テーマパーク、カニャークマリ

カニャークマリは言わずと知れたインド最南端の岬だ。巨大なインド亜大陸が終わり、ベンガル湾、アラビア海、インド洋の三つの海が出会う場所でもある。パールバティの化身である処女神クマリが祭られており、それが名前の由来となっている。インドで唯一、海から昇る朝日と海に沈む夕日を一日に両方見られる場所として有名で、古くから巡礼地として大勢巡礼者が訪れている。古代ローマ時代の文献にも聖地として名前が登場しているほどである。

もちろん今も巡礼者の数は多く、それにもっとカジュアルな観光客も大勢ここを訪れるようになっているため、シーズンにはかなり混雑する。外国人の観光客もいるけれど、やっぱりここの主役は何と言ってもフルパワーなインド人達だ。朝日と共に沐浴と称して泳ぎ始め、かんかん照りの日中から夕暮れまで子供も大人も一緒にずっと遊んでいる。「危険!」の看板もほぼ効き目がない。おっちゃんもにいちゃんもおばあちゃんもみんな子供のような目をして本気で波と戯れて遊んでいるのだ。

そんなインド人観光客達を相手にするカニャークマリの土産物街もまたハンパではない。江ノ島と浅草の仲見世通りを一緒にしたようなカオスとエネルギーがそこには満ち満ちている。ベタな貝殻細工のランプシェードや置物を売る店が並び、スパイスやサリーなどのお店も軒を連ねる。

だが、今カニャークマリで一番アツいのは低額価格統一ショップ(以下100均)である。土産物街の半分はこれなんじゃないかと思うほどの店舗数だ。3軒並んで100均とか全然普通である。価格設定は店によって違うが「全品5Rs!!」か「全品20Rs!!」の2パターンがメインで、それ以外に少し高額商品を置いてある店もある。インドの他の場所では一度も見たことのなかった100均、それがなぜこの最南端の岬にだけこんなにたくさんあるのかまったくもって謎だ。

インド人にとってはそれは見たこともないエンターテインメントとなっているようで、彼らの食いつきっぷりは生半可ではない。もちろん100均なのでカニャークマリ名物が買える訳ではない。品揃えは日本の100均の劣化版のようなものだが、日用品があれこれと揃い、プラスチック製のおもちゃが並んでいたりする。それを買い物カゴに詰めて大量に買う。

実に5Rs均一の店で300Rs分買っている人までいた。ここでいったい60個分も何を買ったのか、ぱんぱんの袋を抱えて笑顔で帰っていく。他の店では大きめだけれどどう見ても安っぽいぬいぐるみを「これは大きいから特別価格で500Rsなんだ。」と言われて真顔で悩んでいるお父さんもいた。悩むこともないほど高過ぎる気がするのだが、インド人は不思議だ。

夕日の後にはどこでも見たことのないキャラクターの着ぐるみが登場して愛想を振りまく。家族もカップルも若いにーちゃんのグループも大喜びでカメラや携帯で記念撮影大会が始まる。着ぐるみも愛嬌たっぷりにポーズを取って見せる。

でも、きっとそれがカニャークマリの熱度なのだ。同じ聖地でも、生と死が隣り合ったシリアスなヴァラナシと比べ、陸と海がせめぎあうこのインドの果ての風景は、自然のエネルギーと生き生きした南国の濃密な空気に満ちている。そこで人々はまるで遊園地に来ているかのように子供にかえって楽しむのだ。
文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。
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