ディワリの到来

インドで毎年行われている祭のうち、一番盛大だと言われているのがディワリだ。11月の中旬の2日間をメインにその前後に華やかに行われるのだという。このディワリはインド正月に当たり、ヒンドゥー教徒を中心に行われていたが、今はインド中に広がっているようだ。別名、光の祭とも呼ばれており、メインの2日間は一日中家中の電気を点けっぱなしにして家の前をキャンドルや電飾で飾り立てて富と豊穣の女神、ラクシュミを迎え入れるということだった。ただ、詳細については地方によって意味合いや祝い方も違うということ。私は今回リシュケシュで迎えることになった。

インドの盛り上がる祭の常として、ただで終わるわけがない。きっと面白いだろうと楽しみにその到来を待っていたところ、最初の変化は警官の数だった。ディワリ中はテロの可能性が高まるという話で、寺院の前やタクシー乗り場、繁華街などにぱりっとした制服を着込んで小銃を持った警官がわらわらとうろつくようになった。銃は博物館にでも飾ってありそうな古めかしいもので、実際に弾が出るのかも分からないような代物だったけれど、物々しいことこの上ない。

次には街中のお店が10時閉店を義務付けられて、今までより1時間以上前に街が静まり返るようになってしまった。夜中が危ないということだろうか?しかし何が?

そんな訝しげな旅人たちの疑問を吹っ飛ばしたのはディワリの数日前から始まった前ノリではしゃぎ始めるインド人の皆様だった。光と言われて花火を思いつかなかったのは迂闊としか言いようがない。日が暮れて辺りが暗くなり始める頃から街中で散発的に花火が上がるようになり、爆竹が鳴らされるようになったのだ。

もちろんそれは半端なものじゃない。ロケット花火の軌道は全く安定せず、どこに飛んでいくのかは飛ばすまで分からないし、噴出系の花火は地面から2階まで火柱が届くほどだ。ねずみ花火はヴィシュヌのチャクラムを思わせる巨大な光輪となって地面を縦横無尽に走り回るし、爆竹にいたっては一発爆発するごとに辺りの山々に巨大なこだまが響き渡る。

電飾が結構地味だったので、「これで最大の祭?」と不思議に思っていたのだが、インド人としてはどうにも鳴り物、光り物がないと盛り上がらないのかもしれない。子供も若者も大人達も、火遊びが好きなようで道から庭から川沿いから、至るところでやっている。宿の従業員もノリにノッて泊り客と一緒に中庭で巨大な火柱を上げていた。テロ警戒の意味がよく分かる。この状態ではどこの原理主義者が大暴れしようが祭なのかテロなのか全く見分けがつかない。

さて、ぜひご紹介したい華やかなインド風花火術というものがある。きっとまだ日本ではやった人はほとんどいないのではないだろうか?それというのは、買って来た花火(小さいものは大体一つ3Rsから10Rs程度)を、買った時の紙袋に入れたまま適当な場所に安置し、その紙袋の端に火を点けるというものだ。表の紙袋が燃えることによって、中に入った花火たちに引火し、一斉に爆発するという寸法だ。大抵は爆竹で行うが、様々な種類の花火を混ぜるとより華やかだ。大音響に振り返るとまばゆい火柱が立ち上り、でたらめな方向にロケットがびゅんびゅん飛んでいく。誰でもふざけ半分にやるため、実際的にはテロより危険度は高いかもしれない。もちろん警察はこんなものは取り締まらないので見かけたら牛の影にでも隠れるか、走って逃げるかである。

そして当日、祭はクライマックスを迎える。あっけないほど何事もないように見える昼間が終わり、日が暮れると花火の音はそれまでよりもさらに重厚感を増す。シャァーーっという焼夷弾が降り注ぐような音、パパパパパンという重機関銃を撃ちまくるような音、ヒュウーーーンと高射砲の発射されるような音、山々に響くこだまは艦砲射撃でも受けているようだ。そこに鼻を突く火薬の臭い。

10時過ぎからガンガーの川原から大きな花火が打ち上がる。既に索敵用の照明弾に見えてならないが、間近だし、派手で美しい。テラスからそんな街を見ていると市街戦を扱った古い映画を思い出してしまう。12時過ぎまでそんな花火が待ちのあちこちから上がる。迷惑だなんて言ってもいられない。これはおめでたいお祭なのだ。「ハッピー・ディワリ!」とみんなで笑顔で声を交わし、最終的には部屋を閉め切って耳栓でもつけて寝るしかないのだ。

文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。

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