「いえいえ、僕は向こうに通り抜けたいだけなんです」

チケット見せなきゃダメダメ!

ぜんぜんラチがあきません。そもそもこのインド人、本当に駅員なのでしょうか…インド人は私服で働いていることが多いので、素人には見分けがつきません。でも他のインド人旅行客も呼び止められているので駅員さんなのでしょう。

「建国記念日が近づいていて多くの人がデリーに集まっているため、ニューデリー駅周辺はセキュリティレベルが非常に高くなっているんだ。特に外国人の場合、パーミッションパスがないと駅に限らず多くの公共の場への立ち入りが制限されているんだ」

パーミッションパス?聞き慣れない言葉ですが、今回のインド買い付けではついでに建国記念日パレードを見に行くという目的もあったので、たしかにそのような許可証が公布されていてもおかしくないような気がします。建国記念パレードのセキュリティってすごく厳しいのです。


↑建国記念セレモニーではカメラの持ち込みも難しい

諦めて、だいぶ遠回りになるけど更に歩くか、タクシーでも捕まえようかな…ととぼとぼと歩き始めるとさっきの駅員が呼び止めてきます。

「おい君、ふらふら歩いていると危ないぞ!よし許可証を取得できる場所を案内してやる。ついでにリキシャーのつかまえ方も教えてやる!」

なんか急に親切になりました。メモ帳に地図を書いて一生懸命説明してくれます。

「いいか、許可証はこの観光局に行って手に入れるんだ。パスポートと滞在先がわかれば問題なく申請できるだろう。公立だから当然金は取られない。万が一金を請求されたら抗議しないとダメだぞ

「それからリキシャのつかまえ方はこうだ。だいたいのドライバーは外国人観光客を見るとふんだくろうとする。奴らはすぐに100ルピーだの200ルピーだの300ルピーだのふっかけてくる。それは全部ウソだ。適性な価格は30ルピーだ。」

近くでたむろしているドライバーたちに大声で何かを話しかけると、ドライバーたちが口々に「200ルピー!」と答えます。



「ほらな、こういうリキシャに乗ってはダメだ。」さらに別のリキシャに声をかけて値段交渉をしに行きます。

「この客人をこの地図の場所まで乗せてその後ホテルで降ろしてやってくれ。いくらだ?」
「50ルピー」
「いや30ルピーで乗せてやれ」
「40ルピー」
「ダメだ30ルピーだ。でなきゃ他にあたる」
「わかった。OKだ」


↑インドでリキシャに乗るときは事前に運賃を交渉しましょう

すごい!ちゃんと値段交渉までしてくれてめちゃくちゃ親切です。

「いいか、オートリキシャーはこうやって交渉するんだ。絶対に言い値で乗ってはダメだ。それから観光局でも金を払ってはダメだぞ。じゃあ気をつけて。・・・あと、持っていたらジャパンのボールペンをくれ

「地球の歩き方」にも日本のボールペンは喜ばれると書いてありましたが、本当に欲しいって言われるんだ!ペン一本なら安いものと思って、お礼に渡してお別れしました(慌てていたので、実際に渡したのは以前お土産にもらったインド製のボールペンでした)

■デリーの車窓
駅員に手配してもらったオートリキシャに乗り、「観光局」を目指します。ニューデリー駅周辺を離れて大通りに出ると道はますます埃っぽくなり、走行する車両のクラクションは更に高まります。リキシャのドライバーさんはその風景にすっかり馴染んで鼻歌混じりです(実際、インドの人はよく歌うのです)

「どこから来たの?」
「デリーは物騒だから荷物から目を離しちゃダメだぞ」
「リキシャに乗る時も、荷物は座席の内部側に置くように。バイクで外からひったくる悪いヤツがいるからね」

あーインドに来たんだなあと、そんな会話を交わしながら中心地・コンノート・プレイスを通り抜け更に進みます。そろそろ止まるのかな・・・と思っていますが一向に止まる気配がありません。公立の観光局なのに街の中心地を離れて大丈夫なのか?日も暮れて車の外の風景がだんだん暗く寂しくなってきます。不安になりかけたところ、ようやくリキシャが止まりました。



