天空の湖と崖の寺院 – 世界で一番危険で、一番美しく、一番聖なる場所への旅(中編)
「スピティ・キナウル谷へ ? 世界で一番危険で、一番美しく、一番聖なる場所への旅(前編)」
目次
■前回のあらすじ
旅仲間から聞いた「標高4000m以上の高地にある美しい僧院」を求めてインドのヒマラヤの奥地に旅をする事になった。いだっち、ルミ、しずく、ショタソ、そしてボクの5人で車をチャーターし、直線距離100Kmの道のりを往復6日間かけて行くことになった。
直線距離100Kmに6日間もかかるの?と疑っていた一行だったが、旅を始めるにつれ、その理由が徐々にわかってくるのだった
■3日目:一夜明けてみるとそこはチベット高原だった
降るような星空は本当に素晴らしかったのだけど、気温が5度以下だったため、星の写真を真剣に撮影したいと言ういだっちだけを屋上に残して、僕らは早々にベッドへ。デリーは45度にもかかわらず、同じ国の中で5度とは!! 寒すぎる!! インドって広すぎる!!
そして朝起きてみると…そこはすっかりチベット世界。白い雪を被った標高5000mを超える山々に、まだ作物の植え付けをしていない茶色の段々畑。人間が植えた木以外には砂と岩しかない荒涼とした世界が広がっていました。
宿の反対側に行ってみると、チベットの祈祷旗であるタルチョーが掛けられていました。
目の前にチベットレストランがあります。ちょっと行ってみることにします。
ここ、ナコは標高4000mの高地だけに、ちょっと階段を昇り降りするとすぐに息が切れます。「レストランに行くよー」ってみんなを呼びに行くのだけで心臓はバクバク言って、息が切れます。
出てきた料理は…これはツァンパのおかゆ。ツァンパとは麦こがしの事で、チベット高原のような高い標高でも栽培できるオオムギをあぶってから挽いた粉です。伝統的なチベットの人々の食べ物で、粉のまま食べたり、この様に塩バター茶でおかゆにして食べたりします
そしてこちらは、とっても珍しいチベットのうどん。日本のうどんのように長くなく、10cmくらいの長さでしょうか。お味の方はというと、だしや醤油ではなく、お砂糖をかけて頂きます。うどんにお砂糖って…これが結構合うのでビックリしました
■岩と土で作られた家々
朝食を食べたので、ナコの村を見て廻ることに。体調を悪くしているデールを宿に置いて、みんなで出かけます。一歩、村の中に足を踏み入れてみると、20年前に読んだ藤原新也の「チベット巡礼」そのままの世界が目の前に広がっていました。車の横をテクテク歩いて行くロバ
車の中にはソーラーマニ車が置かれ、その横には仏像が。そして奥には白い雪を抱いたヒマラヤの山々…そうだよ! 俺はこういう所に来たかったんだよ!!
家の横の小道を通るとまた素敵な家がありました。石と、土と、少量の木材しか使っていない手作りの家。土地にある材料をフルに使い、自分たちで一つ一つ家を作っていくとこういう家ができあがるのでしょう。
もう、雰囲気あり過ぎでヤバいです。こんな所がまだ世界に残っているだなんて夢のよう…
村の中、どこに行ってもこんな感じ。石と、日に焼けて白くなったタルチョと、手作りの家と。素敵すぎて胸がときめきます。
石にはひとつひとつ丁寧にチベットの祈りの言葉であるオンマニメペフムが彫り込まれています。この様なオンマニメペフムが掘られた石をマニ石といいますが、この山になっているマニ石を全部掘るのには一体どれだけの時間がかかっているのでしょうか…
家の敷地の一角でナコの女性が洗い物をしていました。
ロバがちょこんと首を出して外を眺めていました。
小さな子供が遊ぼうって出てきました…。ああ、もう。
本当に何もかもが素晴らしすぎる!!
