仕事人たちのグッジョブ

インドの人々は仕事に対してとても真摯だ。東南アジアを回っている時はかったるそうに仕事をサボっている人の姿が目に付いていたけれど、インド人は自らの仕事に対してとても情熱的に、真面目に取り組んでいる。

それというのも、インドに昔から存在していた階級制度(いわゆるカースト制)が職業と深く結びついており、自らの仕事を誠心誠意行うことが神に対する信仰に直結しているからだ。もちろんヒンドゥー教徒以外はこうした階級制度の下にはいないが、2000年以上に及ぶこのインド亜大陸の精神風土は大きく人々を包み込み、今もその空気を13億人のインド人の中に濃密に残している。

彼らの仕事を見ていると職人技という言葉がとてもしっくり来る。それぞれがプロフェッショナルで、自らの仕事にプライドを持っているように見える。そして彼らのする仕事は、あらかじめ階級で決められたものではあるはずなのに、時に驚くほど創造的になったりもする。

それがよく目に付くのはマーケットだ。青果やスナックを並べた彼らの小さな販売スペースは色とりどりのアイディアで彩られている。いかにして商品を美しく、目立つように並べるか。そのために彼らは労を惜しまない。ピラミッド型、らせん型、様々に盛り付けられた野菜や果物たちは時にプージャの供物のように神々しくさえある。

もちろんその創造性が現れるのは客商売だけではない。よくよく見れば無数のカーストのそれぞれの仕事の中に、それを見ることができる。

とある昼下がり、宿の近くの混雑した繁華街を歩いていると、前方の人ごみの真ん中からなにやら煙が立ち上っているのが見えた。こんな時間にこんな人ごみで何か燃やしている?いくらインドだってそれはなかなかに無茶な話だ。実際まっすぐ進めないほど混み合っているのだ。不思議に思って近づいてみると、なぜか火の元はない。

でも煙はそこからちょっと離れたところからまだ立ち昇っている。何故に?気になって前方のタミル人の集団を追い抜いて煙の元に辿り着くと、そこではなんとゴミ収集用の荷車の中でゴミたちが炎上していたのだ。しかも、驚いたことに炎上したまま移動しているのである。いいのか?これはありなのか?おばあちゃんのサリーの端とか燃えちゃわないか?

掃除夫のおっちゃんはもちろん表情一つ変えずに通常業務顔で荷車を引いている。その後ろの荷車の中では生ゴミからプラスチックから、およそ道に落ちているゴミが何でも炎上している。濃い煙と酷い臭いが当たりに立ち込め、時に炎の赤い舌が高く立ち昇るが、おっちゃんも周りを歩いている大勢のインド人も気にしない。むしろ食べ終わったアイスの棒とか普通に放り込んでいる。

とある屋台の前で荷車が止まると、そこのにーちゃんが屋台の溜まっていたゴミを燃えている荷車に躊躇せずにどさっと乗せる。景気よく煙と炎が上がるけれど、付近を警ら中のポリスメンは注意どころか一瞥すらしない。軽く二言三言話した掃除夫は、まだ威勢良く燃えている荷車を引いてさらに繁華街の中ほどへとふらふら歩いていった。

よくよく考えれば、確かに最終的にゴミをどこかで燃やすなら運びながら燃やした方がその分の時間も節約できるし、燃やした分だけゴミの体積は減るのだから効率的にゴミを収集することもできる。合理的なのだ。まさかの逆転の発想、そんなものがインドでは路上にぽんと落ちている。仕事人たちの絶え間ない工夫が時に驚きの創造性を生み出すのだ。

P.S.ちなみにインドは創造と同時に模倣も大変盛んである。よいアイディアは必ず誰かに真似されるのだ。ということは、次にインドに来る頃にはそこらじゅうで掃除用の荷車が燃えながら闊歩していることもあり得るのかもしれない。
文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。
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