展示会を追いけて世界を巡る-アフガニスタンの絨毯商人たち

■どの展示会に行っても同じ人がいる
皆さん、展示会には行かれた事がありますか? インドパパは雑貨屋さんという仕事柄、年に何回か展示会に足を運んでいます。展示会って色々なのがありますよね。有名なところではゲームショーとか、ギフトショーとか、モーターショーとか。飲食店関係の方はフーデックスでしょうか。

この展示会、探してみますと本当に色々なものがあります。「え! こんなニッチな業界まで!」とか、「ここには需要がないのではないかな?」と思われるような小さなジャンルにまで展示会があります。

ティラキタも展示会に出店したことがありますので、ちょっとだけ内情がわかりますが、展示会って凄く金食い虫です。1ブース貰うのに40万円くらいかかるのですよね。大きな展示会ともなると何千ブースも出ますので…大きなお金が動くのだなという事がすぐにわかります。

いろいろな国の展示会を年に何回か巡っている中で、インドパパ、あることに気が付きました。

「どこに行ってもいつも同じ人がいる」

のです。最初に気がついたのはインドの食品関係の見本市でした。「パパさん!」と声をかけられてふと振り向いてみると…そこには日本のフーデックスで会ったコルカタのスパイス屋のオヤジが立っていたのです。「なんでお前こんなところにいるの?」と聞いてみたら「ボク、ここでもブース出してるんだよね」と言うのです。

よくよく話を聞いてみるとコルカタ在住の彼は年に何回も海外に行き、ドイツの食品見本市、米国の食品見本市、フーデックス、インドの食品見本市とお客さんが居そうな所を年中転々としているのだとか。

「仕事は何なの?」と聞いてみると、「展示会に行ってお客さんに会うことだよ」との返事でした。「コルカタで社長としての仕事とかしてないの?」と聞くと、「もちろんしているけど、一番重要なのは展示会に出てくることだな」というのです。

コルカタの彼が日本に出てくるのに航空券代で10万円、ブース代で40万円、滞在費で10万円。一回のフェアに出るのに合計で60万円程かかります。展示会で成果がなければ60万円は消えてしまうお金です。60万円ってインドでは凄く大きなお金です。それでも熱心に展示会に出てくるのはやっぱりそれだけのリターンがあるからなのでしょう。

■世界最大の絨毯の展示会

それから程なくして。インドパパ、中国で開かれているDOMOTEXと言う絨毯の展示会に行ってきました。DOMOTEXは世界最大の絨毯の展示会で、世界最大の絨毯の産地トルコ、絨毯好きな金持ちがいっぱいいるロシアと中国、そして西ドイツで開かれています。流石に展示会のためだけにトルコやロシアには行けないので、中国の上海で行われたDOMOTEXに行ってきました。



中国の展示会場。それはそれは広くて…凄く広いよなぁ…と思っている幕張メッセの5倍位の広さがあります。流石大陸の土地です。


このDOMOTEX、絨毯だけではなく、フロア用品の展示会なので、そのほとんどは一般的なフロア関連の商品が展示されていました。僕たちはそんな所は全く関係がないので、素通りします。 中国人が機械で作っているようなでっかい絨毯の会社もありました。手作りの絨毯にしか興味がありませんのでやっぱり素通りします。


10軒ある大きな建物の一番奥に、手織り絨毯のゾーンがありました。手織り絨毯のゾーンにはイランやトルコなどのメジャーな産地からの出店はもちろん、ウクライナなど日本ではあまり聞かない産地からも出展がありました。

当然ではありますが、僕たちはここで絨毯を仕入れるつもりはありません。展示会に出てきているって事は出展料などの値段が上乗せされているってことです。そんな高いものを仕入れて、お客様に高く販売するわけには行きません。また、産地に実際に行って作っている所を確認しないと、ティラキタでは仕入れることは出来ません。

ですが展示会には色々な人達が出てきていますので、国ごとの絨毯の違いや製法の違い、品質の違いを理解するには凄くいい場所であることは確かです。まずは大雑把なイメージを掴んで、それからその国に行ってみる、それがDOMOTEXに行った目的だったのです。

