ジャイプルのブルーポッタリー工房に行ってきました


■素敵な風合いの焼き物を探して
インドに素敵な風合いの焼き物があることは、10年以上前から知っていました。ブルーポッタリーを一番最初に見かけたのはバラナシの骨董屋さん。透き通るような美しい青の色と、手で作った感じのちょっとゆがみのある造形が特徴的な焼き物でした。

焼き物の表面の柄は全部手で描いているのでしょう。ちょっとはみ出し、塗りムラがあり、描いてあるデザインはインドらしい柔らかさで、その不完全さがとってもチャーミングでした。



「これ、どこの?」と聞くと、
「ジャイプルだね。昔からあるものだよ」との返事。

その日から、いつかジャイプルに行ってブルーポッタリーの製作工程を見てみたい、仕入れてみたいと夢見るようになったのです。


■工房を探し当てる
マハラジャが統治していたジャイプルには、色々なハンディクラフトの工房があります。ウッドブロックを使ったベッドカバー、インドの家具、シルバーアクセサリーに宝石など、ジャイプル特産と言われる特産品が数多くあります。

でも、そういう工房はジャイプルに行っても、なかなか発見することが出来ません。ジャイプルの市街地に工房があるわけでなし、商品を取り扱っているお店に行っても、なかなか教えてくれません。お店の人は、教えると自分の所で買ってくれなくなると思っているのでしょう。毎度の事ですが、工房にたどり着くまでの道のりは凄く遠いのです。

何年かジャイプルに通い続けて探し続け、やっとこブルーポッタリーの工房に行き着くことが出来ました。ここにたどり着くのに10年。長い道のりでした。行き着いた工房の名前はJAIPUR BLUE POTTARY FACTORY。階段にはブルーポッタリーのタイルが貼られ、ブルーポッタリーの象徴的な色である水色で壁が塗られていました。



工房併設のお店には、所狭しとブルーポッタリーが並べられています。
タイルも色々ありました。
数字のもの、マハラジャ柄、孔雀柄、つる草柄…どれも凄くキュートです。



■工房で実際に作業している人々を観察しました

工房を案内してくれたのは、家長のケラーシュさん。3世代前にこの工房を開き、代々家族で仕事を守ってきたそうです。インドでは仕事は家のものとされ、多くの人々が自分の家業を代々引き継いでいます。ケラーシュさんの後ろにあるのが焼成窯。すす汚れた感じが、連綿と続いてきた歴史を感じさせます。



原材料は水晶(大きくて白いもの。クリアークオーツを使う)、ウェストベンガル州から来ている緑のガラス、透明のガラス、陶器の原料になるムルタニと呼ばれる土、アラビアガム(バンブーガム)、岩塩。日本の陶器は土だけで作られていますが、このブルーポッタリーは、なんと5種類の素材をミックスして作るのだそう。水晶を使うあたりは磁器の作り方に似ていますが、磁器とは焼成温度と素材の幾つかが違います。

すべての原材料をグラインダーでミックスして土を作ります。材料の配合は水晶が90%、他の材料が数%ずつ。岩塩は1%以下。と言うことは、「ブルーポッタリーとは水晶を焼いた物である」と言い換えることができますね。



この粉がグラインダーで細かくしたあとの粉。完全にパウダー状になっていてさらさらです。これに水を加えて柔らかい餅状にして整形します。



大きな皿を作っている所。日本の陶器と違って餅状の土なので、お皿などの凹凸があるものを作るには、何かしらの支えが必要です。ここでは、その支えに木の灰を使用していました。

整形した後、太陽光で乾燥させて、サンドペーパーでスムースにして、形を整えて、ホワイトコーティング。下地剤に漬けたあと、もう一回太陽光で乾燥させます。



花瓶を作っていました。ここでの花瓶の作り方は非常に面白く、なぜか3パーツに分けて作っているのです。



大きなお皿と同じ方法で円形の下部を作り、それからロクロで上部を作る。おわん型を上下くつっけて、一個の花瓶にします。こんな面倒な方法をするのはやはり、土が餅状で柔らかいからなのでしょう。



