インド鉄道なう

「インドの鉄道は遅れるのが当たり前」、「2時間までは遅延のうちに入らない」、「列車が来たらそれだけで合格点」、「5時間遅れで出発して到着した時には10時間遅れていた」、10年前の旅人達のインドの鉄道に関しての共通認識だ。ちなみに最後のものは私の実経験である。

今回10年ぶりにインドに来て鉄道にもたくさん乗った。そしてこの10年間のインドの鉄道の発展についてはいろいろと驚く羽目になった。自分が基本的に利用していたのは今も昔も一番安い寝台席の「SL」クラスだったので、そこに限って話を進めてみよう。

まず驚かされるのは駅の表示の分かりやすさとダイヤの正確さだ。大きくて利用者の多い駅では、だいぶ電光掲示板で次の列車の列車番号と停車位置が表示されるようになっている。どの列車の何号車か、チケットと照らし合わせればもう大荷物を持ってうろつきまわる必要もない。

そして発車時刻についても、今回9割近くの列車は10分以内の遅延で済んだ。一度などは発車時刻の5分前に出発してしまうという急ぎっぷりだ。だから以前のように「ちょっと遅れて駅についても余裕で間に合うし、待ち時間も減ってラッキー」ということはもうない。むしろ余裕をかまして乗り遅れ、照れ笑いで宿に戻ってくる旅人の方が多い。到着時間もほぼ同じ。予定時間には身支度を整えていないと早めに到着したりして慌ててホームに駆け下りる羽目になる。


中の座席はもちろん10年前と一緒だ。変化はちょこちょこペットボトルホルダーが据え付けられている程度。ここで違うのはインド人達だ。乗客で言えば、きれいな身なりをした人がずいぶん増えた。彼らはビジネスや観光で列車を使っていて、「SL」なのにもかかわらず小ぶりのスーツケースから最新のネットブックを取り出しては仕事をしたりムービーを見ていたりする。どう考えても私の持っているものより新しくて軽くて早いのは少しショックである。

きれいな景色が見えると携帯のカメラでそれを撮影し、恐らくは友達に送っているのだろう、カチカチとボタンをいじっている人もいる。小型で薄型で液晶もきれいである。見ものなのは連結部にある電源の争奪戦だ。乗り込むとみんな我先に空いているコンセントに自分の携帯の充電器を差し込んではそのまま待ちきれずに誰かと話し込んでいたりもする。一つ空くと近くに待機していた人が目ざとくそこを占領する。

その一方、インドの鉄道の名物、車内の行商人たちは健在だ。パコラやサモサ等の軽食、チャイにコーヒー、バクシーシをねだる乞食におかまちゃんもいる。タイミングによっては蛇使いがろくに笛も吹かずに剥き出しのコブラを人の顔の前に突き出してきたりもする。もうこうなると半分カツアゲである。

見事な技を見せてくれるのは昔ながらのいろいろな修理屋だ。靴磨きの若者は小さな道具箱を持っていて、ちょっとしたほころびなら目の前できれいに修繕してくれる。大量のファスナーをジャラジャラさせながら歩いて、バッグを直しに来る職人もいる。みんな人の座席や通路の真ん中にどっかり座り込んで仕事道具を広げだす。誰が通ろうとお構いなしだけど、それでも隙間を押し合いへし合いしながらみんなちゃんと通れているのがインドらしい。

「SL」クラスだけではなく、インドの鉄道にはいろいろな楽しみ方がある。豪華なエアコン付きのエクスプレスから今も昔と変わらずフルパワーにおしくらまんじゅうする羽目になるジェネラルクラスまで、どこに乗ってもインドのそれぞれの顔が見えるはずだ。
文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。
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