僕達、旅人はこういう所に来る事を夢見て、旅していたんじゃなかったかなぁ。
村の外れには建築されてから何世紀経過しているか分からない古いストゥーパ(仏塔)がありました。横にはソーラーパネルが設置され、伝統と現代がMixしていました
小さな祠を発見したので中を見てみると…ただひたすらに古く、伝統的であり、人の気配を感じる煤け具合。長い長い歴史を感じます。あまりにも素敵すぎて言葉が出ません。
チベット寺院の屋根の上には法螺貝を吹く僧侶たちの姿がありました
オバちゃん達が農作業へ行くのでついていくと…
そこにはブラウンのモノトーンの田園風景が展開されていました。
■魔法のように美しい天空の湖
丘の上に湖があるというので、みんなで行ってみることにしました。この水源を辿っていけば10分で行けるとのことです。とは言うものの、標高4000mの世界ではその10分の上り道が非常にキツいのですが…さっきまでの雲が晴れ、景色はより美しくなってきました。まるで絵の中にいるみたいな素晴らしすぎる景色です。
湖がありましたが…確かに美しく、標高4000mの天空の湖ではあるものの、出発前に写真で見たのはもうちょっと綺麗だったはず…と思っていたら、写真家のいだっちが「違うよ、ここはこう言う風に撮るんだよ!」と。
指導の下に撮れたのがこちら…湖に空も雪山も両方写って本当に美しい。
これこれ!! これ撮りたかった!!
流石カメラマン!!! なるほどねぇ…写真って魔法だね!!
■景色は雄大だが、道は世界一危険
ナコがあまりにも素晴らしいのでもう一週間くらい滞在したい所なのですが、日程が6日間しかないため、泣く泣くナコを離れて次の目的地のダンカール・ゴンパへと向かうことにしました。外に見える風景はあまりに雄大でカメラにも全く収まらず…この写真、右下くらいにちょっと集落が写っているんですが、本当に崖にへばりつくようにしてみんなが住んでいるのが判ります。
さて、車の中はどうかというと、昨日に引き続き延々と世界一危険な道路が続いていて、その危険度はどんどん増すばかり。
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こんな崖、マジ生きた心地しないよ!!
しかも道路幅が1台分ギリギリしかないんだ。
超怖い…もっとマシな道路はないんですか…こんなトコ行くの嫌なんだけど…
景色があまりにも火星すぎて、何枚も何枚も写真を撮るのだけど、さっぱり写真では伝わりません…写真の限界を感じます。
山の上の道が終わり、河原沿いに降りていく道路。当然ですが、日光のいろは坂よりももっともっと急だと思います
破壊されているトラックがありました。このトラック、どうしてこうなったのかなぁ…
河原沿いに降りたら、埃っぽさがどんどん増すばかり。山も土色なら、川も土色で、空気にも土の微粒子がまじり、どこもかしこも霞んでみえます。もう3日間もずっとガタガタ&危険な道路…正直、感覚がマヒしてきます。
道路修理の人夫さんとトラックが居ました。
彼らは元々真っ黒な人たちだけど、日々の炎天下での労働でもっと真っ黒&ホコリだらけになっている気がします。
電柱が斜めになっていました。電柱はギリギリ川へ落ちるか落ちないかの、寸前の所で踏みとどまっています。きっと、道路が崩壊して、こうなったのでしょうねぇ。僕らが走っている時に落ちず、本当に良かった良かった…
崩落箇所を通行可能にするために、緊急の道路工事部隊が出動していました。
彼らの必殺道具は何かというと…ダイナマイト!!
崩したい崖に大きなドリルで穴を開けて…
ガリガリ!! ドガガガと何本もの穴を開けてゆきます
そしてダイナマイトを穴に入れ、電線をセット!! 日本だったらとっても慎重にやるのでしょうが、ここ辺境の地では毎日の事らしく、自然に、無造作に作業していました
これは発破後のガレキを河に落っことして車が通れるようにしている所。モウモウと土が上がっています。
一連の流れを見ていくと、辺境の地での道路工事は「発破して、ガレキをブルドーザーで河に落とすだけ」と言う至極単純な方法で行われていることが判ります
そんな中、同行者のルミちゃんがなぜか、イケてるおじさまと記念撮影を始めていました。
「ルミちゃん、何してるの?」
「ベリーダンスのフライヤー写真に使えないかと思って」
「え!!」
ダイナマイトを装填している横でアーティスト写真を撮る人、初めて見ました…
走りだしたら今度は土石流に押し流された橋を発見。この辺境の地では、道路を維持するのがまず大仕事のようです。
壊れた橋を何とかするために集まっている人々。きっと、道路を直すと政府からお給料が貰えるのでしょうね。
そしてまだまだ世界一危険な道路は続くのでした…
もう、イヤだよ!! 安全な道路走りたいよ!!
