インドと日本はこんなに違う! 新米が好きな日本人、古米が大好きなインド人
■バラナシで自炊したご飯が全く美味しくない
ティラキタを始める前に、バックパッカーをしていた時の頃の話です。2000年頃、僕らはインドのバラナシに滞在し、毎朝シタールの先生の家に通い、ガンジス川の流れを見ながら練習に励んでいました。バラナシには合計で1年以上滞在したと思いますが、それだけ長く滞在すると、困るのはやはり食事です。最初のうちはインドのご飯も美味しいのですが、一ヶ月もすると飽きてきます。
飽きたからと自炊を始める事になり、近所のお店に行って、一番高いお米を買い、野菜も買ってきて、日本食を作り始めました。しかし…炊いているうちから、なんか変な匂いがしてきます。
「ねえ、なんか変だよ」
「お米だよね?」
「そう。なんか、すえたような匂いがする」
「ホントだ…このお米、古米だよ。古いんだよ」
「俺たち、インド人にダメなお米を掴まされたね…」
自分たちで炊いたインド米は、日本のもちもちで美味しいお米とは似ても似つかない味でした。パサパサで、嗅いだことのない変な香りがして、同じお米とは思えない残念なものでした。
「このお米、マズイ!!!」
「本当にマズイ!!」と口々に言い合ったものです。
一番高いお米を買ったのに、最高にマズイお米を掴まされるとは…トホホです。
「インド人め!! あいつら騙しやがった!!」
騙されるのはインドではよくある事なので仕方ありません。
インドでは騙される方がいけないのですから…。
次の日は、別のお店で全部のお米の匂いを嗅がせてもらってから買うことにしました。できるだけ臭くない、白いものを選んでお支払してみると、なんとお値段は前の日の半分くらいでした。匂いのない、美味しいお米の方が安いなんて不思議です。実際に炊いてみると…まだ匂いがするけど、なんとか白米として食べられました。
その夜、宿泊していたクミコハウスの久美子さんに
「インドのお米って美味しくないですよね…」と聞いてみると…
「インドでは古くて、香りがあるお米のほうが好まれるのよ!」と驚愕の答えがやってきたのです。「日本のお米と同じものを期待しちゃだめよ。」、「食べ方も違うのよ。白米では食べないのよ」とも言っていましたっけ。
古くて、香りがあるお米が人気とは!!
嘘でしょ? なんでだよ!!??
■インド人と話してみると…
インドと日本のお米の違い、そして、インド人と日本人のお米の食べ方の違いに気がついた僕ら、何人ものインド人に、質問してみました。「インド人は古いお米が好きなの?」と聞いていくと…ほとんどの人が、「新米は美味しくないわね」と言うのです。また、「香りがないお米は美味しくない」とも言います。久美子さんが言っていた事は間違いではありませんでした。
とすると…臭くてマズいお米が一番高かったパッカー時代の経験は、もしかしたら誠実なインド人が、一番いいお米を売ってくれた結果なのかもしれません。そしてマズイと思ったのは、白米としては向かないお米を無理やり白米として食べようとしたからなのかもしれません。インド人様…ごめんなさい…今になって謝ります!!
ティラキタにお米を卸してくれるインド人に話を詳しく聞いてみる事にしました。
「インドではお米は古ければ古いほど良いとされていますよ。ティラキタに出荷しているバスマティライスは、インドの特別な倉庫で2年以上熟成されたお米です。お米のメーカーによって、そのメーカー独自の熟成方法があって、熟成用の倉庫もあるんですよ。」
「熟成用の倉庫があるんですか!!?」
「はい。ありますよ。 熟成させると、バスマティライスの命とも言うべき香りがより良くなりますし、お米に含まれている水分が少なくなるのでよりパラっとなりますね。だからインド人はみんな、古いお米から買っていきますよ」
「なんで古いお米のほうが人気なんですか?」
「インドにはスパイスがたくさん使われ、ギーなどを使ったリッチな食事が多いですよね。それらはインディカ米に合うんですよ。特にビリヤニ等はやっぱりインディカ米ではないとダメですね。」
なるほどねぇ?
なんでも理由があるものですね。
お米は新米が一番うまいとDNAに刻まれている僕らには、ビックリする話ですが、インド人は「古くて香りのある米」が好きなんだそうです…20年間インドと付き合っても、この話、いまだに納得はできないんですが、そういうものだと理解は出来るようになりました。
まぁ、確かに、ビリヤニには絶対にインディカ米でないとダメだと言う話は、非常に納得です。僕ら、ビリヤニが大好きですが、日本のお米で作ったぺったりしたビリヤニなんて食べたくないですよ。
やっぱり、ビリヤニにはさらりとしたインディカ米です。インドカレーを食べる時も、どちらかと言うと、インディカ米の方が美味しいと思います。
インディカ米とジャポニカ米。香りのないお米と、香りのあるお米。
やっぱり適材適所なんですね。
■一般的なインド米と日本米、そしてバスマティライスの違い
ここでインド米と、日本米の違いについて簡単に説明をしていきたいと思います。日本のお米は御存知の通り、もちもちした短粒米です。それに対して、インドのお米は、パサパサして、米の粒が長いインディカ米と呼ばれる品種です。
インディカ米と一言で言っても、その種類は多岐に渡り、1粒のお米が2cm以上の長さがある超長粒米から、ちょっと太めのもの、細身のもの、日本のお米に近い長さのものなど、本当に様々です。全世界には1万種類以上のお米がありますが、そのうちの多くはインドで栽培されています。実際、インドで食品の見本市に行くと、沢山の種類のお米が、ずらっと並んでいるのを見ることが出来ます。
そして、長粒米の中でも特に品質が良いお米として珍重されているのがバスマティライスです。
よく誤解されるのですが、長粒米=バスマティライスではありません。
バスマティライスとは長粒米のブランドです。
バスマティという名称の由来は、お米に独特な芳香があるところから来ていて、ヒンディー語では「バス」が香りを、「マティ」がたくさんのを意味します。バスマティライスは収量が少なく、インドの中でも1%しか作られていない貴重なお米なのだそう。バスマティライスはインド北部とパキスタンのみで栽培され、「お米のシャンパン」とも言れるのだそう。
ティラキタでもバスマティライスを取り扱っていますが、確かに普通のインディカ米に比べると、お値段は高めです。
■お客様に納得していただくのが難しい
こういう訳ですから、ティラキタで扱っているインディカ米にも、バスマティライスにも香りがあります。これはインドからお米を輸入してる時点で仕方のないことです。ティラキタでは香りがある、高級なお米を扱っております。でも、この話、お客様に納得していただくのが非常に難しい話の一つです。電話がかかってきて、「お前の店は古米を売ってるのか!!」とか、「米に変な香りがあるんだけど」と言われることがあります。
自分がお客様だったらその気持はわかります。
私達ティラキタスタッフも、日本人で、日本のお米が大好きですし、DNAに新米信仰が刷り込まれていますから。
お客様から電話が来るごとに、「インドでは古米が喜ばれ…」と、説明をするのですが「ああ、そういう言い訳なんですね」と逆に怒られてしまう時もありまして。
ですので、今回、ブログとしてちゃんと書こうと思い立ちました。
ちゃんとお客様にお米の特性や背景になる文化を含めて、きちんと説明しようと思った次第なんですね。
実際問題、水気の少ないインディカ米は、ピラフやチャーハンにしたら日本米よりもはるかに美味しいです。どんなものも適材適所ですので、ぜひ、上手に使って頂き、インドからはるばるやって来たお米たちを、美味しく食べてくださいませ。
最後まで、読んで頂き、ありがとうございました。