■観光局?
あまり立派とは言えない建物の一角に連れられて「ここが観光局だよ。おれは外で君が帰ってくるの待ってるから」とリキシャのドライバーさんが教えてくれます。非常に怪しげな建物ですが、旅行者にとっては「インドの公共施設だし、こんなものかな・・・」と恐る恐る中に足を踏み入れます。

来客用の椅子と事務机、電話とパソコンしかない質素な部屋に通されると、にこやかなインド人が出迎えてくれました。ふとパソコンのモニターに目をやるとトランプゲームで暇つぶしをしていた形跡が見られます…。大丈夫なのでしょうか。インドでは役人とニセ役人を見分けるには「仕事をサボっているのが役人、熱心に働いているのがニセ役人」とも言われていますので逆に信頼できるのかもしれません。

■ホテルがない!
「パーミッションパスの申請に来たんですが」
「いらっしゃい。申請にはパスポートと滞在先の情報が必要になるので、まずそれを確認したい。フムフム…念のため宿泊確認で宿に電話させてもらうからね。」

そう言って、予約しているホテルに電話をかけます。しばらくヒンディー語でホテル側と話し合っていたのですが、だんだん顔が曇っていきます。



「ねえ君、ホテルの予約がキャンセルされてるって言ってるよ」

ええっ!

予想していない事態に絶句してしまいます。話を聞くと、建国記念日が近づいているためセキュリティのレベルが上がり、パハルガンジなどの安宿街は規制強化のため一部ホテルで外国人客の宿泊がキャンセルされているとのこと。前日にメールで連絡をしていると言われましたが、こちらはオフラインなので確認しようがありません。

観光局の人が「一応抗議してみるか?」と受話器を渡してくれたので何とか覚束ない英語で話をしてみると、ホテルのスタッフが「申し訳ございませんが先ほど説明したとおりご予約はキャンセルされており、お客様をお泊めすることは出来ません。キャンセル料金につきましてはホテルブッキングサイトを通じて返金がなされますので、そちらからの連絡をお待ち下さい」との返答…

何ということでしょう、慣れない外国の街で宿なしになってしまいました!困惑の余り喉がカラカラに乾きます。

■宿なしに
絶句して電話を切ると、観光局の人が見かねて声をかけてくれました。

「パーミッションパスよりもまずは今日泊まれるところを確保した方がいいんじゃないか?」

こちらが警戒しているのを見て取ると、「ガイドブックを持ってるなら見せてみなさい。その中で君の予算に合う希望のところに電話をかけてあげよう」と申し出てくれます。たしかにこれなら騙されることはなさそうです。


↑デリーのホテル街。こんなに沢山建物が合っても私の泊まれる場所がないなんて…

希望の価格帯を伝えると次々とホテルに電話をしてくれますが、どのホテルも満室であったり、あるいは規制強化が原因で断られてしまい、観光局の人もついには頭を抱えてしまいました。

「可能性のありそうなところは全部あたったけど、この様子だとデリーでの宿泊はもう諦めたほうが良さそうだ。デリー以外の近郊の都市に行けばおそらくセキュリティーがゆるく、それほど客も集中していないから多分泊まれるだろう。列車のチケットと宿を手配してあげようか」

「いや、明日は所定時刻に待ち合わせがあり、その時間と場所を逃すともう合流が出来なくなってしまうんです」

「そんなこと言ってもデリーではもう泊まれる場所はないぞ。他の都市に行ったほうがいい

こんな会話がしばらく続きました。

最後には「元々予約してあったホテルに行って、直接抗議してみた方がいい。場合によってはそこに泊まれるかもしれない」というアドバイスを受けて、待たせてあったリキシャに再び乗ります。1時間くらいは待たせていたので、もうひょっとしたらどっかに去っているかもしれないな…と思ったのですが、律儀に待ってくれていました。

元々予約してあったパハールガンジの宿を目指して、すっかり暗くなった街を走ります。道端に目をやると、家を持たない人々が毛布にくるまって路肩に寝転んでいます。自分もホテルを取れなかったら今晩は野宿になるのか…寒空のデリーで野宿なんて恐ろしすぎです!



