インドの映画館で起きたビックリする事
人がインドを旅する理由はいろいろだけど、長くいれば必ず行ってしまうのが映画館だ。街には最新公開のポスターが溢れ、インド人もよく見に行っている。言葉は現地語だけど、それでも楽しめてしまうエネルギーはインド映画の大きな魅力だ。
先日行った映画館は日本でいうシネコンで、ヴァラナシ最大のショッピングモール、JHVの中にあった。モール内が全面禁煙なのと、恐らくはテロへの警戒のために入り口では金属探知機を含め一人一人入念な荷物チェックを受ける。
タバコ、マッチ、ライター等はその場で半券を渡されて預けることになる。マクドナルドやピザハットの間を抜けてエアコンの聞いた館内をエスカレーターで上る。日本とまでは行かなくともタイかマレーシアの大都会にでもいる気分だ。インドだとは思えない。
チケットを買って映画館内に入るときにもう一度荷物のチェックがある。ここでは外からの飲食物の持込が禁止されていて、水のペットボトルさえも預けなければならない。飲み食いしたければ中の店で買えということだ。仕方なく預け物のカウンターに向かうと恰幅のいい男が前に並んでいる。映画がもう始まってしまう時間だったので急ごうと身を乗り出して見ると、ちょうど男がカウンターの上にごとりと重いものを置くところだった。
それは拳銃だった。どう見てもモデルガンになど見えない金属の重厚感と長年使い込んだと思われる年季。それに男はその拳銃を専用のチェーンで腰に結び付けていた。
「何者?」
そう思ったけれど目の前のこの男にいきなりそんなことを尋ねる勇気なんてあるわけがない。あっけにとられて見ていると男は拳銃をいじって係員の男にじゃらじゃらと小さなものを渡していた。受け取った係員は特に表情も変えないまま数を数え始めた。それはもちろん予想通りに拳銃の弾だった。
男はさらにポケットから小物入れのようなものを取り出して開いて渡す。中には予備のものと思われる弾がずらりと並んでいる。何発分か空になっているのは銃の中に入っていた分だろう。男はノートに記帳し、銃を懐に閉まって悠々と映画館の中に入っていった。
私服警官。それが私の思いついた唯一の彼の職業だった。もしそうでなければライター1つ見逃さないモールの入り口のセキュリティチェックを潜り抜けられるわけがない。それにしたって不思議だし突っ込みどころが多すぎる。まず、実弾をそんな簡単に映画館の預け物カウンターになど渡していいのか?普通に考えたら警官の銃の実弾が一発無くなったら大問題のはずだ。そして非番の日に実弾入りの銃を持ち歩くものなのか。それも弾を預けなければいけないと分かっている映画館になど持ってくるものなか?実は非番じゃなくて勤務中なのかもしれないが、だとしたら大切な商売道具を空っぽにしてラブコメで大爆笑というのはさすがにゆる過ぎる気もする。
一つ確かなのは係員の対応が私が水のペットボトルを預けたときとほとんど同じだったということ。無口なその係員は私の水を実弾の入った小物入れの隣にぽんと置いて半券を渡し、男の記帳したノートに何か書き込んで引き出しにしまった。いつも通りの夜。それすらもいつも通りのヴァラナシの風景なのだ。
これはシネコンではなく、インドの場末の映画館。怪しげなB級映画を上映中 |
タバコ、マッチ、ライター等はその場で半券を渡されて預けることになる。マクドナルドやピザハットの間を抜けてエアコンの聞いた館内をエスカレーターで上る。日本とまでは行かなくともタイかマレーシアの大都会にでもいる気分だ。インドだとは思えない。
チケットを買って映画館内に入るときにもう一度荷物のチェックがある。ここでは外からの飲食物の持込が禁止されていて、水のペットボトルさえも預けなければならない。飲み食いしたければ中の店で買えということだ。仕方なく預け物のカウンターに向かうと恰幅のいい男が前に並んでいる。映画がもう始まってしまう時間だったので急ごうと身を乗り出して見ると、ちょうど男がカウンターの上にごとりと重いものを置くところだった。
それは拳銃だった。どう見てもモデルガンになど見えない金属の重厚感と長年使い込んだと思われる年季。それに男はその拳銃を専用のチェーンで腰に結び付けていた。
「何者?」
そう思ったけれど目の前のこの男にいきなりそんなことを尋ねる勇気なんてあるわけがない。あっけにとられて見ていると男は拳銃をいじって係員の男にじゃらじゃらと小さなものを渡していた。受け取った係員は特に表情も変えないまま数を数え始めた。それはもちろん予想通りに拳銃の弾だった。
男はさらにポケットから小物入れのようなものを取り出して開いて渡す。中には予備のものと思われる弾がずらりと並んでいる。何発分か空になっているのは銃の中に入っていた分だろう。男はノートに記帳し、銃を懐に閉まって悠々と映画館の中に入っていった。
私服警官。それが私の思いついた唯一の彼の職業だった。もしそうでなければライター1つ見逃さないモールの入り口のセキュリティチェックを潜り抜けられるわけがない。それにしたって不思議だし突っ込みどころが多すぎる。まず、実弾をそんな簡単に映画館の預け物カウンターになど渡していいのか?普通に考えたら警官の銃の実弾が一発無くなったら大問題のはずだ。そして非番の日に実弾入りの銃を持ち歩くものなのか。それも弾を預けなければいけないと分かっている映画館になど持ってくるものなか?実は非番じゃなくて勤務中なのかもしれないが、だとしたら大切な商売道具を空っぽにしてラブコメで大爆笑というのはさすがにゆる過ぎる気もする。
一つ確かなのは係員の対応が私が水のペットボトルを預けたときとほとんど同じだったということ。無口なその係員は私の水を実弾の入った小物入れの隣にぽんと置いて半券を渡し、男の記帳したノートに何か書き込んで引き出しにしまった。いつも通りの夜。それすらもいつも通りのヴァラナシの風景なのだ。
文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。