■現代のノマド、アフガニスタンの絨毯売り
色々な国の絨毯を見ていくと、自爆テロや戦争で悪名高いアフガニスタンの絨毯屋さんたちのお店を発見しました。というか、なぜかアフガニスタンのブースは大きくて、合計で20ブース社以上出展してきています。政情の悪いアフガニスタンからわざわざやって来て、ビジネスとして成り立つのだろうか…そんな興味を元に、色々聞いてみました。

「ねえねえ、今回はアフガニスタンから来たの?」
「そうだよ。カブールから飛行機で飛んできたんだ。」

「カブールから!! 危なくないの?」
「カブールの中心部はそんなに危なくないよ。通訳の彼女も以前、2週間位カブールに滞在していたんだよ」とハメッドさん。

「ねえねえ、今回の出店料ってどれくらい?」
3000ドル位かな。」

「その他にもイロイロな経費がかかってるでしょ? 絨毯の関税とかはどうなっているの?」
「先に何枚輸入するか中国政府に言っておいて、売れた分だけ払うんだよ」

日本の展示会では基本的に販売禁止のところが多いのですが、それはきっと、日本では展示会用に輸入するには関税が一切かからないからでしょう。中国の展示会では販売できるそうですが、売れた分だけ関税を支払う事になっているのだそうです。

「カブールにお店あるの?」
と聞くと、
「もちろんさ、カブールの中心部にお店があるんだよ。でもカブールではあまり売れないから、色々な展示会を廻っているんだ。米国、ドイツ、トルコ、ロシア…そして中国。いろいろな国に行くんだよ」

「それって航空券払って、ブース代も払っていくんだよね?」

「もちろんさ。色々、高いんだよ。儲からないよ」

「でも、いろいろな国に行けるってことは…」
「そりゃ、まぁ。そこそこは儲かるさ。大体一回目は儲からない。荷物全部持っていかなきゃいけないからな。でも2回めからは儲かるんだ。一回行った国にはストックがあるからより効率的に販売ができるんだ。」

「あー、なるほど! 一度空輸したものは持って帰らないんだね」
「もちろんだよ。もったいないじゃないか。現地で住んでいる人がいるともっといい。車とか、倉庫とか、いろいろな面で助けてもらえるからね。」

どこかの国で良さそうな展示会があると聞けば、大金を払って航空便で出かけて行って頑張って販売してくる。聞いてみれば、今週は上海、来週は米国、翌月はドイツのハノーバーに行くのだとか。一ヶ月のうちに中国に米国にドイツ!! 目の回るような忙しさです。


よく考えてみると、彼らがやっている事は全世界を股にかけた展示会ビジネスなのでした。自国には観光客は来ない、でも販売する商品はある。そうしたら、自分で頑張って世界に出かけて行って販売するしかないのでしょう。これは先進国と第3世界の格差を解消する手段の一つなのであり、いわば現代の行商の姿なのでした。

アフガニスタン人達は片言の英語を操り、自分の身一つで頑張って世界に出かけて絨毯を頑張って販売しています。知らない土地に行って商売するってとっても大変な気がします。「君にできるか?」って言われたら「ゴメン、ムリ!」って言ってしまいそうです。 「明日ドイツに行って、ドイツ人に日本の畳を売ってこい!」って言われているようなモノですもんね。

そのエネルギー、その行動力はただすごいとしか言いようがありません。今の日本で日本人の誰が、自分の身一つで世界中の展示会を廻るという事をやっているでしょうか。1970年台にはそんな話があったとも思いますが、今、そんなガッツのある日本人は本当に数少ないのではないでしょうか?

仕事がなければ作ればいい。モノが売れなければ欲しい人の所に持っていけばいい。飛行機に乗っていけば、そこには市場が広がっている。それはわかっちゃいるけど…居心地のいい日本にやっぱり居たいかもってちょっと思っちゃいます。

このグローバル化の時代、そんな弱腰じゃ、俺達負けちゃうぞ!と強く感じたのでした。

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