■一体何だったのか
予約してあった元のホテルに着いて、多目に料金を払うと大喜びで去っていくリキシャのドライバー。一方こちらはキャンセルされた部屋を取り戻すためにホテルと争わなければなりません。覚悟を決めて宿に乗り込みます。



やや語気を粗めに「今日このホテルに部屋を取ってあるんですが!」と予約券をフロントにつきつけると「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」とあっさりチェックインできました。ええ?っ…これまでのいざこざは一体何だったのでしょう。

拍子抜けしたまま、部屋に案内され、清潔なベッドで寝転んでいるとだんだん事態が把握されてきました。結局すべては仕組まれていたのです。沢山のウソと部分的な真実を織り交えて…。

「駅員」はニセモノ、「観光局」もニセモノ。オートリキシャーのおっちゃんは普通の良心的なドライバー。観光局の人があちこちに電話をかけていたのは、ニセモノの電話先だったのです。「駅員」がボールペンを要求したりオートリキシャを値切ったりしてくれたのも一連の騙し行為にリアリティを持たせるための小道具だったのです。



デリーから他所の土地へ列車やホテルを手配し、その手数料をたっぷり取ってグループで山分けするのでしょう。「駅員」や「観光局」(実際には何人もスタッフがいました)、ニセモノの電話先を含めて考えると10人以上の人間が関わっていたことがわかります。しかしこの一連の騙し行為の中で唯一儲かったのはオートリキシャのドライバーだけ…。ここまで周到に仕組んでおりながらこの効率の悪さ…一体何なのか??狐につままれたような心持ちです。

■でもやっぱり人柄のいい国です
と、こんな経緯があったので、スタッフTはしばらくの間インド人不信に陥っていました。目に見える全てのインド人が詐欺師に見える…となっていたのですが、旅の終わりごろではインド人たちを再び好きになっていました。

たくさんのインド人がいて人それぞれ異なるのだけど、彼らの根底にあるのは底知れない前向きさと、現状を楽しもうとする明るさだと思います。

インドでは、いい年をしたおじさまたちが互いにつつき合ってじゃれあったり、駅員さんと乗客がゲラゲラ笑い合ったりする場面を何度も目にしました。幸福ということの意味を考えさせられる一場面でした。とんでもなく回りくどい方法で人を騙そうとするのも、きっと生きるのに必死過ぎるのと、考え方が少し違うのだと思います。

これからインドを旅行する人で、ニューデリー駅で「パーミッションパス」と声をかけられたら、「あ、これはティラキタスタッフが騙されたやつだな」と思い出してくださいね。



※なお、今回の写真に写っている人々や建物は騙しグループとは無関係です。
■インドで騙されないようにするには
さて、ここまではスタッフのTが実際に騙されそうになった体験談を書いてくれましたが、実はインド、コツを掴めば、ほとんど騙されずに楽しく旅行をすることができます。

そのポイントは…「自分から話しかけた人の話だけを聞く」事です。

ただこれだけ。本当にこれだけ。
すっごい単純で拍子抜けしたでしょ?
でも、本当にこれだけ。

自分が人に話しかける時は色々な人の顔を見て、教えてくれそうとか、親切そうな人に話をしますよね? だから、自分で声をかけた人はいい人である確率が高いのです。

でも、他人が人に声をかける時は何か目的があって人に声をかけます。「この人にモノ売れないかな?」とか、「この子かわいいから彼女にならないかな」とか。欲があって声をかけます。だから、人から声をかけられた時は、要注意。

今回のスタッフTのケースも「困った所に声をかけてきた」ケースなのですね。デリーメトロの出口の詐欺師達は「困っている人を助けるかのように自然に」声をかけます。そしてカモからどれだけムシれそうかを見極めて、ムシれそうな相手からはとことんムシります。

スタッフTが今回開放されたのは、インドに一度来ていて物価価値がわかっていたことで、ムシれそうな要素が少なかったからでしょう

邦人女性を3週間監禁し暴行、男5人を逮捕等のニュースもしばしば目にします。本当に可哀想だと思います。もちろん、やった奴が悪いに決まってます。

でも、ほぼ間違いなく「相手から声をかけられてついてった」に違いありません。

「自分から話しかけた人はいい人で、話しかけてきた奴は悪人」って言うのは学校では教えてくれませんし、日本でもなかなか習う機会がありませんが、本当に基本的な人間社会のルールだとおもいます。

自分が「なんか騙されてそうだな?」って感じた時、ぜひこのルールを思い出して、どっちから声をかけたかを考えて行動してみてください。

それではみなさん、よい旅を!!
Have a safe trip!!!

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