甘さの波動砲


これが噂のインドスイーツだ!!
インドのお菓子は甘い。どれくらい甘いかと言われても日本にあるお菓子とは比べ物にならないので例えようもない。そんなお菓子がインド人は大好きで、そこら中にお菓子屋さんがある。

買いに来ているのは子供や女性だけではない。むっちり濃い顔をした成人男子たちもこのお菓子がどうやら大好物のようで、いくつか買ってはその場で一つぱくっと口の中に放り込んで歩き出す人もいる。そんな様子をしょっちゅう見ているからか旅人の間でもこうしたインドのお菓子は普通のスナックやチョコレート程ではないにせよ人気で、中には本当にハマってしまう人もいる。

そんなハマってしまった人から美味しい人気店を聞きだし、実際に買いに行ってみるとお店の前は人だかりができている。家族連れはもちろんリキシャワーラーからなぜかサドゥーまでカウンターの前で楽しそうに話をしている。カウンターは陳列ケースになっていて20種類程度のお菓子が整然と並べられている。形は落雁のようなひし形のものもあればココナツをまぶした丸いボール状のものもある。シロップにつけられた茶色いボールは見ているだけで口の中が甘くなってきそうだ。そして匂いに釣られたのか、ケースの中には何匹もの黄色と黒の鮮やかな模様の蜂が興奮した様子でぶんぶんと飛び回っている。

おとなしく後ろで待っていてはいつまでたっても注文できないので


スイーツショップにアリのようにたかるインド人たち
「スニエー!!(すみませ?ん!!)」
と前の人を押しのけるようにして大きな声で叫ぶ。

「これとこれとこれちょうだい!!」
店員の目を見て明確に指差ししながら気に入ったお菓子を選ぶ。

ちゃんと店員が「アッチャー。」と答えるまで目は離さない。

日本じゃ絶対やらないような失礼な行為に見えるけれど、他の人に負けないように主張しないと欲しいものにちゃんとありつけないのがインド流だ。

買って帰って早速食べてみるとこれがもう、ものすごい。一口かじった途端に甘さが口の中の隅々まで一瞬で濁流のように駆け巡る。そして中はおおむねたっぷりシロップが封じ込められていて甘さの密度がさらに濃厚になる。もうここまでくると甘さがべったりと喉に張り付くほどだ。ものによっては本当にシロップがぽたぽた垂れてきてしまうようなものまである。服や床に垂れると間違いなく蟻が列を成してやってくるので大変だ。お皿を用意し忘れようものならそのまま丸かじりするしかなく、そうなったら頭の中は「甘い!」の大きな文字でいっぱいになる。

それなのにこれが癖になってしまう。濃厚な甘さが暑さや疲れで弱った体に直にしみ込んでくるのを感じるのだ。一度体がそれを知ってしまうと大盛りのターリーを食べた後でも帰り道でデザートにと1つ2つ所望してしまうのだ。インドで旅人が思いがけず太ってしまう理由の一つというのも頷ける。

しかし不思議なのはあれだけ種類があるのに味のバリエーションがせいぜい3種類(もちろんどれもものすごく甘い)しかないこと。素材は小麦粉かなにかとパニールとミルク、砂糖に蜂蜜、そこにものによってそこにナッツやココナツ、マサラが入るけど大体その組み合わせと配分の違いのように感じる。あんなに種類をたくさん作る必要があるのかどうしても分からない。

でももしかしたらインド人は我々には分からないそれらのお菓子の味わいの微妙な違いをあの猛烈な甘さの中で味わい分けているのかもしれない。だとしたらその味覚の繊細さには全く降参である。


嬉しそうにお菓子を選ぶインド人と一緒にそれでもお菓子を買ってしまう。食べてみて
「また一緒だ?!!」
と言いながらも新しいお店を開拓してはいろんな種類を試してしまっている。インドのお菓子の甘さの中にはそんな不思議な魔力があるのだ。

文章:DJ sinX(しんかい)
日本での7年のDJ活動の後、世界各地でプレイするべく2007年から旅を始める。オーストラリア、東南アジアを経て現在インド亜大陸へ。活動はDJだけに留まらず、音楽イベントの開催、「Thanatotherapy」名義にて楽曲作成なども行う。
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