■崖の上の寺院
数時間も走らないうちに、次の目的地ダンカールゴンパへ到着。標高3500mを超える崖の上にあり、岩山に寄り添うようにして白い僧院が建てられていました。
このゴンパの歴史は非常に古く、11世紀にグゲ王国の僧が修復したとの記録が残っていることから、建立はもっと遡ると考えられる。言い伝えによれば、ヒマラヤの山々が8つの蓮の花弁の形をしてゴンパ(僧院)を囲んでいるのだそう。
ゴンパのある集落もまた、崖に寄り添うようにして生活しているのが見えます。いつ崖崩れになるかも分からず、水道もないこの村で人々は太古の昔から同じ生活をずっと続けています。
ゴンパの前では、最高にカッコいいオジさんと孫と思われる息子さんが2人でインド製のバイクの横で佇んでいました
ゴンパの中に入ってみると、外のモノトーンの世界からうって変わって、内部は極彩色のマンダラ世界へ
ギーランプに灯明が灯され
土で作られた建物本体部分と朱色の木製ドアの組み合わせは一朝一夕では容易に出せない、年月による渋さを出しています
誰が、いつここに掛けたのかもわからないマンダラ達…まるで風の谷のナウシカの中に出てくる僧院に入りこんだかのような特別な瞬間
奥にあるガラス張りの戸棚は経典入れ。何世紀も前から連綿と受け継がれている貴重な経典が安置されています。
土と木で作られたゴンパの中は暗く、しかしその暗さ故に美しく、えも言われぬ神聖な雰囲気を醸し出していました。
■そして目的地の一つ、カザへ到着
ダンカールゴンパから3日目の宿、カザまではほんのちょっと。車窓から見える風景は更に美しさを増し、まるで魔法を見ているかのよう。
ただ美しく、ただ険しく。標高4000mを超える極限高地の、極限ならではの美しさは、そこにヒマラヤの王シヴァが住んでいるかのようでした。
カザに到着して喜ぶみんな。俺たち3日間の世界で一番危険な道のり、やりきった!!!
「やったー! カザに到着!!」
「遂に到着した!! 明日は最終目的地だ!」
「でも、まだ帰りがあるんだよね?」
「それは言っちゃダメー―!!!!」
そしてナコで体調を崩し、頭が痛くなったデールはと言うと。
「吐き気がする…すっごく気持ちが悪くて、頭も痛い…」
と更に体調が悪い様子。どうしたのかなぁ…マナリで遊び過ぎたんじゃないかなぁ…
長い長い旅行記、お読み頂きありがとうございます!!!
最後の後編、来週またお届けします!!
お楽しみにーー
最後は
「世界で一番危険で、一番美しく、一番聖なる場所への旅 - 神々の住まう美と最果ての寺院編」
です
素晴らしい写真と動画をありがとうございます!
臨場感あふれ、空気も感じることができました。
PCの前でこういう体験できるとはいい時代になりました。。。
またレポート楽しみにしております。
わくわくしながら読みました。
命を賭けた壮大な旅をレポートしてくださって本当にありがとうございました!!!
わたしも行ってみたいです。
読んでいただいて、有難うございます!! 今、やっとこ後編が書き終わりました。
いやーー、長かった…
この話、あまりにも書くことがいっぱいで、どのように纏めようか本当に苦しんだのですが、なんとか書き上がりました。
楽しんでいただければ幸いです。
素敵なコメント、ありがとうございます!!
こう言っていただけると、本当にやる気が出ます(^^)