■ロクロは手動でした

ここでは、何百年も前から伝わるであろう手動のロクロを使っています。最初に木の棒をロクロの端っこに刺して、ぐるぐると腕全体を使って回します。ロクロが停止するまでの時間は1から3分くらいでしょうか。結構、長い間回っているものです。

実際に、インドパパもロクロを使ってみましたが、本当に難しく、思った形を作るのは熟練が必要です。このムービーに出てくる彼、ジャグディーシュさんは42年間この工房で働いているとのこと。



形ができたら、絵付けに入ります。一番最初にロクロで簡単なアウトラインを引き、その後、手で絵付けをしていきます。簡単な下絵を描いてからブラシで色をつけていきます。1個の花瓶の絵付けに40分ほどの時間がかかります。

絵付けをしている人はビノードさん。この道、15年のベテランです。なんだか横になってリラックスしている感じですが、手は休むことなく動き、色をつけていました。





色をつけ終わった花瓶です。焼く前は薄いピンク色をしていますが、焼きを入れると、これが濃い蒼色に変わるのだそうです。



茶色の部分は銅が主成分の塗料で、焼成後は有名なジャイプールブルーに変わります。素材のクオーツと銅が1000度の温度で焼かれると、酸化して有名なジャイプールブルーと呼ばれる、ターコイズ色に変わります。肌色は酸化鉄。焼成後はブラウンカラーに変わります。濃いブラウンの部分はコバルト。ブラックに変わります。


色をつけたあと、グレージングと呼ばれる釉薬を漬ける工程に入ります。釉薬の材料はスターチ、ホワイトストーン。ホワイトコーティングは液体状のものです。釉薬につけたあとはこのように一旦模様が見えなくなります。薄く模様が入っているのが見えますでしょうか?



■焼成温度は1000度
すべての工程が終わったら、釜に入れて焼成します。この工房では一週間に一回位の間隔で、釜に火を入れて焼くのだそう。焼成の時間は1000度で8時間、その後、自然に冷却されます。自然冷却の時間は4日間です。

陶磁器の焼成温度は1300度、陶器でも1100?1300℃くらいの温度で焼かれますので、ブルーポッタリーの焼成の温度が1000度と言うのは、焼き物としては割合に低い温度です。低い焼成温度だけでなく、土の主成分がほとんど水晶ですので、出来上がった焼き物は、焼き物としては柔らか目の、独特の風合いに仕上がります。



水晶を粉にするところから数えると、一個のジャイプルポッタリーを作るのに最低でも10日間位かかります。すべての工程が全部手作業で作られているのも素敵です。

何百年という間、親子で作り続けられている伝統の陶器は、不思議な温かみとエスニックな雰囲気がありますね。

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4 Comments + Add Comment

  • テイラキタさんこんばんは。
    私は日本で生まれて、今はアメリカで暮らしてる粘土を使った造形家で、今はアメリカで学校の先生をしています。アメリカの有るファンデーションの奨学金を貰い、二ヶ月間インド、ニューデリーに居ます。ジャイプルにも行ってみようと思っていたところ、イラキタさんのブログに遭遇しました。是非良かったらこのブルー工房の行き方を教えて貰えないでしょうか?教えていただけれたら光栄です。
    ひろみ

  • 了解しました。メールでご連絡させていただきますね!!

  • こんにちは!
    ジャイプル在住のものです。おもしろい情報がないかと思いネットで探していたところ、ティラキタ様のブログを見つけました。まだまだ私の訪れたことのない所の情報が盛りだくさんで、なおかつ思わずウンウンとうなずきたくなるナイスツッコミが本当にい面白くて、読むのがやめられません(笑)

    サンガネールの近くに住んでいるので、買い付け班のみなさまジャイプルにいらっしゃる際はぜひお会いできたらなぁなんて 🙂 これからもおもしろい記事のアップ心待ちにしております★

  • おお、ジャイプル在住なのですね!! 読んで頂いて本当に光栄です。
    インドって不思議で面白いところですよね。
    住んでいたら毎日大変なことばかりだと思いますが…

    もしタイミングが合ったらぜひ! お会い出来たらと思います。
    ありがとうございます?

もし宜しければコメントをどうぞ

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